2025年、日本の大企業にも「40歳社長」が多く誕生する――。
変化が予測できない時代に求められるリーダーとは何なのか?先見的な経営トップのいる会社は、次世代のハイポテンシャル人材たちに向けて「社長候補づくり」への取り組みを既に始めています。15年間、毎年200人以上の経営者のリーダーシップ開発を支援してきた著者が明かす「40歳社長」のなり方・創り方のノウハウを、『40歳が社長になる日』から抜粋してご紹介します。
傍流はむしろ喜べ。
世の中の保守化が進んでいる影響もあるのでしょうか。最近では会社に入って最初の配属先が本流ではない部門だと、ショックを受けてしまう新入社員も少なくないと聞きます。
しかし、いわゆるキャリアのベストプラクティスのようなもの、昔であればエリートコースのようなものは、もうすっかり虚構になっています。
例えば、大きなメーカーなどでは、花形は営業1部で、そうした〝一丁目一番地〟の人たちが偉くなるといった話がまことしやかに語られているようです。
サービス業なら、できるだけ有名な取引先を担当するのがいい。それこそ、日本を代表する企業を担当した人が社長になる、などという都市伝説もあります。
しかし、実際にそんなことはまったくないわけです。大手広告代理店で、日本で最も大きな会社であるトヨタ自動車を担当した人が必ず社長になっているのかと言えば、そんなことはありません。かつての出世コースは、今日、そして未来の出世コースとは限らないのです。
一方、新入社員が最初の配属でいきなり関連会社に出向になって、鬱うつになってしまった、という話を聞いたこともあります。
しかし、最初の配属先が関連会社というケースは少なくないですし、決して悲観する必要はありません。関連会社出向から、最年少役員になった人もいる、という事実もぜひ知っておいてほしいと思います。
実は大企業でも、本業ではないところの出身者がトップについていることが少なくありません。先にもご紹介した、富士フイルムの古森重隆会長は、傍流の事業の出身者です。
配属に関して言えば「むしろ傍流のほうがいい」とすら私は思っています。例えば、保守本流であれば、ビジネスは比較的スムーズでしょう。しかし、本流ではない小さな事業であれば、それなりに苦労を強いられるはずです。これは逆に言えば、成長できる機会がたくさん得られるということでもあります。何度も繰り返し説明している〝お稽古場〟〝修羅場〟体験ができるのです。
会社は修羅場に送り出せ
関連会社では、さらに厳しい状況に、身を置くことになります。経営人材の層が薄い可能性もありますから、早めに意思決定の機会を得ることができる可能性もあります。だからこそ、主流のエリートよりも速く成長できて、最年少役員まで一気に上がれたりするわけです。
そしてマネジメントポジションになったときは、関連会社はより魅力的になります。それこそ東京駅のような大きな駅で次長をやるよりも、小さな駅で駅長をやったほうがよほどたくさんのことが学べるでしょう。「経営トップ場数」、最終意思決定者の経験をできるかの問題なのです。
何よりB/S、P/L、キャッシュフローという財務三表を自分で見ることができるようになるのは大きなメリットです。かなりハイレベルの経営経験をすることができます。資金繰りの厳しさまで実体験することができたなら、これはかけがえのない経験になります。
大きな組織の関連会社なら、出向中という身分保障の社内保険がかかっているところで、経営リーダーに直結していくような、修羅場の体験ができるのです。これほどありがたいことはありません。
今、求められているのは、体験学習でしか得られないような経験です。単なる経営スキルや知識ではないのです。実際に打席に立つ人を、サクセッション・プランニングの担当者たちは、経営者後継候補に選んでいきます。
場は人を育てます。たくさんの場を経験した人のほうが、場を経験していない人よりも、うまくいく可能性が高いことは間違いありません。しかも今、求められているのは、「変化を抽出する力」です。本流よりもむしろ傍流のほうが、所帯が小さい分、変化の波がやってくる機会も多いようです。また、関連会社のほうが経営で見なければならない要素が単純なケースが多く、変化を抽出しやすいので、力を磨けるのではないでしょうか。
傍流への配属は、むしろ喜ばないといけません。そして会社は、有能な人材を傍流の分野にこそ、どんどん放り込むべきなのです。