テレビでもおなじみの教育学者の齋藤孝さんは、実は大の喫茶店好き。なんでも会社や自宅では発揮できない密度の集中力で、仕事や勉強にとり組めるのだとか。実際、毎日3軒をハシゴして、全仕事の半分以上を喫茶店でこなしているそうです。
齋藤さんの著書、『15分あれば喫茶店に入りなさい。』は、そんな喫茶店の活用術と、効率&集中力アップのコツが満載。読んだら絶対、喫茶店に行きたくなる本書から、一部を抜粋してお届けします。
スタバの何が違うのか?
初めてスターバックスコーヒーに入ったときは、値段が高くて驚きました。
大学の卒業生に、「あそこのカフェオレは美味しいですよ」と勧められて行ったのですが、結構な値段なのに、よくこれだけのお客さんが入ると思いました。
たしかに飲み物は美味しいのですが、一杯二〇〇円のコーヒーとくらべると、値段が倍近くも違います。それなのになぜ、スターバックスにあれほど人が入っているのでしょう。
たんに格好つけている、というのともちょっと違うし、美味しいというだけでもない。
いままでの日本にない、「大人が向上心をもっていてもおかしくない場所」だったからだと思います。
それまでの日本の喫茶店には、「ビジネスの空気が流れている」ことがあまりありませんでした。そこで商談をする人はいましたが、空気そのものにビジネス感が漂い、なおかつリラックスした雰囲気も流れている、というお店はほとんどなかったように思います。
スタイリッシュで、リラックスしていて、なおかつビジネスの香りがする。
この三つの輪が重なっているのが、スターバックスの魅力です。発祥の地がアメリカのシアトルという都市であることと関係していそうです。近郊にはマイクロソフト社やニンテンドーアメリカが本社を置き、いかにも現代的なビジネスマンの雰囲気に触れることができるイメージがあります。
オフィスでもないのに、どこかビジネスにフィットしているのがスターバックスの空間です。そこでする仕事は、ビジネスをしているというよりも、どこか「大人の勉強」という感じがします。
スターバックスに入ってまわりを見渡すと、語学や資格の試験のために、大人が一生懸命勉強しています。学生が義務でレポートを書いているのとは違って、仕事のステップアップをしたい、という大人の向上心が強く感じられます。
「始業前の1時間」を活用する
仕事はあくまでも会社のオフィスでやるもので、仕事が終わったら同僚とお酒を飲みに行って終電で帰り、次の朝にまた会社に集まる。そうやって男同士が肩を組んで酔っぱらうことが仕事だった昭和時代は終わりました。
いまでは社員の一人ひとりがスキルを磨く時間をとるようになり、なにがなんでも朝九時から夕方六時までというのではなく、仕事に拘束されない自由な時間も増えてきました。
その合間の時間をどう使うかが、いまのビジネスマンには非常に大事になっています。
その時間を上手く使うスキルが身についている人は、生産性が高く、仕事の実力がついています。
そういう人には仕事のオファーが集中し、仕事の単価も高くなります。
私が東大で教えていたある学生は、経済学部を出た後に金融系のサラリーマンをしていました。あるとき司法試験を受けたいと思い立ち、会社勤めをしながら勉強を始めました。
彼の勉強のやり方がユニークでした。
朝、会社に行く前に、毎日スターバックスで1時間から1時間半、必ず勉強するというのです。
そうやって出勤前に勉強をしていたところ、会社員をやりながら、司法試験に受かることができました。
帰宅してからも、ものすごく勉強したと言っていましたし、本人がもともと優秀だったこともあるでしょう。
でも本人は、「いちばん効果的だったのは出勤前のあの1時間の勉強だった。あの時間はものすごく生産性が上がりました」と言っていました。
勉強をした場所も関係あったのかと聞いてみたところ、「スターバックスには向上心をもって勉強している人が他にもいて、その前向きな空気が、自分にもポジティブな影響を与えた。朝から勉強している人ばかりでした」とのことでした。
朝から会社のすぐ近くにあるスターバックスで勉強をしているビジネスマンは、直前まで勉強していても絶対に遅刻しません。早めに家を出れば、満員電車のラッシュアワーにも遭わずに済みます。
また、1時間ちょっとしか勉強できなくても、これから会社が始まるかと思えば、始業時間までに勉強を終わらせようとします。
そうやって図らずも「お尻に火のついた状態」「常時締め切り状態」になるのが、朝に喫茶店で勉強することのよいところです。