この度、阿佐ヶ谷姉妹の初書籍『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』が発売となりました。「面白い」「癒される」「2人の関係が羨ましい」「文才がすごい」と多方面で話題になっています。そして、実は本書には「私の落とし方」をテーマにしたお二人の短編恋愛小説も掲載になっています。もちろん小説執筆は初の試み。実は、これがものすごく面白いんですよ…! 少しずつですが、妹・美穂さんに続き、姉・江里子さんの小説をお楽しみください。
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「またのお越しをお待ちしております」
深々と下げた頭を上げ、送迎車が見えなくなるまでお見送りすると、それぞれの持ち場に戻る。今日はあと何組お帰りだったかしら。桜の間と桔梗の間と、あとは……。
「ふきちゃん!」
背中をドンと押す肉厚な手の感触。先輩の仲居の真知子さんだ。少し白浮きしたお化粧と人懐っこい笑顔。いつも通り、ぐぐっと距離を詰めてくる。
「まーた考え事? あれでしょ、あんた昔の男の事考えてたんでしょ! それでは歌っていただきましょう。吉田蕗子で『昔の男を待ってます』」
「考えてませんし、そんな持ち歌ありませんし」
「ふきちゃん。こういう時はアーとかウーとか少しでも歌ってから、ノリツッコミしないと。あんたそんなんじゃ、いつまで経ったって吉本の芸人に勝てないよ!」
「真知子さん、私達仲居ですよ。いつ吉本の芸人さんと戦うんですか」
「おおこわっ、おおこわっ 山菜おこわっ!」
「私、廊下の窓磨き入りますね」
小太りな真知子さんの足ではついてこられないくらいのペースでロビーから離れる。真知子さんは朝からテンションが高い。そのハイテンションが少し鬱陶しい時もある。けれど、表裏のない明るい性格の真知子さんがよくしてくれたお陰で、こんな私でも何とか、この旅館で仲居を続けてこられた。感謝はしているのだけれど……。
何かと男性関係の話にこじつけようとする真知子さん。あれだけは、何とかならないものかしら。
窓を磨き上げる手に、つい力が入る。「何が、山菜、おこわよっ」
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