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夏の怒りのデス・ロード

2018.08.14 公開 ポスト

企業の品質不正・検査問題を針小棒大に騒いだマスコミと消費者へのいらだち小幡績

razihusin/iStock

 

 昨今、不祥事の報道が増えている。この原因は何だろうか。

 理由は3つある。

 第一に、瑣末なことをスキャンダラスに報道する報道機関が増えたことである。週刊誌や昼のワイドショーならともかく、公共放送に近いチャンネルの夜のニュースでもショッキングなニュースとして情緒的に報道される。この結果、人々はとんでもない不祥事が起きたと思い込んでしまい、昨今の企業は酷いという印象が強くなっているのである。他に重要なニュースが減っているため、交通事故自体は減っているのに、その報道が多いため、最近事故が増えていると思ってしまうのと同じである。これは行動経済学で有名な現象で、シカゴでは銃で殺害された人と心臓発作で死んだ人とどちらが多いでしょう?という質問に、銃と答えてしまうのである。心臓発作は報道されないだけで、最も多い死因である。

 第一の点に関連するが、第二の理由は、視聴者、読者の判断能力が低下していることである。だからこそ、テレビと週刊誌が執拗に流し、書き続けるのであり、その溢れかえる物量で人々はこれを多少割り引いたとしても、結局は物量に負けて、重要でない問題を重大な悪事のように信じ込んでしまうのである。ネットのフェイクニュースと同じで、すべて受け入れてしまうようになっている。要は、我々現代人は、確実に馬鹿になっているのである。その結果、スキャンダラスな不祥事報道は増え、それが事実となってしまうのである。

 例えば、最も悲惨なのは神戸製鋼だ。アルミ製品などの強度や耐久性のデータを改竄していたとされたが、その基準とされたJIS基準自体が昔に決められたものである。今はその基準を満たすかどうかは製品には無関係で、仮にJIS基準を満たしていなかったとしても、実際の強度(別の検査様式で測る)は、JIS基準を満たしていたものよりはるかに強いので、実際上の問題はゼロだ。

 だから品質についてはまったく問題がないどころか、世界ダントツのトップクラスであるにもかかわらず、何も理解していない報道、あるいは分かっていてもあえて批判すると攻撃されることを恐れた有識者たちの黙殺によって、評判は落ちてしまった。もちろん、実際に製品を購入しているユーザーたちはすべて分かっているから、取引を止めようとは思わないのだが、役所の指導や、何も分かっていない上司などによって取引が縮小したケースもある。さらに、この世で最も何も分かっていない投資家と呼ばれる人々は、神戸製鋼株を売り浴びせ(中には確信犯(品質に問題はまったくないと分かっていた)もいたし、真実などどうでもよく売りの流れを作ればよいと思っていた)、株価は暴落した。

 日産の新車の完成検査問題も同じである。無資格検査員が検査していたというこの問題は、排ガスや燃費の虚偽とは異なり、もともとまったく新車に必要ない目視検査を義務付けていた制度に問題があったのであって、合理的なら検査はしないという対応をしたはずで、これが発覚したら、何でそんな無駄な検査をしているんだ、役所はすぐ改めろ、と有識者が主張すべきところを、スキャンダルが自分にも降りかかることを恐れて、これも黙殺し、無駄な検査が続き、日産は無駄に評判を落とすことになった。

 しかし一方、別の種類の不祥事は確実に増えている。前述の企業が事実として悪いことをしているという不祥事は多くの場合誤解であるし、数も少ないのであるが、人間同士のコミュニケーションの失敗から起きる問題は急増している。それが第三の理由で、ジェネレーションギャップや多様化が拡大し、組織の構成員の価値観いやあえて価値感と書こう、これが多様化し、トップが認識できないほどになっていることがある。価値観という大袈裟なものではなく、感覚的なものの人々の間のギャップが大きくなっているのである。これは、セクハラの受け止め方の違いが急増をもたらしているのと似ていて、以前であれば、組織や社会全体のことを考えれば、形式的にはルール違反だけれども、実質ベースでは問題ないし、むしろいろんなコストも削減され、みんなのためになる、ということがあうんの呼吸で伝わり、誰も、無駄な検査を確信犯で怠っていることを通報したりしなかったし、何かの理由で通報しても、取り上げられなかった。それが自分のためというわけではなく、組織のためにも社会のためにも、全体最適だと分かったからであり、そのような想像力を働かせたからである。今は、想像力の欠如もあるが、考えるということが、表面的な反応と同じものと理解されており、違反、と言えば、すべて違反、ということになってしまうのである。

 ということで、2018年前半に様々な不祥事に怒り狂った人々の多くは、私から見れば、無駄に怒っていたのであり、それを超えて、迷惑を罪のない人々にかけていたのである。読者の多くは、私に怒り狂うであろうが、それはもうひとつ無駄なエネルギーを消費することになるだけなのだ。

 では、今後どうすれば良いか。以上書いてきたことと矛盾するようだが、多様化し、感覚がお互いにずれた構成員同士で、組織や社会を運営するには、すべて公式な形、ルールに徹底的に則ってやっていくしかない。したがって、ルールが間違っていれば、即座にルールを変えることが必要なことである。

「不祥事」が続発している理由として、学者として、公式にも主張できることは、制度やルールを環境の変化に合わせて改定することを怠ってきた歪が出ている、ということである。ルールを変えるのはエネルギーがいるから、効率的に、実質ベースで形骸化したルールを放置したまま実質合理主義でみなが行動してきた。それでは持たないので、コストとエネルギーをかけて、ルールや制度を現実にあったものに丁寧に直していくことが必要なのである。

 これは憲法改正の議論が高まったり、インフラの新設よりもメンテナンス、補修工事の方が重要になってきていることが指摘されたりしていることと実は本質的に同じことなのである。

 いまこそまさに戦後の日本のシステムの再構築をしなければならないときなのである。

 

 

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夏の怒りのデス・ロード

2018年上半期、不正と嘘と隠蔽が大量発生し、ほとほと怒り疲れている人も多い。最近は、そんじょそこらの嘘に驚かなくなってもいる。が、それでいいのか? という問いを牛のよだれのようにし続けるロング企画。

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小幡績

1967年生まれ。慶應義塾大学ビジネススクール准教授。個人投資家としての経験も豊富な行動派経済学者。メディアなどでも積極的に発言。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。著書に『リフレはヤバい』(ディスカバートゥエンティワン)、『成長戦略のまやかし』(PHP研究所)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(東洋経済新報社)などがある。

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