AI(人工知能)・BI(ベーシック・インカム)論の決定版!人類史上初、我々はついに「労働」から解放される―。この歴史的大転換をどう生きるか!すべての生産活動をAIが行い、生きていくためのお金はBIで賄われる働く必要がない世界はユートピアか、深い苦悩の始まりか―。
産業革命以来の社会変化に対応するための必読書とも言うべき本書『AIとBIはいかに人間を変えるのか』から、一部を抜粋してお届けします。
労働量は減り、仕事の価値は再構成され、経済のウェイトは低下する
AIが生産活動に広く活用されるようになり、BIの導入によって「働かなくても、食って良し」が実現した社会で起きる変化について端的に整理すると、次のようになる。
ⅰ. 社会全体での人間の総労働量は大幅に減少する(1日の労働時間が3時間程度になるという見方もある)
ⅱ. 知的作業に対する人間の需要は縮小し、賃金も低下する。一方、感情労働は給与が上昇し、社会的地位も向上する。即ち、労働の価値転換が起きる
ⅲ. 過酷、或いはつまらない仕事は淘汰され、人間は金銭的動機ではなく、やりがいや楽しさといった精神的満足を動機として仕事を選ぶようになる
ⅳ. ⅰ~ⅲの結果、人間の活動における経済活動が占める割合が縮小し、世の中における経済の重要度が低下する
という変化が予想される。
そしてこうした変化は、AIの発達・活用の度合いとBIをはじめとするセーフティネット実現の度合いに対応して、時間とともに着実に進んでいくことになる。
今は税務・会計の事務作業や法律事務(パラリーガル)のような業務が代替されるようになった段階だが、そのうち税理士や会計士、弁護士の本分の業務までAIが行うようになるかもしれない。
再分配の方も、初めは貧困世帯や母子家庭へのセーフティネットの充実から手がつけられて、その後、国民全員に対する最低限の生活保障(BI)が導入され、更には働かなくても自由に生きられる水準に給付が拡大していくようになるであろう。
時間とともに進展していくこうした変化の流れに対応して、人々の働き方や職業選択も、時間とともに変わっていくであろう。
第一次・第二次産業革命の成果が、初めは蒸気機関車によって農村と都市が結ばれることから始まって、後にはジェット機で世界中のどこへでも自由に行けるようになったように、技術の進展によってこうした変化の度合いは時代が進むとともにどんどん拡大していく。
しかも第一次・第二次産業革命のケースと比べて、これから起きるであろう変化は圧倒的にスピードが速いはずである。自動車が庶民の手に届くようになるまでに約80年かかったのに対し、テレビが各家庭に普及するのに要した時間は約30年、携帯電話やスマートフォンの場合はわずか10年ほどである。
こうした流れを踏まえると、ⅰ~ⅲの流れは予想以上に加速化していくことも考えられ、30年から50年後には世の中の職種ポートフォリオも、人間が職業選択をする際の動機も、人々のワーキングスタイルも、すっかり変わっているのは確実であろう。
そして、こうした変化によってもたらされる文明論的変化とも言えるのが、ⅳ「経済活動の総量と重要度の低下」なのである。
先に紹介したように、中世においては勤労や経済は神によって卑しいこととされていたが、宗教改革や産業革命を契機に勤労と経済が肯定されるという文明論的価値転換が起きた。
それから現在まで、世の中における経済の重要度と存在感は増大し続け、今や経済は世の中の全てを統すべる神のような存在となり、経済合理性が善悪の判断基準にすらなっている。こうした“経済=神”という現代の価値構造を、AIとBIが再び転換することになるのだ。