悪名高き「井伊直弼」が登場して、ついにおなじみの恐怖の大王が降りてきた!その名も「安政の大獄」!!
このころの空気は冷え冷えとしていたでしょう。
だって、とっても怖いもの!!
かたっぱしから反対派を処刑しちゃうなんて。
あのカリスマ吉田松陰も死刑になっちゃう。
一方、ヒーローの代名詞・西郷隆盛は、二度も自殺未遂。いったいどうしてよ?!
幕末は、面白いんだけど、不条理も悲劇もいっぱい!
だからこそ、読ませます。
この連載が一冊にまとまった『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』は、8月24日に発売です!
* * *
降りそそぐ罰の終わりには、愛しき人へのメッセージ
幕末エピソード5でございます。
そして、まずは前回のおさらいでございます。
尊王攘夷の人たち、条約にはんたーい!
↓
堀田さん、朝廷に許可求める。朝廷「え、ムリ」
↓
将軍の跡継ぎ問題も起こっちゃう。
↓
慶喜くん(一橋派) VS 慶福ちゃん(南紀派)
↓
「南紀派」の勝ち!
↓
井伊直弼、大老になって、次の将軍は慶福ちゃんに決定!
↓
大老パワーで、朝廷の許可ナシに条約GO!
とうとう、ニーベーシューツージョークー(日米修好通商条約。略したらお経みたいになった)を結んだ日本。
待っていたのは……
オランダ「どぉーも……。聞いたとこによると、アメリカといい感じになったんだってー?」
日本「ど、どうしたんですか……いつものオランダさんじゃな……。は! まさかあなたも!」
オランダ「そのとーりだよ!」
日本「きゃっ!」
日蘭修好通商条約締結。
ロシア・イギリス・フランス「オレたちもだよ!!!」
日本「きゃーーーーー!!」
日露、日英、日仏、修好通商条約締結。
「これデジャブ?」というような出来事がおこり、『むすんでひらいて 幕末ver. vol.2』を歌い上げます(こちら、《安政の五カ国条約》って言うんで、暇な時にでもつぶやいてみてください)。
富・名声・力。幕府の全てを手に入れた男、"大老"井伊直弼。
彼の放った一言は、人々を海へ駆り立てた。
井伊直弼「条約か? 結びたきゃ結んでやる。開け! 開国に必要な勅許は置いてきた」
世はまさに、大開国時代!
尊王攘夷派「やかましいわ! 気取ってんじゃねーぞクソハゲ! 何が『開国に必要な勅許は置いてきた』だ! 勅許がねー条約なんて認めてねーわバカタレが!!」
大開国時代急ブレーキ。
スゲー勢いで反対されます。
前回お伝えした通り、「天皇の許可がない条約」による、いわくつきの国開きは、尊攘派の逆鱗に触れます。
もー日本全国「井伊ふざけんな!」の遠吠え大合唱。
かつてのライバル「一橋派」のブチギレも止まりません。
一橋慶喜「勅許ナシで条約結ぶってどういうことだ!」
徳川斉昭「次の将軍、慶福ちゃんにしてんじゃねーよ!」
松平春嶽「バグってんじゃねーぞ、タコスケ!」
井伊さんの行動に怒り大爆発の3人は、かわるがわる江戸城に押しかけ、飛びかかる勢いで大抗議。
それに対し井伊さん、意外にも真摯な態度で神対応。
ですが、後日……。
井伊「江戸城に上がるのは、各々に決められた日がある。にも関わらず、あんたらは"それ以外の日"に来た……これ、ルール違反だ。はい、3人は隠居、または謹慎ね」
斉昭・春嶽「なにーーーー!!!?」
隠れてた悪魔出現します。
でも、ここで一言物申したいのが慶喜くん。
慶喜「ちょっと待て! オレは決められた日に江戸城行ったろ! なんで処罰されんだ!?」
井伊「…………とにかく謹慎です」
慶喜「だから理由言えや!!」
慶喜くんの疑問は謎のまま。飛びかかってきた3人とも、まとめて一本背負いされたのでした。
ギャーギャー騒ぐ敵をなぎ倒し、フフフン♪の井伊さん。
ただ、
波乱の幕開け、
ここからなんです。
開演5分前を知らせる1ベルは
《戊午(ぼんご)の密勅(みっちょく)》
によって鳴らされます(なんだそれは?)。
"戊午"っていうのは、この年の干支。
"密勅"は、天皇がヒミツに下した命令。
ドッキングすると、
《この年に出された、天皇からの秘密の命令》。
そこには何が書かれていたかというと、
・勅許なしで、なんで条約結んだ? どういうことか説明しろ!
