恐怖の大王、井伊直弼もついにーー。
しかし、やってることがハンパない。
現代だったら、パワハラのオンパレードで、炎上しまくってたはずです。
混乱が混乱を招き、幕末はいったいどこへいくんでしょうか?
(ちゃんと勉強した人たちは、知ってますが)
この混乱こそ、ドラマの温床。
感動がいっぱいの『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』は、8月24日に発売です!
* * *
海と雪のサムライ
幕末エピソード6と参りましょう。
参る前にはおさらいと参りましょう。
井伊さんの「許可ナシ条約」に、みんなちょー反発。
↓
斉彬さん反撃しようとするけど、死んじゃう。
↓
水戸藩に「戌午の密勅」が下る。
↓
井伊さん「なんだよそれ!」と怒り、《安政の大獄》開始。
↓
安政の大獄から西郷さんと月照さん薩摩に逃げるけど、月照は拒否られる。
↓
二人海に飛び込んじゃう。西郷さんだけ助かる。
↓
松陰センセー、安政の大獄の犠牲に。
『批准(ひじゆん)』て聞いたことあります?
国の代表者が決めてきた条約に、国家が「よし! これで決定!」って認める最終的な手続きを『批准』て言うんです。
スマホ契約するとき、本体ゲットして、支払い方法も決めたけど、書類にサインしないと使えない——-あんなようなものです(規模違いすぎるけど)。
日米修好通商条約のラスト手続きのために、アメリカはワシントンに向かうことになる日本。
外国奉行(外務省ってノリかな)の人たちは、ポーハタン号(アメリカの船)に乗せてもらいます。
外国奉行「お願いします! 人数多いって言われたんで、削って77人です!」
ポーハタン号艦長「多いんだよなぁ多い。まだ多いんだよ」
使節団77人が乗り込み、太平洋を渡ります。
それとは別に、「ポーハタン号の護衛や、万が一の事故に備え、もう一隻、船出しといた方がいーんじゃねーか?」ってことになり、《咸臨丸(かんりんまる)》という船を出動させることに。
これに乗り込んだのが、
勝海舟(勝さん、このとき艦長)
ジョン万次郎(すでにアメリカを知ってるあの人)
福沢諭吉(ご存知一万円札のあの人)
という有名人たちです。
この船に乗り込むのは日本人だけ。
船+日本人だけ+渡米=初体験。
そう、咸臨丸の航海には、ポーハタン号の護衛のほかに、初めて日本人の力だけで大海原を渡り、アメリカにたどり着くという、大きな目的が詰め込まれていたんです――。
勝海舟「とうとう……とうとう日本人だけで太平洋を……ついにこの日がやってきた(感動)」
司令官「えー、日本人だけだと不安なんで、ブルックさんたちアメリカ人の方々にも乗っていただくことにします」
ブルック「ブルックです。いい船旅にしましょう」
勝「…………誰だテメェこら(怒)」
アメリカ人も乗っちゃいました。
ブルックさんはじめ、アメリカ人の乗組員が何人も乗船して、日本人の夢、爆破。
ここから勝さん、ちょースネてしまいます。
しかも、いざ出航してみると、
勝「………オロロロロロロロロロ……」
船酔いで吐いてました。
一方、勝さん以外の日本人乗組員はしっかりと、
乗組員「オロロロロロロロロロ……」
吐きまくってました。
出航してまもなく、海が大荒れ。
ジョン万次郎さん、福沢諭吉さん以外の日本人、ちょーぜつな船酔いで全員死亡(たとえね)。
さらに、日本人はまだ船の扱いに慣れておらず、実質的に船動かしたのはブルックさんたちだったそうです。
アメリカの人たち、いてくれてよかった。
はみだしエピソードをひとつ。
艦長として機能してないのに文句ばっかり言うし、航海の途中に「ボートおろせ! オレは帰る!」とかわがままを言ったらしい勝さん。
福沢諭吉さんの目には、「なんだコイツは……」って感じに映ったらしく、ここから2人、メチャ仲悪くなります。
さらにこの航海にはこんなエピソードも。
ブルックさんは、"実際にはアメリカ人たちが船を動かした"ことを自分の日記に書いていました。ですが、開国したばかりの日本がバカにされないよう、日記の公開を自分の死後50年間は禁止したり、部下にも固く口止めしたそうです。なので、この船旅の真実がわかったのは1960年代になってから……。
なんて泣ける話なんでしょう。ブルックさん、最高すぎる。
さて。やっとの思いで、咸臨丸とポーハタン号はサンフランシスコに到着。
勝「アメリカだーーーーー!!」
サムライたちがアメリカの土を踏みしめ、日本が国際化へと歩き出した瞬間でした。
勝さんたちがグローバルな展開をしてる一方、日本でローカルな大事件が起こります。
