テレビでもおなじみの教育学者の齋藤孝さんは、実は大の喫茶店好き。なんでも会社や自宅では発揮できない密度の集中力で、仕事や勉強にとり組めるのだとか。実際、毎日3軒をハシゴして、全仕事の半分以上を喫茶店でこなしているそうです。
齋藤さんの著書、『15分あれば喫茶店に入りなさい。』は、そんな喫茶店の活用術と、効率&集中力アップのコツが満載。読んだら絶対、喫茶店に行きたくなる本書から、一部を抜粋してお届けします。
「雑談」のネタを仕込もう
喫茶店で仕事をするときは、必ず手帳をテーブルの上に開きます。
手帳には、いつどこで誰と会うか、といったスケジュールだけではなく、その人となにを喋るかも予めメモしておきます。白い紙に図を描きながらネタ出しをしていくうちに思いついた、「ここだけは言おう」というポイントを、手帳にメモしておくのです。
人に会って話をするとき、ある程度事前に話題のラインナップを出しておき、そこからいくつかセレクトして喋れば、雑談のような会話でも精度が高まります。
雑談は案外難しいものです。慣れない人がやると本当に雑なものになり、沈黙が場を支配してしまう。「最近けっこう暑いですよね」などという、どうしようもない会話にならないよう、つねにある程度のネタを用意しておくべきです。
いい雑談には、相手にとって有益な情報があります。たとえば映画について話すとき、友だち同士ならば「あれは面白かったよ」程度でもいいのですが、仕事上の雑談ではそうはいきません。雑談のようでありながらも、相手を楽しませることが大事です。
なにかの拍子に最近評判になっている映画の話題が出たとき、話が滑らないようにするための下準備を喫茶店でしてしまいましょう。
雑談は、過去に二、三回話したことのある話題のほうが上手くいくものです。はじめは友だちや家族を相手に練習してもいい。失敗してもノープロブレムですし、上手くオチがつかなくてもかまいません。
お笑いの芸人も、昔にくらべて競争が厳しくなっています。誰もがそうした芸を見慣れているので、一般人の日常的な会話のセンスも、以前より高いものが要求されています。コメント力もテレビで鍛えられているので、「そんなことあるかいな」といったベタなツッコミは通用しません。
ビジネスの場面でも、「どうせ話をするなら、反応のいい人と話をしたい」というケースが増えています。15分の暇ができたら喫茶店でひとつはネタ出しをする。この作業は家でやっていると、とても暗くなります。喫茶店でやるのがピッタリです。
喫茶店で2時間もちますか
私は以前、マンガ家の倉田真由美さんと共著で、『喫茶店で2時間もたない男とはつきあうな!』という本を出したことがあります。
喫茶店は極端にいえば、相手と「話す」しかない場所です。喫茶店に誰かと一緒に入った場合、そこでは人の対話力が露わになります。
レストランであれば他に美味しい食事があり、映画館であれば映画があるのでごまかしが利きます。ところが、喫茶店では、無防備でまっさらな自分で相手と向き合うことになる。
素手で相手に向かったときに、自分の力がはっきり見えてきます。
倉田さんとの本で書いたのは、自分ははたしてそこで2時間もつ男なのかどうか、チェックしようということです。
私は、男は「もち」が大事である、という信条をもっています。「喫茶店で2時間もつ」かどうかは、人を判断するうえでひとつの目安になります。
盛り上がらなければ「もっていない」ということになる。長時間になるほど、話す力以上に聞く力が大切になります。
「2時間たってもまだまだ二人で走れる!」という加速のついた状態が、「もちがある」ということなのです。
喫茶店は人間を裸にしてしまう場所なのですから、男女間でも、もっと喫茶店を有効に活用すべきでしょう。
女性を食事に誘うのもいいですが、食事の場合は、美味しいものによる高揚感も生じ、相手を正確に見極めるのがより困難です。
喫茶店では、目に見えないところで、膨大な情報交換が高速に行われています。相手がどんな人物かを見るのに、喫茶店は最適です。
人との出会いの機会はいろいろありますが、喫茶店で少しずつ話をしていくことで、一生暮らしていける相手かどうかもわかります。会話のできない人とは、結婚生活だけでなく、一緒に仕事をすることもできません。話しているうちにどんどんアイデアが湧いて盛り上がっていく感覚が、その相手と喫茶店で味わえるかどうかは大事なことです。
男同士の商談でも、飲みながらや食べながらではなく、素手で向き合ったとき、そこで露わになるもので勝負できるかどうかが重要です。
いつでもどこでも、まっさらな状態で会話だけを中心にできる喫茶店という空間が、街中にあふれているというのは素晴らしいことです。