やる気がないときは、努力や根性のような精神論で解決しようとすると、効果があるどころか悪化します。
原因は、あなたの中にあるのではなく、思わぬところにある場合が多く、それらが身体を蝕み、無気力状態に陥っているのです。
本書『「やる気が出ない」が一瞬で消える方法』では、7万人の臨床結果をもとに本当の原因を見つけだし、心理学的療法を行なうことで、日々の活力を取り戻す方法を伝授します!
今回は、いよいよやる気が出ない原因に迫ります!
「他者からの嫉妬」が、あなたの足を引っ張っている!
無気力状態を作り出してしまう大きな要素のうち、1つめに紹介するのは「他者からの嫉妬」です。
この章で説明する嫉妬は、自分が他者に対していだく嫉妬ではなく、主に他者が自分に対していだく嫉妬を指しています。ただ、多くの人は、自分が特定の人に嫉妬していることには気づいても、自分が他者から嫉妬を受けているという自覚が少ないはずです。自己評価が低い人ならなおさらです。ましてやその嫉妬が自分の「無気力」の原因になっていると思うことはないのではないでしょうか。「何もやる気が起きない原因が誰かからの嫉妬と関係しているって、どういうこと?」と感じる人が多いはずです。カウンセリングを行なっても、そこを理解していただくのにとても時間を要します。
人は、知らず知らずのうちに他者から嫉妬を受けることによって、その人自身の「快・不快」コードに狂いを生じさせてしまう場合があります。結果的に、他者からの嫉妬攻撃が「無気力」を生んでしまうのです。
上司の嫉妬攻撃により、動けなくなるAさん
嫉妬という感情は厄介なものです。逃れたくても逃れられず、しかも持っていること自体に気づけないケースも多いからです。嫉妬はトラブルの思いがけない原因となったり、「無気力」状態を作ったりもしてしまうのです。
まずはAさんの事例を紹介しましょう。
■エピソード 上司から受ける電気ショックで固まっていた
職場に、嫌いな上司が1人います。その上司にチェックしてもらう必要のあるプレゼン資料があると、作らなければいけないことはわかっていても無気力になってしまいます。プレゼン資料は、締切直前に何とか仕上げることができたのですが、会社に行くのがだんだん億劫になっています。「行かなきゃ」と思い、奮い立たせてようやく出勤している自分が嫌で嫌で仕方がありません。自分がどんどん「動けなくなっている」と感じています。(40歳、女性)
Aさんは、嫌いな上司がいることで本来のパフォーマンスを仕事で発揮できなくなり、無気力になっていました。最近はいっそう、「そんな自分はなんてダメなのだろう」と、その上司ではなく自分を責める方向に傾いていて、心身の不調を訴えて私のもとを訪れたのです。
「その上司のどんなところが嫌いですか?」と聞くと、「スネ夫みたいなところです」と答えます。ご存じの方も多いでしょうが、「スネ夫」とは大人気漫画『ドラえもん』に登場する、強者にはへりくだり弱者に対しては嫌味を言っていじめたりするいけ好かないキャラクターです。
「つまり、意地悪ということ?」
「意地悪ですし、ずるいんです。たとえば1カ月かけて準備してきた部下の資料を横取りして、手柄を取っちゃうとか。いつも自分より強い人のほうを向いていて、まったく尊敬できません。なるべくスネ夫と関わらないようにはしていますが、いま同じプロジェクトに取り組んでいるので付き合わないわけにもいかず……。私を傷つけるようなことを、“わざと”言っていることもわかるんですが、言われると、それでまた3~4日間は無気力になります」
Aさん自身にとっては気づきにくいことでもあるのですが、Aさんが動けなくなっている原因は、実は上司スネ夫による「嫉妬」にあります。Aさんの例は、とてもわかりやすい「嫉妬によって起こるバグ」を表しています。相手からの嫉妬が、Aさん本来の「快・不快」コードを狂わせている、とも言えます。
ところが、これを伝えたときのAさんの反応は「え?」だけです。表情すべてで、「意味がよくわかりません」と私に訴えていました。
Aさんは、スネ夫が嫌いであることは自覚しています。そしてスネ夫さえいなければ本来のパフォーマンスが発揮できるのに、とも考えています。ただ、無気力になって仕事が手につかないのは、あくまで自分の「心の弱さ」が原因だと思っています。スネ夫の嫉妬による攻撃が無気力の直接の原因だなどとは思いもよらないのです。
Aさんがケージの中の犬だとすると、スネ夫による嫉妬がケージを流れる電流です。
嫉妬というのは、自分よりも低いと思っている存在が自分より優れたものを持っていると感じるときに起こる感情です。「Aさんは自分より下だ」と思い込んでいるスネ夫は、そのAさんに自分より優れた能力があるのを察知したことで、嫉妬の発作を起こしたわけです。その結果、電流を放出してしまう(Aさんに嫌味を言ったり、無視したり、Aさんの企画をボツにしたりする)わけです。
