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本屋の時間

2018.09.01 公開 ポスト

第44回

旅先の本屋辻山良雄

写真左上から、北海道の木彫り熊の名作を撮った『這い熊と吠え熊』(山里稔著/TOOV café / gallery)、知床半島(ウトロ側)のアイヌ語地名を一つずつ写真と文章で追いかけた『知床半島西岸の地名と伝説』(斜里町立知床博物館協力会)、写真家の石川直樹が編集長となり、斜里町に住む人、その自然にカメラを向けた『SHIRETOKO! SUSTAINABLE』(知床斜里町観光協会)。いずれもこの夏旅先で買い求めたもの。

 この夏は記録的な猛暑にも関わらず、多くのかたに店にお越しいただきありがとうございました。会計の際にイントネーションが違うなと思ったら東北からのお客さんだったり、「大阪から来ました。スタンダードブックストアの中川さんから『まだTitleに行ってへんのか⁉』と言われてしまって……」と会って早々になぜか苦情を言われたり、ともかく様々な地域からお越しいただけたようです。

 人によって旅するときの楽しみは様々だと思いますが、本好きの人が旅をすれば、旅先にある本屋には、立ち寄らずにはいられないでしょう。さらに言えば「定有堂書店に行きたいから鳥取に行く」といったように、行きたい本屋ありきで旅をする場所が決まることだってあるかもしれません(そのような本屋好きの人に向けた、全国の本屋さんを特集したガイドブックが何種類も発売されています)。

 わたしも旅に出たら、その土地の本屋には必ず立ち寄ります(体が勝手に動いています)。大きめの新刊書店ならその地方について書いた本や、地元作家を集めた本棚があるので、まずはそこを見てその土地に関する大まかな知識を仕入れ、商業出版・個人制作問わず、地元で作られた出版物をいくつか買って帰ります。いまでは残念ながら書店がない地域も増えており、道の駅や個人美術館など、思わぬところに珍しい本が置いているケースも見かけるようになりました。

 いまはどの町にどんな本屋があるのか大体の情報があるので、店を探す手間が省ける反面、「こんなところに、こんなよい品揃えの本屋さんを見つけた!」という驚きはほぼなくなってしまったように思います。以前松本を旅したとき、何回か泊まったことのあるホテルのまえに新しい古本屋が出来ており、入ってみたら「どこからこんな本を仕入れたんだ……」と驚く品揃えでした。スイッチが入り、気がつけば何冊もの本を手にしていましたが、これが前もってその店のことを知っていれば、それほど感動しなかったかもしれません。いつかまたどこかの町で、そうしたうれしい出合いがあることを願っています。

 

今回のおすすめ本

 アルテリ 六号 (アルテリ編集室)

 熊本の橙書店が発行する文芸誌『アルテリ』の六号は、熊本文芸の魂のような存在でもあった、石牟礼道子の追悼特集。それぞれの書き手の故人にたいする想いが素直に表された、「アルテリだから」という内容です。

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー

三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念

東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。

※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
 

【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】

スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。

『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』

著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト

◯【書評】

『アウシュヴィッツの小さな厩番』ヘンリー・オースター [著]/デクスター・フォード [著]/大沢 章子 [訳](新潮社)ーーアウシュヴィッツを含む3つの強制収容所を生き延びたユダヤ人が書き残した悪夢のような日常とは? [評]辻山良雄
(Book Ban)

『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)

◯【お知らせ】

我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」

シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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