従来のビジネスモデルが崩壊し、モノが売れなくなっているいま、ビジネスにおける成功は「コミュニティ」を持っているかどうかで決まる……。『君たちはどう生きるか』『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を仕掛けたメガヒット編集者、佐渡島庸平氏は、コミュニティの可能性をいち早く感じ、実践してきた第一人者だ。著書『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』は、そんな氏の「コミュニティ論」がたっぷり詰まった1冊。今回は特別に本書の一部をご紹介します。
投稿する内容は5つに絞る
ネット上にコミュニティを作るといっても、何から始めればいいのか、わからないと思う。「ほぼ日」ができたときは、サイトしか使えるものがなかったから、サイトだったのだと思うが、今はSNSのほうが早いし気軽にできる。
まずTwitter、Instagram、Facebookのアカウントを作るところから始める。コルクでクリエーターのサポートを開始するときも、まずそこから始める。
今度は、何を投稿すればいいのかわからないと思う。そのときに、フォロワーを増やすことだけを意識して、流行りそうなものを投稿しても意味がない。そのようなネタアカウントについたファンは、クリエーターがやりたいことを応援してくれる人にはならないからだ。まずは、自分が得意で、考えていて楽しいこと、自分が深掘りしたいことを10個決める。それについてだけ、投稿することにするのだ。
僕の場合は、もっと絞っている。
Twitterでは、
1 作品作りで気づいたこと
2 経営する上で気づいたこと
3 ベンチャーとして気づいたこと
4 エンタメ、経営についての面白いニュースの紹介
5 子育てで気づいたこと
だから、旅行をしたり、美味しい食事をしても、そのような内容をあげることはしていない。
僕はほとんどの思考を文字でして、写真を楽しむことがあまりないので、Instagramはなかなか楽しめなくて、苦戦している。だから、思い切って極端な方針にしている。全くインスタらしくない投稿だが、
1 本にまつわる投稿
2 クリエーターの些細なこと
のみを投稿するようにしている。
Facebookも、オリジナルなルールを決めて投稿するほうがいいのだが、そこまで時間を割けなくて、Twitterと連動させてしまっている。
ここで重要なのは、投稿内容を絞ることだ。範囲を狭くすることで、SNSのアカウントに個性が生まれてくる。そして、その個性を支援してくれる人だけが集まってくる。フォロワーを増やすことだけを考えるなら、話題になっているニュースについて自分なりの意見を発信していくのもいい戦法だ。しかし、価値観がずれている人もフォローしてくるから、発信するときに注意が必要になってしまう。発信をブレさせないことのほうが、クリエーターにとっては重要だ。
SNSは誰もが見られる。検索やリツイートなどの仕組みで、自分が意識していない相手も見ることがある。だから、公共の場で話すのと同じ感覚を持ったほうがいい。自分の意見を述べただけだと思っていても、誰かを傷つけている可能性もある。でも自分が詳しい、好きなことであれば、知見がたまっているので、不用意な発言をすることもない。
公共の場で話しているから、多くの人、縁がなかった人に気づいてもらえる。そのメリット・デメリットを理解しながら、Twitter、Instagram、Facebookを使う必要がある。
公共の場だから、なかなかコミュニティの親密度、熱狂度は低い。その場であげようとしても難しい。むしろ、接触回数を増やすことで、ゆるやかに親密度をあげて、熱狂度をあげすぎないように僕は設計している。
さらに意識する必要があるのが、ユーザーは、アプリを立ち上げるなどのアクションを起こした後に、情報に接している。ユーザーの気持ちに、安全・安心は確保されていない。さらに、同時にたくさんの情報に接しているので、繊細な詳しい情報は伝わらない。
SNSから有料コンテンツへ
そして、この3つのSNSを使うのに慣れてきたら、ブログやサイトに長めの詳しい記事を投稿する。それとSNSを組み合わせると、より個性が際立って、ファンが増えていく。
SNSのユーザーが数千人を超えて、記事を書いたりする運用に慣れてきたら、次のステップに移行する。もっとターゲットを限定したファンに向けての発信を準備するのだ。
最も一般的なのが、有料コンテンツだ。有料である時点で、ユーザーの参加意識が全く違う。マイクロコンテンツとして電子書籍を出してみたり、noteのようなサービスに有料で記事を出してみる。そのときに、今までの本を出すときの感覚で数千人に伝えようと思うと、失敗する。10人とか100人に届けば十分という感覚で発信する。
情報が爆発している時代に、繊細なニュアンスを伝えられる相手がいることは、すごく大きな価値だ。アナログな社会では、深さをはかることができなかった。だから、出版物は部数のような数字だけが指標となった。でも、今はネットによって、深いファンとつながれる。深くつながっているファンの価値は想像以上に大きい。
僕の1冊目の著作『ぼくらの仮説が世界をつくる』では、コンテンツが質だけの1次元から、親近感を掛け合わせた2次元になっているという指摘をした。ソーシャルゲームなど、インタラクティブなものは2次元的な面白さなので、作家も親近感を生み出さないと対抗できないという危機感があった。
そのファン全体の親近感もさらに要素分解すると、ファン数という1次元ではなく、ファン数×関係の深さという2次元で捉えられる。つまりファンコミュニティは質×ファン数×関係の深さの3次元であるという新しい気づきが、本書執筆の動機の一つだ。
より参加度の高いファンになってもらうためには、有料でユーザーに一歩踏み込んでもらうか、こちらから相手のプライベート空間に入っていくかの2パターンがある。
相手のプライベート空間に入っていき、メッセージを伝える方法としては、LINE@とメルマガが有効だ。どちらも登録してもらうハードルはすごく高い。しかし、一度登録してもらえると、深さは一気に深まる。
公共的なSNSだと、有名人など他のインフルエンサーと並列になるが、プライベートなSNSだと、家族や友人といった大切な人と並列になるからだ。
もしも商品を作ったら、それがどんなお店の、どの陳列棚に、どのように並べるかを工夫しようと思うはずだ。情報も全く同じ。情報を、どこに置くかまで編集して届ける必要がある。