Aさんは知らず知らずのうちにスネ夫からの電流を受け止め、それをみずから再現し、スネ夫になりかわって自分を責め、動けなくなっていたのです。この「自分はダメだ」「自分が嫌いだ」と思うこと自体が、スネ夫の嫉妬発作に巻き込まれていることを示しています。Aさんは、「スネ夫は嫌な奴だ」ということと「自分はダメな人間だ」ということが、別の問題だと思い、延々と悩み続け、ついには動けなくなっていました。ところが、前者と後者は別々に起きているのではなく、根っこでつながっているのです。
Aさんは「無気力になるのは自分がダメだからだ」と結論づけていました。ただ、このように考えるのは決してAさんに限らず、よくあることです。自分が無気力になっている原因が相手の嫉妬にあるという考え方は、普通はしないからです。
Aさんは実は、スネ夫から責められている事柄をみずから再現することで無気力状態になっています。「スネ夫から責められている事柄をみずから再現する」とは、第1章で心理学者マーティン・セリグマンによる実験を引用して述べた「学習性無力症」の説明を思い出せば、どういうことかわかっていただけるはずです。
つまり学習性無力症とは、努力を続けても期待する成果が得られない経験・状況が長びく結果、何をしても無意味だ、無駄だと感じるようになり、「無気力」になることです。
ケージの中の犬に電気ショックを与えた実験を通して、無気力・無力感は学習されるものだ、すなわち「お前はダメだ」という電流を流され続けると、その「ダメ」さをみずから再現するようになる──本当にダメになる──と説明しました。
相手から受ける嫉妬は、学習性無力症を引き起こす
Aさんに起きている無気力は、心理学的に言うと、スネ夫からの嫉妬攻撃で引き起こされる「学習性無力症」ということになります。
上司の嫉妬が無気力の原因であるということは、Aさんにとっては意外だったわけですが、スネ夫の嫉妬攻撃がAさんの脳内にバグを生じさせ、Aさんを動けなくしているのです。
Aさんが、本来のパフォーマンスが発揮できなくなる→自分を責めるという一連の流れの背後には、スネ夫による嫉妬攻撃があります。スネ夫の嫉妬が原因となって「快・不快」コードに狂いが生じ、Aさんにバグが生じているのです。
自分を嫌いになった現状のAさんが、「私なんか、私なんか」と自分を卑下していると、ますますスネ夫が望む通りの──スネ夫よりも弱く、能力のない──Aさんになっていきます。Aさんにはそれこそ「自己卑下癖」のようなものが身についてしまい、その癖が実際の言動にも表れるようになっていく、というわけです。
嫉妬を恐れ、嫉妬を避けようとする行為自体が、嫉妬を意識していることになり、それがAさんの「快・不快」コードの狂いをより大きくしていくからです。
嫉妬とは発作である
さまざまなハラスメントは「発作」のようなものです。
たとえばAさんに対するスネ夫のように、上司が部下に嫌なことを言ったりしたりするのは、嫉妬が引き金となって発作を起こしている、と説明することができます。「女のくせに!」とか「俺より優れたものを持って偉そうに!」という感情から発作を起こし、相手を低い位置に落とすために意地悪をしたり暴言を吐いたりしてしまうわけです。嫉妬で発作が起き、自覚もないまま相手が傷つくことを言ったりしたりしてしまうのです。
ほかにも、自覚されづらいけれどよくあるケースが、夫婦間の嫉妬による発作です。たとえば妻に「○○を捨てておいてね」と言われた夫が、その○○を捨てない、というような場合は、夫に「受動攻撃」という発作が起きています。この例は妻のほうが夫より能力が高いと夫が感じ、夫が妻に嫉妬する(夫自身は気づいていないことが多い)ことによって起きます(妻に頼まれたことに限って夫はやらない)。受動攻撃の発作を起こす男性は、一見すごく優しい男性が多いので、周りからは夫が妻に対してそういう攻撃をしていることが理解されにくくなります。それによって妻のほうは、怒りでよけいに心身が蝕まれ苦しくなっていく、という経過が見られます。
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やる気が出ない原因が「他者からの嫉妬」にあるという可能性、意外だったのではないでしょうか。
「もしかして、あの人から嫉妬されているかも」と自覚するだけで、蓄積した無気力が解消されます。
他者からの嫉妬とやる気のメカニズムや、他者からの嫉妬攻撃の回避のしかたは、『「やる気が出ない」が一瞬で消える方法』に掲載されているので、ぜひ読んでみてください! (編集部)