ゴキブリ100万匹、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹などなど……!
約100種類の害虫の“飼育員”による、害虫たちのことがよくわかって、好きになる!? この夏必読の『きらいになれない害虫図鑑』から、いくつかの害虫をピックアップしてご紹介します。
ノミの家は“高級レジデンス”
ノミを累代飼育するための、特注の専用ケースがあります。
透明なアクリル製で、高さが60センチくらい。タワーのような細長い形をしていて、メッシュの床の下は引き出しになっている構造です。小さなノミが脱走しないよう、開閉できる部分は精密にできています。1台5万円以上して、害虫の飼育容器としては破格の“高級レジデンス”です。
私が入社する前からあるもので、20年以上使って古びてきたため、一度新調してもらったことがありました。「えらい安いな」と思っていたら、作りが悪すぎて、ノミが逃げて大騒ぎ。「安物買いの銭失い」とはこのことか、と思い知らされた事件もありました。
このケースで、以前はイヌノミも飼育していましたが、今はネコノミだけです。
名前からするとネコにしかつかないように思われがちですが、イヌからも人からも吸血するこだわりのないノミです。イヌノミよりも活動的で移動性に富むらしく、今、ノミの世界で、日本の主流というとネコノミです。
昭和30年代くらいまでは、日本でもヒトノミが普通にいたようです。でも今では絶滅したのではないかといわれています。衛生環境がよくなって、一時期はノミを見ることも少なくなっていたのですが、ペットブームによってまた復活しています。
成虫は跳ねるので扱いが難しい
先ほどの専用の飼育ケースは、成虫を産卵させるときに使います。
ノミは卵、幼虫、サナギ、成虫という4段階で生育する完全変態の昆虫で、幼虫の姿はウジ状です。それに対応して、卵と幼虫、サナギと成虫、成虫の産卵用という3つの容器を使って飼育しています。
専用の飼育ケースは、成虫が卵を産むとメッシュの床から下の引き出しに落ちるよう設計されているので、引き出しから筆を使って取り出します。いろいろ試しましたが、習字用の筆が柔らかくて使いやすいですね。
ノミの成虫は赤い糞をします。それが血糞と呼ばれる未消化の排泄物で、自然界の幼虫は血糞やゴミの中の有機物を食べて成育しています。飼育に際しては、成虫の血糞のほか、牛乾燥血液、ビール酵母、マウス・ラット用の粉末飼料を混ぜたものを培地にしています。この中に卵を入れるのです。
飼育室の環境では、卵は約2日で孵化し、幼虫は6日でサナギになるので、ふるいを使って採取して別の容器に移します。サナギが成虫になるまでは7~10日。
サナギは三角フラスコの中に300匹ぐらい入っているのですが、つぎつぎに成虫になってぴょんぴょん跳ねる様子は、コップの中でソーダ水の泡がはじけているようです。
成虫は跳ねるので、いちばん扱いが難しい。ピンセットなどではとても捕まえられません。そのため吸虫管という道具を使って1匹ずつ採取しています。吸引ポンプを使って、途中にあるガラス管の部分でキャッチする仕組み。
試験に供給するときは、10匹単位でサンプル管に入れていきます。究極の手作業、という感じですね。成虫の産卵のため専用の飼育容器に入れるときは、ざっくり100匹ぐらいでしょうか。
ノミの体は、動物のふさふさした毛の中を動き回るのに適応した左右に扁平な形です。なので、平坦な場所では横倒しになってしまってジャンプできません。
三角フラスコにノミだけ入れると底面がツルツルなので立ちあがれません。三角フラスコの中でぴょんぴょん跳ねるのは持ちあげたりして動かすからでした。展示用のケースでは底に紙を敷いています。紙からはみ出した場所では、倒れたままで移動もできず、そのまま死んでいるノミもいるくらい。
たまに飼育中に脱走するノミもいます。そのままにしておくと、膝下あたりを刺されてかゆい思いをするハメになります。ノミに刺されると激しいかゆみが、かなり長い間続きます。
自己責任とはいっても刺されるのはイヤだし、誰かを刺すと「有吉さん、雑い」「有吉さんが作業した後は、よく刺される」などと言われることになるので、床に這いつくばって探します。たいてい床で横倒しになっているので、鉛筆のおしりなどでプチッと潰します。扁平な体なので指では潰せませんから。
一度、逃げたノミが、どういうわけか私の頭にジャンプしたことがあります。髪の毛の間に入ったら最悪です。気がつかずに家に持って帰るのも絶対に避けたい。
「嘘やん!」と一瞬、蒼白になったのですが、ガーッと頭をかいたらぴょんと跳んで出てきました。ああ、よかった。「雑い」という自覚はあるので気をつけてます。