テレビでもおなじみの教育学者の齋藤孝さんは、実は大の喫茶店好き。なんでも会社や自宅では発揮できない密度の集中力で、仕事や勉強にとり組めるのだとか。実際、毎日3軒をハシゴして、全仕事の半分以上を喫茶店でこなしているそうです。
齋藤さんの著書、『15分あれば喫茶店に入りなさい。』は、そんな喫茶店の活用術と、効率&集中力アップのコツが満載。読んだら絶対、喫茶店に行きたくなる本書から、一部を抜粋してお届けします。
なぜ私はネット検索をしないのか
パソコンで仕事をしている人を喫茶店で見かけることが多くなりました。私は喫茶店ではパソコンで文字を打ち込むことはあっても、インターネットをすることはありません。基本的には、手書きでアイデアを出します。
いまのインターネットは検索の利用が中心です。なにかを引いて、また引いて……と、どんどん検索で引いていくわけですが、私はインターネットの検索で調べものをすることはあまりありません。
その理由は次の三つです。
(1)知りたいことに対して、確かな情報が期待できない
どのレストランが美味しいか、といった情報に、私は興味がありません。調べたいことは、たとえば「ゲーテとニーチェの関係は、どのようなものだったか」といった問題です。こうした問いかけにきちんとした答えを出せる人は、日本に三人くらいしかいません。インターネットで検索するよりも、その三人が書いた本を読むほうを、私は選びます。
(2)検索やネットサーフィンで時間が消費される
インターネットを使っていると、あっという間に時間をとられます。これはとても危険なことです。テレビはつけっぱなしにしていても仕事ができますが、ネットサーフィンをしながらでは仕事はできません。
学生がネットで検索している様子をたくさん見てきましたが、忌憚なく言わせていただくと、いくら検索をしても頭はよくならない、というのが私の持論です。
もちろん、世のなかにはインターネットを駆使するタイプの仕事があります。ネットのすべてを批判するつもりはありません。しかし、ネット検索をいくらしても頭はよくなりません。
頭がよくならないインターネットに時間を使いたくない。それが私の基本スタンスです。
(3)インターネット依存は水平思考を促す
最大の理由はこれです。インターネットをしていると、考えが次から次へと横にスライドしていき、垂直に深まりません。
インターネットはもちろん便利です。利用するのは当然です。しかし、私が危惧するのは、人々がインターネットに頼りすぎている傾向です。検索で情報収集ができるため、コピペをするだけでレポートまで書けてしまいます。ただし、ネットサーフィンをいくらしても、思考は深まりません。
新しい発想、新しいアイデアは、ネットサーフィンの水平思考からは生まれません。
一日のうちで短時間でも「垂直思考」を行う時間を確保すること。
それは現代人にとって大きな課題です。そのためにも一日に一度はパソコンを持たずに喫茶店に向かう、そして垂直思考をすることをオススメしたいのです。
「水平思考」より「垂直思考」
なぜ、わざわざ喫茶店に行って「垂直思考」をするのか。
現代人は、かつてないほど、高い生産性やクリエイティブな価値を生み出すことを求められているからです。
たとえばコンセプトを考える力です。
先ほど触れた「質問力」も、コンセプトといえます。「コンセプト」というと一般的には広告代理店やマーケッターなど、いわゆる横文字の職業に就く人々が使う言葉と思われていますが、私はいまは、生きている人すべてがコンセプトを考える必要に迫られている時代だと思っています。
どうしたら会社の経費削減が実現できるか。どうしたら五人で分担していた仕事を三人でこなすことができるか。
目に見えない事柄、存在しないものを生み出すために、中心となる概念を見つけて適切に命名するのが「コンセプト」です。正解が必ずしもひとつではない。または正解があるのかどうか誰もわからない問いかけに向かって、知恵を絞る。コンセプトを考えるというのは、きわめて高度な思考です。
たとえば経費削減の方法だったら、「使用電気料を減らそう」というコンセプトを思いつくかもしれません。すると、退室時には必ず電気を消す、使用後にはコンセントを抜く……といった具体的な経費削減の方法が見えてきます。
負荷をかけないと筋力が伸びないのと同様、人間の頭も負荷をかけないと思考力は伸びません。
私は運動部のコーチをずっとやってきました。たとえば温泉に行って浴衣で卓球をしても強くはなりません。強くなるには腰を落とし、カニのように横にサッサッと動いて素振りをする。そうした基礎練習を繰り返すしかないのです。運動部とはそうした負荷をかける場です。
頭に負荷をかける場、それが喫茶店です。