ゴキブリ100万匹、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹などなど……!
約100種類の害虫の“飼育員”による、害虫たちのことがよくわかって、好きになる!? この夏必読の『きらいになれない害虫図鑑』から、いくつかの害虫をピックアップしてご紹介します。
ダニは必ず発生する
種類にもよりますが、ダニの体長は0.2〜0.5ミリ。ものすごく小さいので、老眼じゃなくても肉眼で見つけることはなかなか大変です。
黒いものの上を1匹だけ歩いていたら、ジーッと見ていたらわかります。でも白や薄い色だったらわかりません。
飼育室では、他の害虫のエサなどからときどき発生することがあるので、飼育容器に粉のような白い点があると、すぐに「ダニ!?」と思ってジーッと見ます。
動かなかったら「あ、よかった」となりますが、動くと「来た!」と身構えます。
ダニが好むのは夏の閉め切った家屋のような、高温多湿の環境です。室温25度、湿度40〜50%の飼育室は、ダニの繁殖には湿度が低すぎるのですが、害虫の飼育容器の中はもっと湿度が高くなることも多く、繁殖しやすくなっています。
そのまま飼育しておいても支障のない場合は「ダニがいるのは仕方がない」と割り切ることもできますが、悪くすると、一からやり直し。ものすごい徒労感です。
他の害虫の容器に混入して発生するのを少しでも抑えるため、ダニだけは別の飼育棟で飼っているくらい気を遣っているのに、あざ笑うかのように発生するので腹立たしいですね。
もちろん研究用、試験用に必要なダニは、種類別に繁殖させています。
高温多湿を好む彼らのため、ダニの飼育容器は、恒温器という温度を一定に保つ装置(何十万円もします!)に入れ、温度は25度でキープ、湿度が70%以上になるように環境を調えてやっているんです。
フケやアカ、ホコリなどの有機物をエサにしているダニの飼い方には、昔からのレシピがあります。そう、レシピというのがぴったりなくらい、お料理みたいな作業です。
ヤケヒョウヒダニの場合、まずシャーレにマウス・ラット用の飼料を粉末にしたものとビール酵母の粉末を入れてよくかき混ぜて培地にします。そこに、ダニを薬匙で何杯か入れ、またかき混ぜたら、恒温器に入れます。コナヒョウヒダニの場合は、マウス・ラット用の飼料の代わりにカツオの魚粉を使います。
これだけで、ダニはどんどん増えていきます。1週間に1回、ふたを開けて空気を入れてあげるぐらいで増殖します。
最初は培地にかき回した跡が残っていますが、ダニが増えてくると跡が消えて、ふんわりしてくると、かき回してもすぐまた平たくなります。何千、何万という数のダニがうごめいているからですね。もちろん1匹ずつ数えるなんてできません。
ダニが増えて培地が減っていくので、体積は増えます。
ヒョウヒダニ類の場合、飽和状態になると1グラムあたり2万〜8万匹といわれています。自分で飛ぶわけではありませんが、とても軽いため空気中をふわっと浮遊します。くしゃみなんか絶対にできません。
見つけても見つからなくてもがっかりする極小害虫
弊社のお客様相談室から「ダニがいるかどうか調べてほしい」と、掃除機のゴミパックが研究所に届くことがあります。
「ダニに刺された! 虫ケア用品が効いてないんじゃないの?」というお客様の問い合わせを受けて、どんなダニがいるのかを調べるため、お客様相談室がその方にお願いして送ってもらったものです。
その中をていねいに調べていくのも、私たち生物研究課の役割。取り出したゴミを遠心分離機にかけてダニを探します。
人間を吸血する恐れがあるのは、ネズミなどに寄生しているイエダニですが、見つかりません。ヒョウヒダニ類やコナダニ類が大量に繁殖すると、こうしたダニをエサにするツメダニも大発生して間違って人を刺すことがありますが、ツメダニもいません。弊社の燻煙剤、ダニアースレッドを何度か使っていただいていたそうで、ヒョウヒダニ類なども一般の家庭よりずっと少ない。
結局、「人を刺すようなダニは見つかりません」という報告になりました。見つからなくて、お客様はがっかりされたようです。
そうかと思えば、パンパンに膨らんだゴミパックがお客様相談室から届いて、開けたとたんノミがピョンと跳び出してきたこともありました。
気密性の高い住宅が増えて、ダニにとっても住みやすくなったため、以前よりも増えやすくなったといわれています。死骸や糞もアレルゲンになるので、見つけられるものは見つけたいと探していますが、ダニを飼育するよりもハードな仕事ですね。