処女作の『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』が、「面白すぎる」「わかりやすすぎる」「なんじゃこりゃー」と、東大生からも、歴史の先生からも驚愕&絶賛された房野史典さんが、今度は「幕末」を料理しちゃいました!
イマドキの言葉で書かれた房野さんの文章は、「マンガのようにするする読んでいるだけで、戦国時代の複雑な人間関係や、ころころ変わる勢力図が、どんどん頭に入ってくる!」と評判だったわけですが……。
みなさんご存知かどうかわかりませんが、戦国時代以上にややこしいのが、幕末なんです!
しかし、房野さんにかかれば…………
はい!面白い!
一気に読めちゃう幕末物語、8月24日に『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』というタイトルで発売されます。
このたび新刊発売にあわせて、入稿した原稿を、一から全文公開します!!
初回は“時代の基礎知識”から。
「これだけ知っておけば、もう、つかんだも同然!」の回です。さあどうぞ!
敷かれたレールの上を歩いてたら、ブッ壊れ始めたんです
では、“幕末エピソード0”です。
ここでは、
「聞いたことあるような、ないような……で、これ何?」
って事柄を、説明していきますね。
今からお話しすることを知っとかないと、幕末というゲーム、一面もクリアできません(たぶん)。
まず最初は、
「江戸時代とか徳川幕府とかって、マジ何のこと?」
です。
話は、今から500年以上前までさかのぼります(さかのぼらせてね)。
日本全国に"戦国大名"と呼ばれる武士が現れて、「日本国内ずっと争いが続いてる」ジョータイの、"戦国"という時代がありました。
で、そんな時代にピリオドを打ち、「これに勝った方が、天下治めるんじゃね?」の戦いが行われたんです。それが
関ヶ原の戦い
って呼ばれてるやつ。
これでバトったのが、
徳川家康さん率いる《東軍》
と
石田三成さん率いる《西軍》
です。
その結果は、
勝者=家康さん率いる《東軍》
でした(この辺は、『超現代語訳 戦国時代』をお読みください。宣伝です)。
そこから、戦いに勝った家康さん、「土地を分けるよー」の作業を行うんですね。
家康「はい西軍のみんな並んでー。君たちは戦いに負けたから、土地をケズります。もしくは全部ボッシュー」
西軍のみんな「え~~~! マジかよーー!」
家康「はい今度は東軍のみんな。みんなは頑張ってくれたから、土地を増やしてあげます」
東軍のみんな「イッエーーーーイ!」
ま、こんな感じ(カンタンに言うとですよ)。
そして、関ヶ原の戦いから3年後、家康さんはドラマなんかでもよく聞く、やたらエラいやつ
征夷大将軍(武士のトップだよ)
に任命されます。
で、"江戸"ってところに、
幕府(今でいう政府だねー)
を開く。
これで《徳川幕府》完成。
《江戸時代》のスタートです。
ただ、《幕府》がわかっても、これ知らなきゃ、幕末が前頭葉を上すべりしていくので、覚えといてほしいのが
藩(はん)
ってやつです。
こちら、今でいう"都道府県"みたいなもん。
支配するエリアと、そこの組織のことを、"藩"って言ってたんです(長州藩とか薩摩藩とか言うアレ。当時、公式には"藩"って使ってなかったらしーけど)。
なので、藩と幕府を現代に置き換えると、
藩→地方自治体
幕府→行政はもちろん、法律も作るし、裁判もやる、とにかく権力がここに一点集中の、スーパー内閣
という感じになります(あくまでたとえね)。
藩と幕府の関係性は、「全国にそこそこ強ぇーやつらがいて(藩)、それをまとめてるイッ……チバン強ぇーやつ(幕府)がいた」でほぼあってます。ちなみに、このシステム《幕藩体制》っていうよー。
んで、声を大にして言いたいのはここから!
さきほど藩は、「都道府県みたいなもん」とほざきましたが、あくまで"みたいなもん"です。
現代の都道府県と違って、そこには"種類"があり、"差"がありました。
その種類は、"徳川家康基準"で作られており、家康の……
一族んとこ!→ 親藩(しんぱん)!
家来んとこ! →譜代(ふ だい)!
ごく最近家来になったとこ! →外様(とざま)!
