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自分を好きになりたい ~自己肯定感を上げるためにやってみたこと~

2018.11.29 公開 ポスト

自己肯定感について、精神科医の先生にお話を聞いてきました。<前編>

自分が嫌いじゃなくなると、
自分に固執しなくなる水島広子(精神科医)/わたなべぽん(漫画家)

ささいなことで落ち込む、褒められるのが苦手、人にノーと言えない、他人の目を気にして疲れてしまう、自分を優先できない……それはひょっとしたら「自己肯定感」の問題かもしれません。

親子関係によって「自己肯定感」を持てなくなった自分と向き合った『自分を好きになりたい。』が話題の漫画家わたなべぽんさんと、『自己肯定感、持っていますか?』で自己肯定感の大切さを知らしめてきた精神科医の水島広子さんがじっくり語り合いました。(構成・文 御友貴子)

自己肯定感はプライドとは違う

ぽん 『自分を好きになりたい。』は心理学などベースになるものはなく、ゼロから自分で取り組んだので、お医者様からご覧になると気になる部分もあるのではないかなと思ったのですが、どうでしたか?

『自分を好きになりたい。』わたなべぽん著

水島 拝見しました。面白かったです。唯一思ったのは、私と細川貂々さんの共著『それでいい。実践ノート』を先に出しておいてよかったなということでしょうか(笑)。『自分を好きなりたい。』は子供の頃の自分に今の自分が語りかけるスタイルだと思いますが、『それでいい、実践ノート』は今傷ついている自分に親友の気持ちになって話しかけるスタイルなので、ちょっと似ているかなと思いまして。

『それでいい。実践ノート』水島広子・細川貂々著

ぽん(笑)。先生は以前『自己肯定感、持っていますか?』という本を出されていますが、自己肯定感という言葉はいつごろから使われたのですか?

『自己肯定感、持っていますか?』水島広子著

水島 英語のセルフエスティームという言葉を自尊心と訳していたので、自尊心と自己肯定感を混ぜて使っていたんですが、自尊心だとプライドと間違える人がいるので、この本から自己肯定感という言葉に統一した感じでしょうか。

ぽん たしかに自尊心とプライドって混乱しますよね。

水島 プライドって、自尊心とか自己肯定感のない人の虚栄みたいなもので、自信満々な人は、実は自己肯定感がなかったりするんです。

ぼん 自己肯定感が精神医学的にも大事だと気づかれたのはいつごろなんですか?

水島 セルフエスティームの重要性は海外では昔から説かれていますが、精神医学的には……そうですね。ちょっと専門的な話になりますが、私は人の性質を示すのに、米国精神科医のクロニンジャーが提案した「7因子」というものを使っているんですね。先天的にもっている4因子に後天的に獲得できる3因子を加えて7因子。とくに後天的に獲得できる3因子が「自己志向」「協調」「自己超越」で、「自己肯定感」はこの最初の「自己志向」に近いものではないかと思います。

ぽん 「自己志向」とはどういったものなんでしょう?

水島 「自分でやれる」といった自分への内的な信頼感です。この「自己志向」の数値が低いと先天的な因子に振り回されたり、パーソナリティー障害や精神的な病気につながったりするんですね。だから私が治療でやっていくことって結局、患者さんの「自己肯定感」を高めることなんです。たとえば、私の専門のひとつに摂食障害がありますが、いわゆるスタンダードな治療は体重が何キロ以上になるまでベッド上で安静にといった行動療法的ですけれど、私の対人関係療法は食行動にはフォーカスしないで対人関係だけを見ていきます。

ぽん 対人関係だけをみて、患者さんは回復するのですか?

水島 自分についてよい感覚がもてないから、自分の体型をなんとかしようとして摂食障害が起きるわけですが、自分と人とがいい感じで関わることで、自分についてのよい感覚が生まれるんですね。「自分に対してふわっといい感覚がもてるか」が治療の鍵になります。これはひょっとしたら、わたなべさんの本のタイトル『自分を好きになりたい。』とはちょっと違うのかもしれません。

自分が嫌いなときって、主語が「自分」なんですよね。

ぽん でも、わかる気がします。私も「自分を好きになりたい」と思ってはいたのですが、そのために色々試してみて、本当はあまり自分に対して意識が向いてないほうがいいんだなと思うようになりました。たとえば、自分を嫌いなときって、ずーっと主語が自分なんです。「私って」「私って」って。でも、自分を嫌っていないときって、主語は自分にはならないんです。

水島 自分に対する意識が薄くなる感覚ですか?