その中心にいるのはもちろん、
大獄マシーン・井伊直弼。
"安政の大獄"をまき散らした結果、多くの人からエグい憎しみと、ドデカい反発を爆買いした井伊さん。
特に、家老や藩士を切腹&死罪にされてる水戸藩の怒りのボルテージは、とんっ……でもないことになっていました。
しかし、井伊の赤鬼はそんなのおかまいなし。
怒りと悲しみの水戸藩に対し、
井伊直弼「《戌午の密勅》はお前らが持っていていいような代物じゃないんだ。前から言ってる通り、こちらに渡せ。期限までに返せないようなら、身分も領地も、ボッシューする」
水戸藩「まっすぐなパワハラ!」
なんと、《戌午の密勅》を返せと脅してきたんです。
ハラワタが煮えくり返って、いい感じのトロみが出てる水戸藩。
でも、命令に従わなければ藩の存続が……。
水戸藩「幕府に……密勅を返そう」
もうしょうがねーよの空気が大多数を占めますが、一部がこれに猛反発。
返さない人たち「渡すわけねーだろ! もし返すとしても、幕府じゃなくて、朝廷に返すわ!」
やがて、水戸藩内部はバチバチの大ゲンカに発展し、斬り合いまで起こる事態に。
お互い一歩も引かない中、ヒートアップする"返さない人たち"の一部は、恐ろしい答えにたどり着きます。
返さない人たち「おい、あいつ殺そうぜ」
井伊直弼暗殺計画。
鼻水出ます。ヤバすぎて。
今で言うなら『総理大臣暗殺計画』です。
止まりません、鼻水。
さらに、井伊を殺ってやると意気込んだのは水戸藩だけじゃありません。
この激ヤバ計画に、薩摩の《精忠組(せいちゅうぐみ)》ってのが加わるんです。
こちら、西郷さんが中心となって結成された、4~50人の若者男性ユニット(このとき西郷さんは奄美大島にセンプク中ねー)。
優秀な人材がそろった精忠組ですが、西郷さんに代わって、中心的存在になったのが、
大久保利通(おおくぼとしみち。これまたちょー有名人)さん。
大久保利通「オレたちは斉彬様の遺志を継ぐのだ……。井伊をぶっ潰すため、全員で脱藩だ!!」
大久保&精忠組は完全に仕上がってました。
しかし、息巻く男性ユニットに、思わぬストップが。
この時の薩摩の藩主、
島津忠義(しまづただよし。斉彬さんの甥っ子)
って人と、忠義のパパの、
島津久光(しまづひさみつ。斉彬さんの弟)
っていう、支配者親子から、
『タイミングがきたら斉彬さんの遺志を継ぐからさ。軽はずみな行動はやめて。ね?』
って感じのお手紙が届いたんです。で、すぐ
大久保「よし! やめよう!」
暗殺やめます。
当時、殿が下っ端の若ぇーヤツらを直々に説得するなんて、HIROさんがLDHの新人に直接ダンスを教えるよりもすごいこと(逆にわかりにくいですか?)。
精忠組のみんなは感動しちゃって、「暗殺、やーめた!」となったわけです(全員じゃ…ないんですけどね)。
ただそれでも……水戸の志士たちが、暗殺プロジェクトを止めることはありませんでした。
井伊直弼抹殺のシナリオは、着実に書き進められていたんです。
襲撃の日時は、すべての大名が江戸城に向かう日の朝に決定。
実行部隊は、水戸志士17名+薩摩志士1人の18名(計画に関わってる人はもっといます)。
当日、配置についた志士は、《武鑑(ぶかん)》を持って、大名行列を見物する田舎の侍を装うことに(《武鑑》てのは、大名や役人のプロフィールを書いた、『プロ野球選手名鑑』的な本)。
さらに、自分たちの行為で藩に迷惑がかからないように退職願を書き、すべての準備が整います(水戸藩をやめた浪士(仕えるのやめた人)ってことで、"水戸浪士"って呼んだりするよ)。
そして……。
安政7年3月3日(1860年3月24日)
江戸城桜田門外(東京都千代田区霞が関)。
季節外れの雪が降り、ふわりとした大きな結晶が、あたり一面を真っ白に覆いつくす朝。
暗殺計画、実行の時が迫ります。
平静の薄皮一枚下に暴れる鼓動を感じながら、標的を待つ浪士たち。
午前9時。
雪の勢いも弱くなった頃、彦根藩邸上屋敷(現在の憲政記念館あたり)から、井伊直弼を乗せた駕籠(かご)が、60人ほどの行列と共に出てきます。
動き出す作戦。
歩みを進める井伊家の大名行列に、一人の男が近づいてきます。
何事かと身構える彦根藩士の元に駆け寄った男の手には、一枚の訴状。
何を訴えたいかは知らないが、直訴するその男を制止しようとした、その刹那、
ヒュッ……
直訴を装った水戸浪士は抜刀し、
ザッ!!!
目の前の彦根藩士を斬りつけたのでした。
彦根藩士たち「!!」
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