ってカテゴリー分けがされています。
【カテゴリー1:親藩】
こちらは、徳川家康のお子さんや一族が藩主(=殿ね!)の藩です。
中でも、家康の子供が初代をつとめた
徳川御三家
ってところは、特別扱いスペシャル親藩(尾張藩、紀州藩、水戸藩だよ)。
なんでスペシャルかって、「おい! 今の将軍に子供いねーぞ!」って緊急事態のときは、この御三家から養子が届いて、将軍になっちゃうからです(デリバリーされてたわけじゃないよ)。
さらに、江戸時代の途中に、「おい! 養子出すとこ、増やしといた方がいいんじゃねーか!」って理由で、御三家みたいな"家"が3つ増えます。
「聞いたことねーよ」って言われるの覚悟で書きますが、
御三卿(ごさんきょう)
というやつ(田安家、一橋家、清水家だよ)。
あまり知られてない御三卿かもしれませんが、この中の一つが、実は幕末に深く関わるお家なんです……。
どーれだ。
【カテゴリー2:譜代】
譜代は、家康さんのお家にむかーしから仕えてきた家来が、藩主(=殿だよ!)になった藩です。
【カテゴリー3:外様】
一方、関ヶ原の戦い前後に、家康さんに従ったとこを《外様》って言います。
現代でも「よそ者」みたいな意味で、"外様"って使われますが、まさにそれ。
おんなじ外様でも、
関ヶ原の戦いの前や最中に「やっぱ家康さんスゴいや! 家来にして!」ってとこと、
関ヶ原の戦いに負けて「負けたんで……仕方なく従いまーす……」ってとこは、多少違いがあるんですけどね。
さて。幕府の政治をやっていのは、将軍と、この中の藩のお殿様なんですが、さて、どの藩でしょうか?
それは……譜代なんですよ。
なんか親藩の方が偉いっぽいから、幕府のことやってそうなイメージですけど、実は譜代なんです。
譜代は
老中(今で言う〇〇大臣)
や、
若年寄(老中の次に偉い)
というポジションになれる資格がありました。
かたや、親藩と外様の藩主は、幕府の政治にいーっさい関わらない。てか関われない。
これ、なーんでか?
それはね、徳川家が、
〈地方大名の頃からのやり方を、天下取ったあとも続けてた〉
から。
戦国時代、徳川の家の政治や経営をやってたのは、当然、家康とその家来ですよね?
徳川さんてば、全国統一したあと、そのやり方をそのまま大きくしちゃいます。
だから、幕府の政治をやるのは、徳川家のトップ(将軍)&家来(譜代)になった、というわけです。
これ、現代で考えても「あ、まーね」となります。
どこぞの社長を想像してみてください(社長の方はご自分を当てはめて)。
会社を動かすのは、社長(将軍)と社員(譜代)。
社長の子供たちや親戚の人(親藩)は、当然その会社の経営とは無関係ですよね(一族経営やコネ入社は別ね)。
ましてや、最近知り合った外部(外様)の人になんか、経営を任せるわけありません。
これとまったく同じ原理です。
幕府の政治をする権利を、親藩、外様に、一切与えない。口出し無用。
このルールを守り続け、200年以上むっちゃくちゃ強い権力を保っていたのが、徳川幕府という機関……声を大にしたんで、是非覚えといてください(文章なんでカロリー使ってませんが)。
以上、『幕府と藩。切っても切り離せない互いの慕情』でした。
さて、ここまでは全部"武士"のお話。
幕末には、そうじゃない人たちも大いに絡んできます。
お次は、
「《朝廷(ちょうてい)》って………………なに?」
です。
朝廷ってのは、天皇をトップとした、公家(く げ )(貴族さん)たちがいる政府のこと。
ん? 幕府も政府で、朝廷も政府?
政府が2つあったの?
