捨てることは、生きること、捨てなければ、生きられない――。「断捨離」の考案者であるやましたひでこさんはそう言います。「捨てる」という一見、単純な行為がどうしてこれほどまでに難しいのか? なかなか実践できないのか? やましたさんの新刊『捨てる。~引き算する勇気~』から抜粋して考えます。
あなたの思考はモノとコトに表れている
断捨離とは、不要・不適・不快なモノを取り除くこと。
断捨離とは、意識化のプロセス。無自覚・無意識からの脱出。
断捨離には、さまざまな解釈があります。
けれど、一番重要なのは、「断捨離とは、関係性の問い直し」だということです。
何かを捨てるとき、捨てる対象物とあなたとの関係を問い直すというプロセスを通ります。
あなたのデスクにあるモノ、やっている仕事とあなたとの関係について考えてみましょう。
デスクの上にある書類やパソコンの中にあるデータを完全に把握できているでしょうか?
思い出すことができないモノはないのと同じです。ないはずのモノが大量にあるのは、ないはずのモノにわずらわされている状態です。家の押入れや収納棚は、何が入っているかわからないけれどパンパンで、新しく入れるスペースがない。だから、テーブルや床にモノが置かれている状態と同じです。
目に見えるモノは、かろうじて使うモノですが、中には使っていないモノがあります。あっても使わないモノは不要です。不要なモノを持つことで、使うモノが見つけにくくなります。
整理収納は高いスキルが必要になります。私たちのほとんどはスキルを持ち合わせていません。だから、不要なモノをこっちに置き、あっちに置き、結局どこにしまったのかわからなくなるという悪循環に悩まされています。まさに、不要なモノに心を痛めている状態だと言えます。
オフィスのデスクの両端に書類を山積みしている人はけっこういますよね。彼らのほとんどは、どこにどの書類があるかはだいたいわかると言います。たとえば、右の上から5番目くらいにA社宛ての見積書があるという具合です。
先日、外出先からの電話で部下に「右の上から5番目にある書類を見てくれ」と指示を出している人を実際に見かけました。考えようによっては鮮やかです。では、「左の下から10番目にある書類は?」と聞くと、答えられる人はほとんどいないでしょう。
要は重要なモノの場所はわかるけれど、そうでない書類の場所はわからない。結果、不要な書類を積んでいるので、大切な書類を忘れて外出してしまうというようなことが起こってしまうのです。
こうした状況を責めるつもりはありません。
整理すればいいのはわかっているけれど、忙しくて整理する暇がない。
情報の流通スピードが上がっていて、ビジネスマンは以前よりも忙しくなっていると思います。
一方で、忙しくさせられているということに意識を向けることも大切だと思います。
何かを調べようとパソコンで検索エンジンを開いたとします。
そこには、広告がびっしり。しかも、あなたが興味を持ちそうなバナー広告やテキストが満載です。ついクリックしてしまうと、さらに興味のある情報が出てきて、気がつけば15分経っていた、なんてことは珍しくありません。
このように私たちは溢れかえる情報に忙しくさせられてしまっているのです。
だからこそ、何事にも取捨選択が大切。
自分が忙しいと思う人は、忙しさの本質に目を向けなければなりません。
あなたのまわりにあるモノとあなたがやっている仕事に目を向けるということです。
断捨離では、モノを「思考の証拠品」、つまり「ココロのカタチ」と位置付けします。
モノは、もらったり、買ったりの「選択・決断」の末に手に入れた結果です。
コトは抽象度が上がりますが、あなたの意思決定の結果です。
あなたのまわりにあるモノとあなたがやっているコトは、あなたの思考の結果です。
断捨離は、モノやコトという見える世界を媒介にして、思考や感情という見えない世界にアプローチする方法です。
あなたを忙しくしている犯人はなんでしょう?
書類、データ、仕事のタスク、会議、職場の人間関係、絶えずあなたにささやきかける情報など。
モノが多いということは、考えなくてもいいことを思考している証拠です。
犯人を突き止め、断捨離をすることで、あなたは思考自体も変えることができるのです。
ちなみに、私はデスクにモノがないことを全面的に肯定しているわけではありません。
『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社、2004年)の著者ハロルド・ジェニーンは、この本の中で、「デスクのきれいな管理職は信用しない」と言っています。理由は、仕事をしていると書類は自然と増えるのだから、デスクのきれいな管理職は仕事をしていないということのようです。
では、彼自身がデスクを散らかしていたのかと言いますと、そうではありませんでした。オフィスを出る前には書類を分類し、複数のアタッシェケースに整理していたようです。こうすることで、急な出張に出かけるときも、必要な書類をすぐに持ち出すことができたという話です。
彼は何がどこにあるのかを把握していたのでしょう。
断捨離は、モノの多い少ないを競う競技ではありません。人には、そのとき、その場の変化する適量というものがあります。
モノも仕事も人から見て多い少ないが問題ではありません。自分のキャパを超えていることが問題なのです。
……続きは、『捨てる。~引き算する勇気~』をご覧ください。……