「やりたくないな~」と思う仕事を任されることは、誰でもあるものです。
私の場合は、会社から「コンプライアンス委員会」の立ち上げを任されたときでした。忙しいなか、本来の業務時間を削ってやるわけです。各部署から集められたメンバーにとっても、「面倒くさい」以外の何物でもありません。
とはいえ、任された以上は、しっかりしたアウトプットを出さなければなりません。「どうせやるなら、モチベーションが上がる方法を考えよう」と、プロジェクト課題として捉えることにしました。
まず、業務の意義から動機づけが図れないか考えました。しかし、あっけなく挫折します。どうやっても、「素晴らしい意義ある業務だ! やってやろう!」とはならないのです。考えてみれば当たり前で、みんな意義はわかった上でやりたくないのです。
次に、会議自体を楽しいものにしたらどうかと、プロセスに活路を求めました。
が、やっぱりダメでした。それでうまくいくなら、どんな業務も楽しくなるはずだし、そもそも、「楽しい会議」自体、コンプライアンスよりはるかに難しいテーマです。
たどり着いたのが、「アウトプットに集中するしかない」ということでした。本来的な業務の意義、プロセスでの解決をあきらめてしまっているので、いささか情けない話です。しかし、「限られた時間のなかで最適解を見つけて全力で取り組む」というプロジェクトマネージャーの本分を忘れてはいけません。選んだ解決策に全力投球するのみです。
野心的な3つの方針を立てました。
1.最高水準のレポートを短期間でつくる
2.テーマから予想される堅苦しさをなくす
3.経営トップに向けて報告会を開く
1は作業の集中力を上げる効果があります。ムダに長いものではなく、背景と目的、施策とスケジュールに絞り込んだレポートがゴールです。期限を定め、定例会議のスケジュールも設定しました。それで「この期間だけは特化してやる」と覚悟が決まりました。
2では、現場の生の声をできる限り取り入れました。ニーズを解決する視点でレポートをつくるためです。読み手の興味を惹くもののほうがわかりやすく、作業のやりがいも上がります。
3は求められたものではありません。委員会として開催し、トップを含めた経営陣を集めました。パフォーマンスを見せるため、委員会メンバーの士気を上げるためです。
こういう業務は、終わってみれば、知識・経験が共有化でき、メンバー同士の絆も深まるので「やって良かった」となるものです。しかし、スタート時点での方針が緩いと、レポートの仕上がりは、ありきたりで自己満足なもので終わってしまいます。
せっかくやるのなら、一つ上のクラスのレポートを目指してモチベーションを上げるべきです。「自分たちに任せたらこのレベルのものに仕上がるんだ」という強烈なメッセージを込めましょう。
それが、次にどんな仕事があなたに任されるかを決定するのです。
▼一つ上のレポートをつくる視点
【レポートは簡潔に、の穴】
どんなことにも当てはまる話ですが、常識的に語られていることを鵜呑みにしてはいけません。「簡潔に」という言葉の背景には、くだらなく長いレポートに辟易した管理職の悩みがあります。下手くそなレポートが標準だったころに、簡潔にまとめさせることによって、ムダな記述を削っていたのです。
確かに簡潔なもののほうが読み手は楽ですが、いき過ぎた簡潔さは、不十分な理解や、読み手による解釈の違いを生みます。レポートのなかで背景や目的、作成者の指針についてはしっかりと語りましょう。
アマゾンのジェフ・ベゾス氏は、株主宛の書簡で、「アマゾンではパワーポイントでのプレゼンは行っていない」「代わりに6ページのメモを用意し、会議の初めに皆で静かにそれを読む」「優れたメモを作成するのには1週間以上かかる」と述べています。
彼が講演などで語っている内容を総合すると、会議の前に時間と労力を割いて、背景や前提を正確にそろえておくことで、高いレベルの議論が可能になるということです。
一人の作成者が努力をすることで、多くの人間の時間を有効に働かせることができる、効率をとことん高めようという強い意思が感じとれる内容でした。
効率や効果を高めるものは入れ込む、ムダなものは徹底して削り純度を上げる、という作業をどこまでやれたかが、レポートの質を決定します。
ただ単に省くだけにならないように。自分が必要と思う内容は怯まずに入れて、その上で時間をかけて磨きあげましょう。
【目次を磨く】
わかりやすい目次には、「読み手の頭をスタンバイする」効果があります。冒頭または表紙で、レポートの全容を示すことにより、読み手は展開とゴールを想定しながら、ストレスなく読み進めることができます。
レポートを「一つ上」にするには、わかりやすさに加えて「興味を惹く」要素を入れましょう。
「Before」 → 「After」 で示してみます。
・「市場調査について」 →「市場調査―激変するアジアマーケット」(状況を見せる)
・「ヒアリング結果」→「30代女性顧客層へのヒアリング」(対象を見せる)
・「顧客営業について」→「上位20%最重要顧客の囲い込み」(方針を見せる、数字を使う)
・「社内教育について」→「Google社をモデルにした社内教育」(固有名詞で惹きつける)
【図解する】
「レポートはワードを使う」などという、暗黙のルールがまかり通っているケースがありますが、本当かどうか、いまでもそれが適切か、は疑ってかかりましょう。
企業向けにレポートやプレゼンを作成する際に、「原則」と書かれていたら、「例外」もOKという意味です。
本文を原則でつくって、「補足資料」として例外を付ける分には問題ありません。不安、不明な点があるなら、受け手側にどんどん質問しましょう。
外資系企業としてコンペに出ることが多かったのですが、基本ルールはほぼ気にしていませんでした。もっとも効果的な手法を考えて、開催側に具体的に可否を問い合わせると、OKになるケースがほとんどでした。
【ヒアリング、インタビュー結果を交える】
現場の声、専門家の意見を加えるだけで、レポートに「地に足のついた」印象を与えることができます。とてもお得な手法です。私は、どんなレポートであっても、必要程度が高くなくても、できる限り「生の声」を入れるようにしています。受け手に与えるインパクトが大きいからです。それだけ受け手のニーズがあるということです。
テレビでの街頭インタビューを思い出してください。普遍性に欠ける、予定された答えが得られた部分のみを取り上げたものでさえ、形としては成り立っています。
正しいモラルで行った「ヒアリング」や「インタビュー」の効果は絶大です。
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