ぽん 自分に対しての注目度が霧散した感じです。「こんなことを言ったら私ってどう思われるんだろう」という感じから、もう単純に「これやりたい」「いま楽しい」という感覚になるというか。

水島 たしかに、自分がなくなりますよね。逆に自己肯定感が低いときって「自分」「自分」になる。私はこれを「自虐的自己中心主義」と呼んでいるんですけど(笑)。

ぽん わかります(笑)。友達に相談すると「誰もそこまで見てないよ」と言われて、「だってー」ってなっちゃう。以前書いた『やめてみた。』の中でファンデーションをやめるというテーマを取り上げたのですが、「シミやシワが目立ったらどうしよう」「大丈夫、人はそんなにあなたの顔を見てないから」という下りがあって。それも同じですね。

『やめてみた。』わたなべぽん著

水島 ところで、わたなべさんはなぜ「自己肯定感」に注目されるようになったのですか?

ぽん もう子供の頃から自分が嫌いで。普段生活していても、学校にいても、何かのきっかけでふと「私ってダメなんだ」となってしまうんです。大人になってからも、恋人や友達の言いなりになったり、突然攻撃的になったりして、自分の中で整合性がとれなくて。それでネットで見かけて「そうか、自己肯定感という言葉があるのか」と。先生にお聞きしたかったのが、自己肯定感って、一回手に入れたらもう大丈夫なものなんですか?

水島 仕事で失敗したり大失恋したりなど、衝撃的なことがあると一時的に下がることはありますが、自己肯定感を持っている人は、戻り方も知ってるんですね。下がることはあってもどん底まではいかない。

ぽん 失恋しても、「次の人にいこう!」みたいな?

水島 すぐにはそうなりませんが、そこにいたるまでの時間が短くなるんです。

母の記憶がフラッシュバックしてしまう

ぽん 私の場合は母との関係なんですけど、やっぱり自分では克服したつもりでも、今でも幼い頃ぶたれたり、暴言を吐かれたりしたことが、フラッシュバックしてしまって。

水島 見ないことにするというのもいいのかもしれませんね。

ぽん み、見ないことに!?

水島 これは一例ですが、親が発達障害の場合、一緒にいるだけでどうしても傷ついてしまうんです。私はそういう場合、48時間以上は一緒にいないという「48時間ルール」を提案しています。

ぽん わかります。私も3日一緒にいるだけで、ザワザワしちゃうんですよね。物理的に距離を置く以外に方法はありますか?

水島 基本的に相手を知れば、だいたいは予想された行動なので、「いつも同じパターンなのね」と思えるようになります。衝撃は受けても、大衝撃にはならならない。お母様のことで散々悩まれていた方に、親が発達障害の例を話したら、「これは単なる特性なのかもって考えたらすっきりしました!」ということもありました。

ぽん なるほど、考えすぎてしまうというのはありますね。私も母親と8年くらい連絡を断ったあとでまた連絡とるようになって。そのときに一大決心をして、母に聞いてみたんですね。
「あのとき私を散々ぶったのは、しつけのつもりだったの? それもとも、ストレス解消?」って。そしたら母は、「ストレス解消の部分もあった」と。それはそれで、うわっと思ったんですが(笑)。

水島 明確な悪意を認められたんですね。すごいですね。なかなかそういうふうに振り返れる人はいなくって、自分の事情を子どもにぶつけていただけ、と振り返れる人はそれだけで貴重な気がします。

ぽん 今は年に1回帰ってるんですけど、なるべく1泊2日か、2泊3日にして、なるべく長い時間一緒にいないようにしてますね。ただ、周りの人が「親孝行しなさいよ」とか言ってきたりすると、モヤモヤすることもありますが。

水島 そうやって決めつけてくる人もいますよね。人から評価ばかりされて育った人は、「評価をくだす」「余計なお世話を言う」「決めつける」ことしか人とつながる方法がわからない。ただ、黙って話を聞いてくれるとか、自分がつらいとき信じてくれるとか、評価される以外のコミュニケーションの経験がないんです。

