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孤独は男の勲章だ

2018.11.23 公開 ポスト

胃壁はストレスによって様々な色に変化する志賀貢 / 医学博士

妻が逝き、友が逝き…それでも人生の旅路は終わらない。一度きりの人生、ここで弱ってどうする男たちよ。

臨床歴50年以上の医師が綴った『孤独は男の勲章だ』は、死ぬまで元気に生きるための医学的アドバイスを、患者さんのエピソードとともに紹介しています。人生100年時代を生き抜くための必読書から、一部を抜粋してお届けします。

今回は医学関係者の間で「トムの胃」として知られている、ある少年にまつわる不思議なお話。
 

食欲減退だけではなく…(写真 iStock / )


 我々はストレスに晒されると、体に色々な変化が現れることを体験的によく知っています。

 中でも、ストレスに対して一番敏感に反応する臓器のひとつが胃です。

 胃は極めてデリケートな器官で、精神的なストレスを受けやすいことは生理学的にも実証されています。

 たとえば、失恋だとか肉親の突然の死とか、あるいは倒産だとか、思わぬ事件に巻き込まれた時などは、そのショックは計り知れないものがあります。そのために、食欲が完全になくなってしまうこともあります。まさに、物が喉を通らないという状態です。同時に、不眠症や断眠という症状が例外なく襲ってきます。

 なぜ、大きなストレスが加わった時、我々の胃は食欲をまったく失ってしまうような状況に陥ってしまうのでしょうか。

 このことは、アメリカで起こったある事件がきっかけで確かめられることになりました。

 ニューヨークに住んでいた9歳になる男の子が、ある日、誤って熱いスープを飲み、食道に損傷を受け、食べ物を口から摂取することができなくなったのです。

 やむを得ず少年は、胃に大きな穴を開けて、食べ物をその穴を通して直接入れるという手術を受けました。その時少年を担当した医師たちは、驚くべき胃の状況を知ったのです。

 なんと胃の粘膜が、少年の感情によって様々な色に変化していたのです。

 少年の感情が安定し、気分が良い時にはきれいなピンク色をしています。しかし興奮して感情がたかぶり、怒っている時には真っ赤に、また、何か恐怖を感じるような環境に置かれると、胃壁は真っ青になってしまったのです。

 それは、胃壁を流れる血液と大きな関係があることがわかりました。つまり、精神状態が安定している時は胃の壁を流れる血液も正常に保たれていて、その壁の色は生理的な美しい色をしているというわけです。

 ところが、興奮して怒り狂った状態になると、血管が怒りで拡張しその中に大量の血液が流れ込み、胃の壁は真っ赤になります。そういう状態の時には、塩酸やペプシンなどの消化液も増加していることがわかりました。

 また、恐怖に晒されると血管は収縮し、血液の流れが減少して胃壁は赤味を失い青色に変わります。この場合、消化液は減少していました。

 それほど感情の変化が如実に胃の粘膜に現れるということが、この観察で明らかになったのです。

 この現象は後に、少年の名前を取って「トムの胃」として生理学や内科学などで、詳しく紹介されるようになりました。

 今では胃潰瘍はヘリコバクター・ピロリ菌という細菌によって発生することが明らかになっていますが、その発生の誘因としてやはりストレスの影響が否定できません。寿命を縮めるような事件に遭遇すると、一夜にして胃潰瘍が発生し、吐血することもあります。この場合には、同じように胃壁を流れる血液の量が急激に変化し、そのために血管に損傷が起こるのではないかと考えられています。

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志賀貢『臨終医のないしょ話』

“幸せに死ねるのは「在宅」か?「病院」か?" 数千人を看取った医師がこっそり教える、 幸せな最期を迎えるためのとっておきの方法。

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孤独は男の勲章だ

80歳すぎても毎朝元気! そのワケは?「スルメイカで精力を高めよ」「サケは体の錆止め」など、定年後から死ぬまでを元気に楽しく生きるための極意を、臨床歴50年以上の医師が患者さんの実例とともに紹介します。

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志賀貢 / 医学博士

北海道生まれ。医学博士、作家。昭和大学医学部大学院博士課程修了。長らく同大学評議員、理事、監事などを歴任し、大学経営、教育に精通している。内科医として約55年にわたり診療を続け、僻地の病院経営に15年従事。また介護施設の運営にも携わり、医療制度に関して造詣が深い。その傍ら執筆活動を行い、数百冊の作品を上梓している。近著には、『臨終医のないしょ話』『孤独は男の勲章だ』『臨終の七不思議』(いずれも幻冬舎)等がある。

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