くじけそうなとき、負けそうなとき、古今東西の「名言」が、自分を助けてくれることがあります。ロングセラー『人生は名言で豊かになる』は、スティーブ・ジョブズ、シェイクスピア、チャップリンから、村上春樹、立川談志、坂本龍馬、良寛まで、著名人や歴史上の人物の「名言」を多数収録。どのページを開いても、心が晴れやかになる一冊です。本書の中からいくつか抜粋してお届けします。
「Stay hungry, stay foolish.」
――スティーブ・ジョブズ
21世紀を代表するカリスマ経営者
カリスマ性のある経営者といえば、日本では松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫といった名前が挙がる。いずれも、日本の高度成長を支えた巨大メーカーの経営者たちだが、21世紀を代表する世界的なカリスマ経営者といえば、スティーブ・ジョブズをおいて他にはいないだろう。2011年、わずか56歳でこの世を去ったアップル社の創業者の一人で、2000年からはCEOを務めていた。
スティーブ・ジョブズについては、評伝なども多く、あまりにも語られすぎている感があるけれど、語られすぎるに足るだけの人物だったということなのだろう。
私などはITにはとんと疎いため、スティーブ・ジョブズのプロフィールについてもほんの概略しか知らないのだが、それでもいまから二十数年前、彼が友人とつくったマッキントッシュというコンピュータを初めて見たときは、その造形の美しさに目を見張ったものだ。ウィンドウズを搭載した国産のパソコンと比べると、モノとしてのたたずまいが全然違った。
パソコンに詳しい友人にいわせると、使い勝手もマックのほうがずっといいらしく、実際、編集仕事でパソコンを使いこなしている友人たちには、圧倒的にマック党が多かったものだ(私はといえば、当時も今も富士通のワープロ、親指シフトのオアシスしか使えないため、いまだにマックどころか、ふつうのキーボードのパソコンすら使えない……)。
そんな一部マニア向けのアップル社製品が一般に浸透したのは、iPod、iPhone、iPadが次々に大ヒットしてからだろう。
独自の哲学による、独自のモノづくり──そんな彼の姿勢が若者から拍手をもって迎えられたのは、そのプレゼンテーションの上手さにも理由があった。アップル社では、新製品を発売するたびに、スティーブ・ジョブズ自身が発表会の壇上に立ち、マイク片手に新製品の特長をアピールするのが常だった。ジーンズにシャツというラフな格好で聴衆に語りかけるジョブズはまさにカリスマというほかなく、聴衆はさながらジョブズ教の信者だった。
あの「名言」には引用元があった
そんな“教祖”は、名言集も編まれるほど数々の言葉を残している。ここで取り上げたのもそのひとつ。「Stay hungry, stay foolish.」は、2005年、スタンフォード大学の卒業式に来賓として招かれたジョブズが、祝辞の最後に締めの言葉として使った言葉である。
「飢餓感を持て、バカであれ」
「バカ」がいいすぎなら「愚直」でもいいけれど、スタンフォードという超エリート大学の卒業生に向けた祝辞としては、これほどふさわしい言葉もない。さすがジョブズだ。
ただ、この言葉は、ジョブズのオリジナルではない。彼がスピーチのなかでも述べているように、この言葉は1960年代後半に創刊された「The Whole Earth Catalogue(全地球カタログ)」という雑誌の最終号の裏表紙に印刷されていた言葉なのだ。
ヒッピー文化を象徴するといわれたこのタイプ印刷の雑誌は、ジョブズにとってもバイブルだったようで、彼は「グーグルが出る35年も前の時代に遡って出されたグーグルのペーパーバック版とでもいうべきものだった」と絶賛している。
ネットで検索してみると、この最終号の写真が見つかった。アメリカの片田舎の早朝、雑草が生い茂る田舎道に何本か電柱が立っている。写真の上半分は青空で、映画『イージー・ライダー』のロケに使われたような風景だ。
その写真の上に、「Stay hungry, stay foolish.」という言葉が印刷されている。「この田舎道から、どこに向かおうが君の自由だ」「飢餓感を持ち、愚直であることによって、未来を自分で切り拓いてみろ」──そんなメッセージが私には聞こえてくる。
実際、ジョブズは、この言葉に出会ってから、つねに自分自身がそうありたいと願い続けてきたといっている。
もちろん、彼の願いは結実したわけだが、その原動力が60年代末に創刊されたミニコミ誌の言葉にあったことを思うと、ジョブズと同世代の私としてはちょっと感慨深い。