あったんです。
おじいちゃん(誰かの)「遠い昔、政治は朝廷が行ってた。でもね、日本の歴史に武士が登場すると、政治をする権限が、武士のほうに流れていっちゃったんだ。ショギョームジョーだね」
孫(どこかの6さい)「じゃ、朝廷ってなくなったの?」
おじいちゃん「いいや。朝廷はちゃーんと残ってたよ。役職や地位……これを官位っていうんだけどね、官位を授けるのは、朝廷であり、天皇だったんだよ。それは、戦国でも幕末でもずっとそう」
孫「そうなんだー。今でも、内閣総理大臣は、民主主義的に選ばれるけど、任命するのは天皇だもんね。そんな感じ?」
おじいちゃん「そ……すごいね……確かにそんな感じだよ。幕末でも、朝廷は政治をやってなくて、幕府に任せてたんだ。言い方悪いけど、当時の朝廷は、『勢いはなくなったけど、ずっと残ってる老舗ブランド』、そんな感じだね」
孫「では……」
おじいちゃん「では!?」
孫「では、本来でいえば、『将軍も、幕府という政府機関も、全国の武士全員も、みんな朝廷に仕える身で、天皇の家来』ということですね」
おじいちゃん「……もう気持ちわりぃよ……大正解だよ……。本来はそうなんだけど、政治をしてたのは幕府で、権力を振りかざすのも幕府だったんだ。学校の部活とかでも、『定年間近、かつスポーツの知識ゼロの美術の先生が、バスケ部の顧問』みたいなことあるでしょ? 形上、先生はバスケ部の監督だけど、ホントにその部を仕切ってるのはキャプテンなんです、的な。練習メニュー考えるのも、試合中の指示も、そのキャプテンが全部やる。 まあ、それと似てるかもね」
孫「んー……部活よくわかんない……」
おじいちゃん「そこは6歳かい!」
孫「あ! スラムダンクの藤真ってこと?」
おじいちゃん「おじいちゃん、それ知らねーや」
というのが、朝廷と幕府の関係性でした(わからなかった方、ここですよ、ネットの出番は)。
続いては、"単語"。
とんっ……でもねー頻度で登場するから、こいつらだけは、もー先に解説します。
【尊王(そんのう)】
天皇を敬うという考え。これ本編でメッチャ出てきます。
【攘夷(じょうい)】
“夷”っていうのは、"夷狄(い てき)"っつって、外国人のことです。外国人を攘(はら)う。つまり、「外国人を追っ払え!」ってことですね。「外国人を襲撃しろ!」も攘夷だし、「結んだ条約を解消しろ!」も攘夷です。いろんなパターンの攘夷がありますが、とにかく「外国や外国人を入れないし、入ったら追い出す!」って考えを攘夷と言います。これも本編でメッチャ出てきます。
【尊王攘夷】
尊王と攘夷の合体技。「王(天皇)を尊び、外国の人を追い払え!」って意味。まんまです。何を隠そう、本編でこれが一番出てきます。この考えを持った人を《尊皇攘夷派》とか、略して《尊攘派》なんて呼んだりするんで、要チェックです。
幕末ってのは、やたら
「攘夷だ! 攘夷!」
って言葉が飛び交い、
「もう幕府なんかに政治を任せてらんねー!」
という展開になっていきます。
ネタバレちっくですが、そもそも歴史って全部ネタバレしてるもんなんで。ええ。
ちなみに、《鎖国》や《倒幕》といった重要ワードは、エピソード1以降でご説明したいと思いますので、乞うご期待。
それでは最後に、幕末を色濃く彩った"藩"のバックボーンをご紹介して、エピソード0に終止符を打たせていただきます。
【薩摩藩】
現在の鹿児島県あたりや、沖縄県(琉球王国)も支配下に置いた藩です。
藩主の「島津」さんてのは、戦国時代に、九州統一目前まで迫ったちょーやり手。関ヶ原では西軍についちゃったんで、負けた側です。なので、家康さんから土地を減らされることに……なってません。
これが、なってないんです。
ハイレベルな交渉を繰り返し、家康さんに、
「もう……じゃいいよ! 島津くんとこの土地はそのまま!」
と言わせちゃいました。
西軍の大名がバシバシ土地を減らされる中、唯一自分たちの領地を守りきったミラクル集団……。
そのおかげで、薩摩は全国の中で、No.2の石高を持つ藩になります(とにかく"でっけー藩"て覚えれば大丈夫です。ちなみにNo.1は加賀(か が)藩ですよ)。
それが幕末まで続き、特に力を持つ藩となった……。
これが、薩摩藩です。
【長州藩】
現在の山口県を治めたのが長州藩です。
戦国時代、安芸(広島県)に毛利元就(もうり もとなり)というカリスマが登場して、中国地方ほぼ全域を治めちゃいます。
その孫の輝元ちゃん、関ヶ原では西軍の総大将をやっちゃったから、
家康「はい、減らすー」
フツーに土地減らされます(もしかしたら減らされないかも? って瞬間はあったんですけどね。やっぱダメー)。
しかも、グヮバッ! と減らされて、元の領地の約4分の1になってしまいました。
そのことがあってか、外様の藩として江戸時代を過ごす長州藩には、「これよっぽど恨んでるよ……」ってエピソードが。
毎年の年始の挨拶になると必ず交わされるのが……。
家臣「殿、今年はいかがいたします?」
殿「いや、まだじゃ」
これはつまり、
家臣「殿、今年は徳川を討ちますか?」
殿「いや、まだその時期ではない」
という意味。
何代にも渡って、なんと200年以上このやり取りをやってたわけで、もう褒めてあげなきゃのレベル。
でも、この話はウソかもなんですって。
「長州藩、こんな気持ちだったんだよー」って表すために、誰かが作ったのかな?
