アメリカは11月の中間選挙を前にトランプ大統領の脱税疑惑が報じられたり、「トランプの忠実な代弁者」とされてきたヘイリー国連大使が辞任を表明するなど揺れているが、トランプ支持者は相当に強固な岩盤と化しており、崩れることはないのではないかというのが専門家の見立てらしい。トランプ支持層には、「オルタナ右翼」と呼ばれる排外主義的な極右思想の集団や、陰謀論に傾倒して「信じたいものだけを信じる」集団などが形成されている。日本で言う「ネトウヨ」がさらに症状を悪化させたような状態だ。そして、自己都合で過激な極右思想に対抗して活動しているのもまた、何事も自己都合に解釈する極左の集団である。
オルタナ右翼「えっ、テイラーは僕らの女神じゃなかったの!?」
10月7日夜、アメリカで若者からの絶大な支持を誇る歌手テイラー・スウィフトさんが、1億1200万人のフォロワーを持つ自身のインスタグラムで、突如、11月の中間選挙では地元テネシー州の与党・共和党の候補を支持しないことを表明、投票を呼びかけた。テイラーさんは、これまで自身の政治的信念を一切表明してこなかったため、この呼びかけは驚きを持って瞬く間に広まり、投稿後24時間で6万5000人が有権者登録の手続きを行ったという。トランプ大統領は、記者につつかれ「彼女の音楽を前より25%好きじゃなくなった」と発言している。
この事態に発狂しているのは、極右思想でトランプ崇拝状態となっているオルタナ右翼である。ワシントンポストによると、テイラー・スウィフトさんはオルタナ右翼からなぜか「隠れトランプ信者に違いない」「僕らの女神だ」「ネオナチ(白人至上主義)のアイドル!」などと信じ込まれてきたため、今回の表明によって“like a hammer”まるでハンマーで打ちのめされたような衝撃を受けているという。本人が政治的信念を一切表明してこなかったのに、なぜ「僕らの女神だ」などと信じ込まれてきたのか?
テイラーさんは、もともと人気に比例して「歌詞がバカっぽい」「カントリー出身だから保守系なんだろう」などと難癖をつけられ嫌われてきた経緯があったようだが、「ネオナチのアイドル」と化した最も大きなきっかけは、数々の差別・排外主義を扇動した末に、現在アメリカのネット企業から締め出され、ロシアのサーバーに移転したネオナチサイト『Daily Stormer』が2016年に報じた妄想記事のようだ。
この年のアメリカ大統領選挙でトランプ大統領が誕生することになるが、記事は「テイラー・スウィフトは『アーリア人の女神』と称えられている」とし、テイラーさんがまるでナチスであるかのように紹介。記者は「テイラー・スウィフトは隠れネオナチだ。ドナルド・トランプが大統領になり、自分がネオナチであることをカミングアウトする時を待っている」「彼女はトランプの息子のいいなずけとなり、アメリカ王室を築くであろう」などと発言した。もちろんテイラーさん本人はなにも発言していないのだから、まったく根拠のない荒唐無稽な誇大妄想なのだが、テイラーさんをアイドル化した極右思想のコミュニティがSNS上に形成されるなど「妄想」は波及していった。
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オオカミ少女に気をつけろ!
嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。
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