ゴキブリ100万匹、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹などなど……!
約100種類の害虫の“飼育員”による、害虫たちのことがよくわかって、好きになる!? この夏必読の『きらいになれない害虫図鑑』から、いくつかの害虫をピックアップしてご紹介します。
繊細なのでストレスになることはしない
研究員が巣ごと採ってきたヤマトシロアリを、そのまま維持して飼っています。ヤマトシロアリは日本でいちばんポピュラーなシロアリです。
女王がいないので繁殖はしていないのですが、シロアリは長生きです。女王アリや王アリは15年以上、働きアリで5~6年くらい生きるとされているので、そのまま“維持”しているのです。
朽ちかけた木を巣にしているので、プラスチックの衣装ケースの中にボンとそのまま置いています。とくにエサを与える必要はありません。すみかがそのままエサですから。
世話というと、朽ち木が乾かないよう、ときどき水をやっている程度です。それも霧吹きで水をかけるだけ。ただし、水分が多すぎるとカビが生えてダメになるし、乾燥すると全滅してしまう。案配が難しいんです。
エサを探しに行く必要もないので、だいたい巣の中に引きこもっています。水やりのときも、あまり姿を見ることはありません。チラッと1匹、2匹ぐらいは見えているので、「いるんだろうな」という感じ。本当にいるのかどうか不安になることもあります。でも、ひっくり返したりして確かめるのはシロアリのストレスになるからできないし、ちょっと悩ましいですね。
試験で必要なときは、研究員に自分で巣を崩して採ってもらいます。
「シロアリ、いないよ」と研究員に言われることもありました。脱走したわけでもない。死体もない。ミステリーのような話ですが、少しずつ減っていって、探したときにほとんどいない、消えてしまったということも起こるんです。
乾燥に弱く、振動を嫌がる繊細な昆虫なので、水を切らさないようにして、できるだけストレスになりそうなことはしない、という方針で飼っています。
シロアリは白いのが元気?
ヤマトシロアリは研究所の裏山あたりにもいます。朽ちかけているけれど、芯のあたりはまだ生きているような松の切り株など、皮の部分をぺろっとめくるとワッといたりするので、そこから採集してくる場合もあります。
シロアリのコロニーにはメスの女王アリだけではなく、オスの王アリもいます。さらに副女王もいます。アリやハチの仲間と思われがちですが、実はゴキブリの仲間です。生まれた卵は、幼虫を経てほとんどは働きアリに、一部は頭部が発達して強力な顎を持つ兵アリとなります。
繁殖用に女王アリ、王アリを含めて捕まえてくればいいんじゃない? と思う人もいるかもしれませんが、ヤマトシロアリのコロニーは2万~3万匹とされ、朽ち木や湿った土の奥底にいるのでなかなかそこまで掘り進めることはできません。
以前、飼っていたイエシロアリは、K先輩が和歌山県の西部で巣をもらってきたもの。イエシロアリは加害のスピードが速く、被害が家屋全体に及んで家が倒れることもある危険種。暖地性なので、関東から日本海側を除いた九州の沿岸部に生息しています。
日本でシロアリの被害は8~9割がヤマトシロアリによるものですが、被害が大きくなりにくいため気づいていない人も多いようです。
ヤマトシロアリが、巣がそのままエサ場という“食住近接”なのに対して、イエシロアリは別の場所に塊状の大きな巣を作り、そこからエサ場の木材まで“通勤”します。その通勤路が蟻道で、乾燥に弱くて太陽光を嫌うシロアリが土や排泄物などで作るトンネルのこと。天井裏や2階にまで延びていることもあります。
蟻道はヤマトシロアリもイエシロアリも作ります。でも、イエシロアリは水を運ぶ能力が高くて活動範囲が広く、乾いた木材も湿らせて食べていきます。しかも食欲旺盛。ときには100万匹にも達する巨大コロニーとなるので、家屋に取りつくといつのまにか被害が広がるんです。
シロアリの活動は気温が大きく影響しています。気温が高くなるとともに活発化するため、もっとも木材を食害するのは夏場です。飼育室の室温25度という環境では、一年中食べ続けて木材をスカスカにしていきます。高気密の住宅では、冬場も活発に活動することがあるので要注意ですね。
木の中にいるので防除しにくく、気がつけば家がボロボロということもある物騒な生活スタイルを持つシロアリですが、1匹1匹は薬剤に弱い昆虫です。しかもずっと飼っていると白っぽくなってきます。
シロアリなんだから白いほうが元気なのかなと思ってたら、そうじゃない。エサの環境が悪くて栄養失調になっているようです。