「30代、スイーツ店勤務、キラキラ女子」という設定で、フェイスブック上で知り合った見知らぬ中高年のおじさまたちと日々コメントを交わし、時にキュンキュンさせ、時に揺さぶりをかけている64歳の母(前回記事「フェイスブックの恐怖! その美女、私の母かもしれません」)は、薔薇の花束写真への反響にすっかり味をしめ、写真使いが過激化してゆく。
ある日は、ネットで見つけたショートボブの女の子の“後ろ姿”を無言で掲載し、人々が勝手に『髪型新しくしたんだ!』『かわいい♡』『似合ってるね』と勘違いするに任せ、またある日は、私がLINEで送った六本木の夜景写真を無断転載して、
『ちょっと東京へ…。六本木の街もどんどん変化していきますね』
おいおーーーい! 六本木って、生涯で2回ぐらいしか足踏み入れてないじゃろが!
しかし、おじさまたちはすっかり喜び、東京在住の男からは『ぜひお茶したい(*´ω`)』とコメントが届き、そして母は『ウフフフ、いい街ね』とあしらっていくのだった。
ある休日は、ボサノヴァのCDと、来客用にしまい込んであるウエッジウッドのティーカップ、白いレースのランチョンマットを組み合わせて、
『休日の午後はボッサノーヴァでお紅茶。みなさま素敵なアフタヌーンを♡』
ボッサノーヴァでアッフタヌーン、まあ素敵♡ だったら良いのだが、現実の母は、休日の午後になると勢い勇んでパチンコ屋へ乗り込んでゆく。ネットで「CR大海物語」のリーチ動画を見たり、車で「CRぱちんこ必殺仕事人」のテーマ曲を大音量で聞いたりして気分を高めているありさまなので、もうちょっと趣味を文化的に軌道修正してもらいたくて、いつだかプレゼントしたCDだったのだが、まさかこんな活用法があったとは!
しかも母、フェイスブックの他人にはわからないはずだが、CDと紅茶の入ったカップをなぜか寝床の上に並べていた。背景にごちゃごちゃした余計なものが写らないよう、室内で右往左往して場所を探したのだろう。なんだか高級感あるペイズリー柄の布がちょっぴり写り込んでいるが、娘の私には、それが母の愛用する「西川の羽毛布団」だとはっきりわかるのだった……。
『姫、さすがオシャレですねヽ(o’▽`o)ノ』『趣味も素敵ですね (^_^)♪』『いいですね。クラシックもお好きそう。お聞きになりますか?』
断じてお聞きになりませーん! 姫は今日もCRぱちんこ必殺仕事人。写真は決して、真実を写してはいないのであった。
右眼の写真を大量アップ!“つげ義春”な世界に、おじさま懸命のフォロー
その朝は、驚愕と恐怖のあまりiPhoneを滑り落としそうになった。なにがあったのか、母が自分の目のアップ写真を超大量に連投しているのだ。パッチリとまつ毛を持ち上げて、紫のアイシャドウが輝く右眼のアップに『新しいアイメイク試してみました♡』、お次はちょっと寄り気味の右眼のアップに『新しいアイメイク試してみました♡』、そして微妙に白眼むいてる右眼に『新しいアイメイク試してみました♡』、白眼、白眼、白眼、同じ白眼4枚と『新しいアイメイク試してみました♡』。
め、目がーーー! 目がーーーっ! タイムラインは母の右眼で埋め尽くされ、そこはかとなく、つげ義春的世界観を醸し出している。何度も撮り直してすべて誤爆してしまったのか、ネットの接続が不安定な時に投稿ボタンを連打してしまったのか、はたまた目ぐらいなら実物でもいけると判断したのか。なんだかよくわからないが、突然の右眼大量投下事件の勃発に、母を慕うおじさまたちは引いて……しまわず、懸命のフォローにまわっていた。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
オオカミ少女に気をつけろ!
嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。
- バックナンバー
-
- 「無症状から容態が急変し死亡」に戦慄する...
- スウェーデン国王発言と、スウェーデンを叩...
- 「後遺症」はコロナだけじゃないんですけど...
- 「20ミクロン以下の飛沫に対する効果は限...
- PCRサイクル数は40と回しすぎの秋。検...
- 死因はウイルスか、持病か、それとも…?
- 死者数だけ見て怯える反応をやめてみる<C...
- 政策がナチュラルに無秩序な日本で、スウェ...
- 陽性者の“隔離”強調に潜む偏見と、ハンセ...
- スウェーデンに対してネガティブな新型コロ...
- 学校の子供にフェイスシールド、の怪
- 新型コロナ報道の罪【その2】恐怖の増幅
- 新型コロナ報道の罪【その1】ステイホーム...
- 強権に支配されたい人たちの萌芽
- 煽り、煽られ…不安を増幅する伝え方の罪
- なぜ人はこんなにもトイレットペーパーに血...
- 「エコーチェンバー」で過激にタコツボ化す...
- 自分好みの情報だけ集まる「フィルター・バ...
- SNSでのバッシング好きを瞬間沸騰させる...
- その欲しいものは本当に“あなたが”欲しい...
- もっと見る