吉本ばななさんが、台湾の読者に向けて書き下ろした、心が満腹になるエッセイ「切なくそして幸せな、タピオカの夢」日本発売を記念し、試し読みをお届けします。台湾で人気の若手イラストレーター・スーピー・タンさんのあたたかいイラストにもご注目ください。
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しかし他人が家族になっていく時間は全てを熟成させる。
結婚という形式でなくてもいい。子どもはいなくても同じだ。ある人が自分になじんでいって、セクシャルな気持ちは減ってしまってもあまりある別の親しみを感じられたら。なじんだ毛布のような「愛」を得たら。
時間というものがまるでおいしい漬物や、おなかに優しいヨーグルトみたいに私たちの関係に発酵をもたらして、人と人が家族のようになる。
その不思議こそが、恋以上に人生の大きな神秘ではないだろうか?