ぽん アドバイスばかりの環境にいたら、自分もそうしなきゃって思ってしまうかもしれないですね。(続く)

関連書籍

わたなべぽん『自分を好きになりたい。自己肯定感を上げるためにやってみたこと』

幼少期のしんどい母子関係から、自己肯定感が低くなってしまい、「自分が嫌い」という気持ちを抱えて生きてきた著者。その感情を手放すべく「小さい頃の自分が親にして欲しかったこと」を一つ一つ実践してみたら、心が少しずつほぐれていって――。「人は誰かを許さないままで幸せになってもいい」。数多の共感を呼んだ感涙エッセイ漫画。

わたなべぽん『やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる、暮らし方・考え方』

「なんとなく使ってきたけれど、本当に今の自分に必要なんだろうか」。そんな思いで炊飯器、ゴミ箱、そうじ機といった生活必需品から、つい謝ってしまう癖、もやもやする友達付き合いなどを「やめてみた」日々。その果てに訪れた変化とは? 少しずつ生きるのが楽になっていくさまを描いた実験的エッセイ漫画。

わたなべぽん『もっと、やめてみた。 「こうあるべき」に囚われなくなる暮らし方・考え方』

本当に必要なのか分からないものを捨て、ぐ るぐるしがちな考えグセを手放したら生活に 意外な変化が生まれました。「ボディーソー プをやめたら石けん作りが趣味に」「深夜の 居酒屋のかわりにお茶漬けにしたら健康にな った」「無理に友達を作るのをやめたら、む しろ交友範囲が広がった」など、やめてみたら 新しい自分に出会えた実体験エッセイ漫画。

わたなべぽん『さらに、やめてみた。 自分のままで生きられるようになる、暮らし方・考え方』

「こうあるべき」をやめてみたら、本当にやりたいことが見えてきた。「サンダルをやめたら、歩くのが楽しくなってきた」「趣味のサークル活動をやめたら、好きな人とだけ付き合えるようになった」「共同貯金をやめたら、子どものいない夫婦として生きていく決心ができた」など、より自分らしく生きるためにやってみたこと。感動のシリーズ完結編。

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自分を好きになりたい ~自己肯定感を上げるためにやってみたこと~

『やめてみた。』『もっと、やめてみた。』のわたなべぽん最新作!
幼少期のしんどい親子関係から、自己肯定感が低くなってしまい、「自分が嫌い」「どうせ自分なんて…」という辛い感情を抱えて生きてきた著者が、そんな状態から脱するために自ら考えたり、試したりしたことを克明に記した感涙エッセイ漫画。

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水島広子 精神科医

慶應義塾大学医学部卒業。同大学院修了(医学博士)。慶應義塾大学医学部精神神経科勤務を経て、2000年6月~2005年8月、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本改正などに取り組む。1997年に共訳で『うつ病の対人関係療法』を出版して以来、日本における対人関係療法の第一人者として臨床に応用するとともに、その普及啓発に努めている。現在は対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、国際対人関係療法学会理事。主な著書に『自分でできる対人関係療法』『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』『怖れを手放す』『女子の人間関係』『自己肯定感、持っていますか?』『「毒親」の正体』などがある。

わたなべぽん 漫画家

山形県出身。第6回コミックエッセイプチ大賞・C賞を受賞しデビュー。AVなど成人男性向け商品を取り扱う古本屋の女性店長を務めた経験をコミカルに描いた『桃色書店へようこそ』、作画を手がけた『隠すだけ!貯金術』『家計簿いらずの年間100万円!貯金術』、自身のダイエット経験を綿密かつ面白く描いた大ヒットシリーズ『スリム美人の生活習慣を真似したら1年間で30キロ痩せました』『もっと!スリム美人の生活習慣を真似したら リバウンドしないでさらに5キロ痩せました』『初公開!スリム美人の生活習慣を真似して痩せるノート術』、汚部屋脱出を描いた『ダメな自分を認めたら 部屋がキレイになりました』など著書多数。最新の「やめてみた」シリーズは累計45万部を突破。近著は『自分を好きになりたい』『ズボラ習慣をリセットしたら やる気な自分が戻ってきました」など。

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