6年連続で「R&Iファンド大賞」受賞、直近の運用成績はなんと「年44.3%」を誇るカリスマファンドマネジャー、苦瓜達郎氏。そんな氏が満を持して発表した著書が、『ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること』だ。
多くの人が見逃している優良中堅企業=「すごい会社」を見つけるにはどうしたらよいのか? そして、投資で成功するにはどんなことを心がければよいのか? 本書の中から抜粋してご紹介します。
もっとも重視するのは「PER」
私は大学を卒業して社会人になってから、ずっと企業評価や運用の世界で生きてきました。この間、PERを重視するというスタンスは一貫しています。
もっとも、大和総研に入った91年当時は、PERの水準があまりに高すぎることに疑問を感じており、
「ずいぶん変な世界に入ってしまったな」
などと思っていました。当時、PERが低いといわれる銘柄でも50倍、100倍は当たり前だったのです。
私は、日本の株式市場に参加している人たちが、そろいもそろってとても適正とはいえない価格で株を売買していた当時の状況を、やはり異常だったと思っています。
バブル期の株価を引き合いに出し、「まだ当時の水準に戻っていない」などと現状をネガティブにとらえる人もいますが、あの時代の株価水準をまともな比較対象ととらえる向きには違和感を覚えます。
私が「株式市場がまともになってきた」と感じたのは、98年のアジア通貨危機以降のことです。それまでは見たことがなかった、PERが1桁の銘柄も出現し、それ以降は「買っていい」と思える銘柄もたくさん出てきました。
PERは何倍が目安か?
さて、ここまでお読みになったみなさんがいま最も知りたいのは、「PERが何倍なら割安と判断していいのか」でしょう。
あらかじめ申し上げておくと、残念ながら「PERが◯倍以下なら絶対に割安」という基準はありません。
利益が今後大きく伸びていくと考えられる場合、PERが多少高くても「十分に割安」といえることもあります。
また、成長性ばかりに目を向けるのではなく、業績が落ち込むリスクにも注意しなくてはなりません。短期的に急成長していても、業績が落ち込むリスクが高いと考えられる場合、高いPERを許容することはできません。
結局のところ、適正な株価水準は、企業の成長性や安定性を1社ずつ見ながら考えていく必要があるのです。
以上の前提に立ったうえでの話ですが、おおまかな「目安」はあります。
企業の成長率や成長が見込める期間、成長の確度を総合的に判断して、私が独自に算出している企業の「基準株価」は、今期予想純利益の15倍程度が目安となります。
15倍というのは、「高成長企業ではないものの伸びしろはあり、さほど大きなリスクがない安定成長銘柄」の場合です。かなり堅調な成長が見込める場合なら10倍台後半程度で計算することもありますが、通常は高くても20倍程度までです。
一方、「あまり伸びしろはないものの、日本経済全体なりの業績を上げそうな銘柄」となると、目安は10倍程度まで下がります。
もちろん、ときには成長性が非常に高い企業に出合うこともあります。そのような「例外的な高成長企業」の場合、50倍程度で計算することもあり得ます。この50倍というのは、私の基準では上限ぎりぎりの数値です。
株価は「間違い続けている」
投資先候補となる企業については、こういったイメージで「基準株価」を算出しておきます。そして実際の株価と比較し、基準株価との乖離率が高く、より割安度の高い銘柄ほど、投資の優先度を高めるわけです。
もちろん、「基準株価」は一度算出すればOKというものではなく、四半期ごとのタイミングで企業の業績などを見ながら必要に応じて調整していきます。
大きな変化があったときや、小さな変化の積み重ねの結果として居心地の悪さを感じるようになったときは、基準株価を見直すのです。
基準株価から考えて、割安度が高いものに優先的に投資していくわけですから、実際に私が運用するファンドで株を買うときは、算出した基準株価よりも安いところで仕込むことになります。
あとは、企業を継続的にウオッチしつつ、割安さの「引力」が働くのをじっと待ち、いざ株価が上昇したら売却する、というのが基本的な投資戦略となります。
なお、一般にはPERから株価水準が割安かどうかを判断する場合、同業他社のPERと比較したり、過去のPERの水準と比べたりするとよいといわれます。読者のみなさんも、株式投資のノウハウを紹介する書籍などで「同業他社との比較」や「過去のPER水準との比較」について目にしたことがあるかもしれません。
しかし、私のPERの目安の考え方は、業種を問わず変わりません。
また、私は過去のPERの水準から割安かどうかを判断することもありません。
なぜかといえば、私は基本的に「株価は間違い続けている」という前提で臨んでいるからです。すべての株価を疑っているからこそ、本来あるべき株価を計算し、比較してみるということをずっと続けているともいえます。
そもそもの株価が間違っていると考えれば、その「間違っている株価」から計算したPERで、あれこれ比較して割安かどうかを検討する意味はないと思うのです。