【土佐藩】
現在の高知県を治めたのが土佐藩です。
もともと土佐を治めていたのは、長宗我部さんて大名。
しかし、こちらも関ヶ原の戦いで西軍についたため、土地を減らされ……るどころじゃなく、なんとボッシューされちゃいます。
そう、土佐から長宗我部さんいなくなるんです。
で、その土佐を、家康からもらったのが、山内さんて大名。
山内さんは徳川家に恩がありますから、「代々、幕府LOVE」ですっていうのを覚えておいてもらうと助かります。
そして、土佐藩といえば、日本史の中でも1位、2位を争う、人気の"あの人物"を生んだ場所……。
それは本編が始まってからのお楽しみです(ま、バレてるでしょうが)!
【会津藩】
現在の福島県あたりを治めたのが会津藩です。
2代将軍徳川秀忠には、静という女性にこっそり産ませた男の子がいました。
秀忠「おい、言うなよ! 別に、江(ごう:秀忠ワイフ)が怖いってわけじゃないぞ。とにかくお前らだけで止めとけ! 最悪、他のヤツにバレたとしても、江が怖いってわけじゃないけど、江にだけは知られるなよ!」
家臣「……別に誰にも言わないすけど……素直に怖いって言えよ」
江が怖かったどうかは定かじゃありませんが、この男の子のことは、数名しか知らない事実。
しかし、秀忠の息子である3代将軍徳川家光はあるとき、
家光「え? オレに腹違いの弟いるの? ……親父ぃ~」
知っちゃいます。
その後、異母弟
保科正之(ほしなまさゆき)
に会った家光は、
家光「すっごいいい感じの異母弟じゃん。気に入ったよ異母弟! じゃ異母弟は会津藩の藩主!」
お気に入りすぎて、会津藩の藩主にバッテキしちゃいます。
家光は、亡くなる直前でも正之に「異母弟……宗家(本家だよ)を頼む」と伝えるほど、弟を信頼していたのでした。
自分を取り立ててくれ、頼ってくれた家光に深く感謝した正之は
『会津家訓十五箇条』
というものを作ります。
その第一条には、
『徳川の将軍に、一生懸命尽くすべきで、それは、他の藩と同じ程度で満足するようなものじゃダメだよ! もし、将軍家にそむいたり、裏切ろうとする藩主がいたら、そんなヤツは私の子孫じゃない! みんな、そんなヤツに従ってはダメだからね!』
って感じのことが書かれてました。
何があっても徳川幕府に忠誠を誓う――。
この家訓を代々ちゃーんと守り続けていったのが会津藩なんですが、幕末では、これが思わぬ障害になっちゃうのでした……。
というわけで、主要な藩の性格を、むちゃ簡単にご紹介したところで、エピソード0終了。
そして次章から、本当のエピソードが動き出します……。
幕末は、江戸時代の末期、幕府の末期です。
どんなに揺るがないものでも、時を重ねれば、ほころびが生じてきます。
200年以上という長い時間を経過した幕府にも、あちらこちらにほつれが出ていたのです。
そこへ、ダメ押しとなる存在が登場。
"彼"が、大きな船を4艦従えてやってくるところから、それはスタートします……。
*****
ということで、房野流・超現代語訳 幕末物語のはじまりはじまりです!
以後、どんどんアップしていきますので、お楽しみに!!
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その房野さんが、今回「幕末」を面白く書いた!
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