・国の一大事なんだから、幕府や御三家や譜代や外様、みーんなで会議しろ! 攘夷もしろよ! 歯磨けよ!(歯磨けよは書いてないです)
この命令を受け取る相手は、もちろん幕府なんですが……。
井伊「『みーんなで会議しろ!』って書いてんじゃん……幕府だけでやってきた政治に他の藩混ぜたら、幕府の権力なくなるわ! まぁいい……天皇の命令を受け取るのは幕府だけだ。このことはくれぐれも他の藩には内密……」
井伊の部下「水戸藩にも《戌午の密勅》届いてるそうです」
井伊「え、うっそ!?」
井伊の部下「しかも水戸藩の密勅には、『この内容を、他の藩にも見せること!』ってP. S.がついてるみたいっす」
井伊「絶対ダメーーー!!」
この絶叫が、開演を告げる本ベルとなり、波乱たっぷりの公演がスタート。
これ、現代の会社で言うならば、
会長「おい社長! 外資系の会社と業務提携したらしいな。勝手なことすんな! 今回の件はお前だけじゃ頼りになんねーから、部長の水戸くんにも個別で指示出したからな!」
社長「会長から部下に直接!? そ、そんなことしたら私の立場が!!」
に、近い事態ですわね。
井伊直弼、「幕府をバカにするな……」とプルプル震えます。
おこ、です。
さらに、激おこ直弼丸の怒りは膨れ上がります。
情報通「ゴニョゴニョ……ゴニョゴニョ」
井伊「なに……? 今回の密勅、水戸藩と一部の公家がグルになって、裏から手を回しただと…。水戸のヤツらが『密勅出してくれ』とお願いしたというのか……(プルプル)。で、公家と水戸藩をつなげたのは、条約に反対する志士たちってか? ハッハッハッハッ……潰す! 密勅に関わったヤツら潰す! 尊王攘夷派も、幕府を改革しようとする《一橋派》も全員潰す! 焼いて、つぶして、粉にして、スプーン一杯なめてやる!」
激おこなんちゃらかんちゃらプンプンなんちゃらなんちゃらです。
その結果、
井伊「あんたは隠居! お前は謹慎! テメーは永久に謹慎! 貴様に関しては……切腹だーーーー!!」
激情に駆られたプンプン丸さんは、処罰の嵐をおこして、全てを壊すの。
慶喜くん、堀田さん、四賢侯のみなさん(島津斉彬を除く)は、隠居や謹慎。
ジョーイおじさんや、岩ちゃんは、永久に自宅謹慎。
一橋派の橋本左内や、密勅に深く関わったとされる水戸藩の何人かは、まさかの切腹や死罪。
身分、職業問わず、処罰したその数なんと
100人以上。
そうです、これが、主演・井伊直弼による大弾圧オペラ
安政の大獄(あんせいのたいごく)
という演目です(芝居じゃなくリアルね)。
誰も望んでないのに、主演の熱だけでロングランになった幕末の大迷惑公演。
だがしかし、このダークネス歌劇にストップをかける、薩摩在住のディーバが現れるんです(女性じゃないけど)。
島津斉彬「井伊直弼……ぶっ潰す!」
井伊さんのやり口に怒り心頭したトップオブ四賢侯、
島津斉彬さん、その人です。
井伊の暴走を止めることを決意した斉彬さん。
だが、生半可なやり方じゃダメだ……。
そう判断した薩摩の名君・斉彬は、とんでもないことを口走るんです。
斉彬「これから兵を引き連れて、京都に行くぞ! 朝廷に行って、『幕府を改革していいよ』という勅許(天皇の許可)をもらう!」
