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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2018.07.12 公開 ポスト

「自分もやらかすかもしれない」と
思いながら生きていく。カレー沢薫

私は、軽率にソシャゲを初めて軽率に投げ出すマンであり、Fate/Grand Orderは珍しいぐらい続いているゲームである。あと刀剣乱舞なども好みのキャラが出たり、推しキャラに動きが出た時はやっている。
よって結構いろんなゲームをかじってきたのだが、先日、昔ちょっとプレイした女性向けゲームが炎上しているのをツイッターで見かけた。

私は炎上案件からは目を逸らしたいタイプである、5000億パーセントどんよりする上に、自分に出来ることがないからだ。
現実の社会問題ならどんなに暗い気持ちになっても目を逸らしてはいけないこともあるかもしれないが、オタク界隈のもめ事というのは見にいったところで、本当に「鬱になった。以上」で終わることが多い。

二次元のみならず、好きなことで落ち込む、というのは辛いものである。
仕事で嫌なことがあっても、仕事自体が嫌なことなので「会社で嫌なことがあった」というのは「吉牛に行ったら牛丼が出て来た」ぐらい当たり前のことである。

しかし、好きなこと、趣味、というのは基本的に楽しい事しかないはずなのだ、そこで嫌なことが起こるというのは「吉牛行ったら牛に食われた」ぐらい衝撃であり、落ち込む。

自分の天国に地獄が存在しているところなど、見たくないのだ。
しかし、どんな分野だろうと、人が関わっている以上、地獄になり得る。特に二次元界隈は割と地獄が起りやすいジャンルである。
オタクと言ったら超文科系のイメージがあるかもしれないが、実はサイヤ人級の戦闘民族であり、しょっちゅう「屋上行こうぜひさしぶりに…キレちまったよ…」とやっているのだが、ひさしぶりどころか昨日も屋上に行っていたりするのである。
各々こだわりや、細かいローカルルールがある世界なので致し方ないといえば仕方ないのだが、問題はオタク界隈の「屋上」はヤマト建設の屋上ではなく多くの場合「インターネット」だという点だ。
インターネットと言うのは、とにかく広まるのが早く、最初はタイマンだったものが、あっという間に戦争になり、気づいたら金太郎が社員全員にボコられている、という構図になっているのである。

二次元界隈だけでなく、世の中全体が「『叩いていい』人に認定された者には容赦ない」社会になってきている。
これは、どこでもあることで、会社でも「ムカつく上司」や「ウザいお局」など「悪口を言っていい人」が一人は存在するものである。
しかし悪口を言って良い、と言っても直接言いに行く人はほとんどいない、大体が給湯室での「陰口」止まりである。

しかしインターネットで「叩いていい人」になると「会いに行けるアイドル」と同じノリで「直接叩きに行ける叩いて良い人」になってしまうのだ。
自分に匿名性がある上、相手の顔も見えず、相手が人間だという意識すら希薄になるため平気で罵詈雑言を言えてしまうのだ。
インターネットというのは何でも「やりやすい」
私のようなコミュ症でも、ネット上なら簡単に人とコミュニケーションがとれる、だがそれと同じように簡単に人を傷つけることができる。

「やらかした方に非がある」というのも最もだろう、しかし私が炎上案件から目を逸らしたい一番の理由は「やらかした側」に感情移入してしまう、という点だ。つまりいつ自分が「やらかす」かわからないからである。

「やらかした人」というのは確信犯の場合もあるが「悪い事とわからなくてやってしまった」と言う人も多々いるのだ。
「常識で考えればわかるだろう」と言われるかもしれないが常識だって学ぶものである、中二の時「これはダサいこと」とわかって眼帯と包帯を身に着けていた奴などいたいだろう、人間だれしも「わからずにやってしまう」ことがあるのだ。

わからずにやらかしている人がいたら、誰か勇気ある人が指摘し、それで反省し「もうしません」と言えば、この件は終わりで良いはずだが、インターネットではそうはいかないのだ。

「お前は1回やったからもう終わり」なのである。

鬼畜マリオ仕様なのだ。1ミスで「GAME OVER(ガメオベラ)」となり永久追放なのである。

これを自分に当てはめると恐怖でしかない「自分は絶対やらかさない」なんてこと絶対ないのだ。
それでやらかしてしまったら、どんな謝罪も弁明も許されず、お前は推しにとって害悪なものとして、追放され、生きる糧を失うのである。
「同担を16人殺した」と言うのならそれも仕方ないが、1回の過ちに対する罰としてはあまりにも重い

そうなると「推しの話などやめよう」ということになってしまう、推しの話をすると推しを奪われる恐れが出て来てしまうからだ。
そんなの「息をすると死ぬ恐れがある」みたいな話である。

息抜きだった世界が「息苦しい」というのは辛いことである。
もともと自由にhshsprprできる世界だった、ということを思い出したい。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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