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WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.

2019.06.08 公開 ポスト

メディアを居場所にする方法

【居場所を考える】「ほぼ日」から学んだ「自発的な参加」を生み出すしくみ[再掲]佐渡島庸平

幻冬舎plusフェスまであと5日!!

安心できる居場所は、それはリアルな場である必要はありません。居場所をコミュニティだと考えるならば、オンライン上のほうが時間や距離といった物理的な制約なく、顔を出すこともできます。顔は知らなくとも、気が合う友達を見つけた経験をお持ちの方もいるでしょう。では、そのオンラインのコミュニティをより楽しく、魅力的な場所にするにはどうすればいいのでしょう? そこに「仕事をしている人がいない」ということが大事なようです。

*   *   *

従来のビジネスモデルが崩壊し、モノが売れなくなっているいま、ビジネスにおける成功は「コミュニティ」を持っているかどうかで決まる……。『君たちはどう生きるか』『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を仕掛けたメガヒット編集者、佐渡島庸平氏は、コミュニティの可能性をいち早く感じ、実践してきた第一人者だ。著書『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』は、そんな氏の「コミュニティ論」がたっぷり詰まった1冊。今回は特別に本書の一部をご紹介します。

iStock.com/Rawpixel

「ほぼ日」から学んだこと

楽天以外にも、コミュニティを作って成功している企業がある。「無印良品」「ほぼ日」「北欧、暮らしの道具店」「スコープ」などだ。どこも独自の事例があって、非常に面白い。

なかでも僕が影響を受けたのは、「ほぼ日」の糸井重里さんだ。『インターネット的』に書かれていることを理解するまで、僕は「ほぼ日」を完全に誤解していた。

今の「ほぼ日」の原稿の多くは、社員の人が作成しているが、初期は寄稿が多かった。多種多様な人が寄稿していて、非常に面白いサイトになっていた。でも出版社の社員であった僕には、納得できないところがあった。どの原稿も、原稿料が無料なのだ。そのような仕組みだと、作家はどうやって暮らしていけばいいのか? 糸井さんの人脈があるからできていることで、ビジネスの仕組みとしてはおかしいと思った。同時にベンチャーということに甘えている仕組みだと思った。

もしも、「ほぼ日」のサイトをメディアとして捉えると、そのような考え方になってしまう。しかし、そこをコミュニティで、ファンが集う場所だと捉え直したら、全く違う顔を見せる。

コミュニティをより楽しい場所、盛り上がる場所にするためには、そこで仕事をしている人がいないほうがいい。来たいから来た人、やりたいからやる人だけを集めることで、そこが魅力的な場所になる。もしも原稿料を払ったら、生活のためにやってきた人が集まってしまう可能性がある。原稿料を払わないというのは、自発的な参加を生み出すためのすごくいい仕組みの一つだったのだ。自発的な参加こそが、それぞれの居場所としてのコミュニティにつながる。

『宇宙兄弟』のサイトでさっそく実践

そのことに気づいた僕は、早速『宇宙兄弟』のサイトでも同じことを試すことにした。NASAの研究者の小野雅裕さんが、宇宙についての本を書きたいと僕に相談してきた。小野さんは、『宇宙兄弟』の監修をお願いすることもあり、宇宙への情熱、知識が圧倒的なことを僕もよく知っていた。しかし、宇宙について専門的な新書をいきなり作っても、この時代の読者には届かない。それで書き下ろすのではなく、まずは『宇宙兄弟』のサイトに、連載をしてもらうことにした。

連載をするにあたって、Twitterの運用をしてもらって、NewsPicksのプロピッカーになってもらうことにした。『宇宙兄弟』のサイトで記事を更新するたびに、小山宙哉さんと僕のアカウントで紹介することで、小野さんのアカウントに『宇宙兄弟』ファンが流入した。そして、NewsPicksでさまざまな宇宙関連のニュースをピックしてもらうことで、宇宙関連の人たちにもフォローしてもらうようにした。

フォロワーが集まってきたところで、Facebookに秘密のグループを作った。そこでは、サイトでたまった連載を、単行本用に書き直す相談を読者とすることにした。その秘密のグループに入ってくれた400人とは、小野さんが日本にいるタイミングでリアルな読書会をしたり、NASAにいるときはテレビ電話越しで読書会をしたりした。

僕が編集者として、原稿に口を出す必要はなかった。読者がわかりにくいと言えば、小野さんは書き直さざるをえない。僕よりも率直で厳しい編集者が何人もいる状態で、原稿を作っていった。本が出来上がるにつれて、それを売りたいという思いは、小野さんや出版社の編集者だけのものではなく、その秘密のグループにいる全員のものになった。タイトル『宇宙に命はあるのか─人類が旅した一千億分の八』も400人の話し合いで決まった。

発売日の1ヶ月ほど前から、読者による発売カウントダウンが自発的に始まった。読者が書店を回ったり、Amazonランキングを押し上げようと盛り上がりを生み出してくれたりした。そして、日経新聞の夕刊に竹内薫さんによる絶賛のレビューが載った。本の内容がいいとそういう運が巡ってくる。ファンの人たちが、そのことをSNSで拡散した。その結果、かなり専門的な内容である新書が、Amazonランキングの3位にまであがった。そうなるとリアル書店にも効果がおよぶ。あっという間に重版が必要になった。

誰も仕事として参加していなかった。みんなが楽しいから、やりたいからやった。それ以上でも以下でもない。自分ができる範囲で、自分ごととして参加する。その仕組みを用意することが重要なのだ。そして、その仕組みを僕に気づかせてくれたのは、「ほぼ日」だった。

イベント情報

幻冬舎plus presents
「人生の居場所をどう作る?
~つながりの見つけ方、孤独との付き合い方~」

出演:山口真由/カワムラユキ/松永天馬/矢吹透

日時:2019年6月13日 OPEN 18:30/START 19:30

場所:LOFT9 Shibuya
(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 1F)

チケット:前売¥2000/当日¥2500(税込・要1オーダー500円以上)

関連書籍

佐渡島庸平『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』

『君たちはどう生きるか』『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を仕掛けた、メガヒット編集者がたどり着いた、インターネット時代のヒットの法則! Apple、シャオミー、楽天、ほぼ日。 使われ続ける企業にはコミュニティが必ずある!

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佐渡島庸平

株式会社コルク代表取締役社長。1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、数多くのヒット作を編集。インターネット時代に合わせた作家・作品・読者のカタチをつくるため、2012年に講談社を退社し、コルクを創業。従来のビジネスモデルが崩壊している中で、コミュニティに可能性を感じ、コルクラボというオンラインサロンを主宰。編集者という仕事をアップデートし続けている。

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