斉彬の家臣「幕府を改革!?」
斉彬「その勅許で、井伊のバカタレとアホ幕府に、『やり方変えろ!』と迫る! 軍隊もチラつかせて脅す!」
斉彬の家臣「脅す!? それってつまり……」
斉彬「そうです、クーデターです!!」
斉彬の家臣「でたーーーーー!!」
斉彬「西郷!」
西郷隆盛「朝廷に行って、勅許をもらう下準備をしてきます!」
斉彬「お前、心読めるのか!? だいすきだ!」
斉彬さんは、兵力とブランド力のWパンチで、幕府を改革しようとする、
率兵上京(そっぺいじょうきょう)計画
ってやつを立てるんです(兵を率いて京都行くってことね。昔は京都に行くことが"上京"だよ)。
許可もなしに、軍隊連れて京都に行くなんて、平和な江戸時代にはありえねー行動ですが、もうこれしかない。
斉彬さんはソッコーで大軍勢召集。
準備が着々と進む中、兵の訓練を見る斉彬。
そして、フニャリともらします。
斉彬「ふぅー、なんだか熱っぽいなぁ……」
で、
死にます。
斉彬の家臣たち「…………えええぇぇーーーーーーー!!」
「えーーー!!」なんです。
斉彬さん、なんと突然の発熱から数日後……お亡くなりになるんです(急すぎて、暗殺説もあるよ)。
青天の霹靂以外の何物でもない。
もちろん、率兵上京計画も中止。
それと……ずっと、「斉彬さんは安政の大獄を止めようとした」みたいなニュアンスで語ってきましたが、実はこの人が亡くなったのは……安政の大獄が本格化する前。
井伊直弼が暴走する初期段階で動いて、初期段階でいなくなっちゃったんです……。
もしかすると、斉彬さんが生きていたら、安政の大獄はなかった……かもしれません。
多くの人が悲しみに暮れる中、京都で頑張っているあの人にも……。
西郷「うそだーーーーー!!」
バカでかい鉄球が音速でぶつかったくらいの衝撃をもたらします。
心から尊敬する斉彬さんが……もうこの世にいない……。
失意のドン底にたたき落とされた西郷さんは、一言つぶやきます。
西郷「…………オワタ」
で、自殺します。
悲しみ西郷、斉彬さんの後を追うんです。
しかし、そこにストップをかけたのが、同じ一橋派として頑張った、月照(げっしょう)というお坊さんでした。
月照「自分の後を追うことを、斉彬さんが褒めてくれると思いますか? この世であの人がやり残したことを叶えた方が、斉彬さんは喜んでくれるんじゃないでしょうか」
西郷「……ぅ……ぐ………ほむっ!」
月照「ん?……これはなに、踏みとどまったのか?」
西郷さんは、斉彬さんの意思を受け継ぐことを決めます(こんなやりとりじゃないですが、月照さんが西郷さんの自殺を止めたらしいよ)。
そんな西郷さんの元に、
木枯らしをまといながら、
おなじみの"あいつ"が近づいてきます。
安政の大獄「どーもぉー! 安政の大獄です!! 私が始まりました!!」
西郷「ヤバい!! 捕まると処罰される! 月照さん、逃げましょう!」
月照「この私をどこまでも連れ去って!」
西郷「そういうのいらないです!」
安政の大獄から逃れるため、西郷&月照は、薩摩に向かいます。
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