ささいなことで落ち込む、褒められるのが苦手、人にノーと言えない、他人の目を気にして疲れてしまう、自分を優先できない……それはひょっとしたら「自己肯定感」の問題かもしれません。
親子関係によって「自己肯定感」を持てなくなった自分と向き合った『自分を好きになりたい。』が話題の漫画家わたなべぽんさんと、『自己肯定感、持っていますか?』で自己肯定感の大切さを知らしめてきた精神科医の水島広子さんがじっくり語り合いました。(前編はこちら)(構成・文 御友貴子)
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自己肯定感を育てるには、自転車の後ろを押さえていてくれる人が必要
水島 『自分を好きになりたい。』を拝見していると、旦那様の存在が大きい気がします。
ぽん たしかに、そうかもしれません。
水島 たとえば、対人関係療法の治療者って、患者さんをあたたかく肯定する立場なんですね。それは期間限定で行うんです。そうしないと依存的になりますから。だから私は、治療者は外付けの自己肯定感だと思っています。というのも、自己肯定感を育てるには、はじめて自転車に乗るときのように、自転車の後ろを押さえてあげる人が必要なんですね。まずはそうやって、自分を肯定する安心感を味わってもらって、ヨタヨタでもいいから、自己肯定感が育ってきたら、そっとそこから離れてあげるんです。
ぽん たしかに、それを夫がやってくれていたのかもしれません。
水島 そういう人と暮らしていると、自分の自転車は倒れないって安心を得られますからね。
ぽん 最初からそうではなかったんですけどね。実は結婚する前に、別の人と一緒に暮らしていたんですが、とにかく私がわがままを言い放題で。そしたら、その人に……ハゲができてしまったんです!!
水島 え!
ぽん 結局、別れてしまうんですが、「男にハゲにつくらせてしまう女だ私は!」と反省して……。今の夫は、お友達のいっぱいいる、明るくて純粋な人で。「あの感じで私がぶつかったら、この人もハゲてしまう」と思って、言ってはいけないことは言わないとか、相手を尊重するようにして。そしたら、相手も尊重してくれて、今の関係になれた気がします。でも、あまり自分の気持ちを抑えるのも自己肯定感が高いとは言えないですよね。
水島 前置きをしておけばいいんです。「今からヒステリックになるから、真剣に聞かないで流してね。ハゲができそうになったら止めてね」と言ってから、気持ちをぶつけるだけでもだいぶ違います。これだと聞く相手も自分のことも尊重してますよね。
人との関わりで、自己肯定感を高める方法
ぽん あとは、気持ちをぶつけたときのお互いのストレスより、おだやかな時間とか楽しい時間を一緒にすごすほうがいいっていうのが自分の中でわかってきたので、ムダに攻撃しなくなったのかもしれません。
水島 自己肯定感が高くなると、「人からやられることがない」という安心感が生まれるから攻撃しなくなります。逆に低いと、相手を攻撃して「自分は本当に大丈夫なのか」ということを確かめたくなってしまう。
ぽん 試したくなっちゃうんですよね。どこまでOKなの?みたいに。
水島 試してOKだったら、自己肯定感が上がる気がするかもしれませんが、実は試せば試すほど、自己肯定感は下がっていきます。ただし、相手がニュートラルな人だと、いくら試しても同じ玉しか返ってこないから、それはそれで自己肯定感が上がったりするんですが。
ぽん たしかに、夫は私が怒っていても、感情的にならずに、「なんでそう思ったの?」と最初に聞いてくれますね。私もそう言われてみると、たしかに説明できないな、と。それで、次からはこんなことでイライラしないようにしよう、と思うようになって、その積み重ねで今がある感じがします。あと、こんなこともありました。私は母に暴力を受けていた頃の夢を見て、泣きながら目覚めることがたびたびあったんですね。
水島 トラウマの覚醒亢進症状ですね。また悪夢を見るというのは再体験症状でもあります。
ぽん 症状だったんですね! 夫は、私がそうやって夜泣き出すると、「大丈夫、もういないよ」ってなでてくれて。ああ、なんか涙が出てきてしまいました……(照)。夫がそういう手助けしてくれたことは大きかったと思います。本当に自転車の後ろを手でもってくれているような感じで。
水島 もちろん、そこまでいい旦那さんに恵まれなくても(笑)、人との関係で自分を癒すことは可能です。自分にはパートナーがいない……などと「自分、自分」で考えると自己肯定感が下がっていきますが、『自分を好きになりたい。』のように、ご近所の人に挨拶をしてみたり、たとえば人の役に立つこと、コンビニで寄付するなど外向きの活動をしていったりすることで、「自分、自分」が消えていきます。あとは、人の話をじっくり聴くことも重要です。これは私が普段活動しているAHの感覚と共通するところでもあるんですが。近著『やっぱり、それでいい。』を参照していただけると嬉しいです。
自虐的な気持ちはノートに書いて、第三者の目でツッコミを入れていく
ぽん AHってなんですか?
水島 アティテューディナル・ヒーリングの略なんですが、これは「心の姿勢を見直すことで、癒されていく」という取り組みです。その中の大きい軸が、「人の話を聴くこと」なんですね。『やっぱり、それでいい。』という本の中で詳しくお話ししているんですが、たとえば、瞑想などで「今、ここを感じることでラクになる」ことがあると思いますが、AHはその「今、ここ」を人の話を聴くことで感じます。するとぽかぽかとあたたかくなるんですね。
ぽん それは聴いているほうがですか? たとえば、私の知り合いに自慢話ばっかりのおじさんがいますが、聞いているとイライラしてくるんです。
水島 そういう人の話もあたたかい気持ちで聞けるようになりますよ。
ぽん えーーーー!(笑)。
水島 その際のポイントが「相手の話に評価を下さない」こと。「自慢話ばっかりだな」「上から目線がムカつく」などと評価を下さず、ただ話を聴く。もしも、それでもイヤだったら「こんなふうに自慢しないといられないくらい自信がないんだな」と相手の事情を想像してみるといいかもしれません。
ぽん たしかに、そう考えると心の距離が保てますね。
水島 AHでは、「人はぽかぽかとあたたかい気持ちになっているか、困って助けを求めているかしかない」とすごくシンプルな二分法で考えます。ぽかぽかしてないおじさんは完璧に困ってる人。そうとらえれば、もっと穏やかな気持ちで話を聴けると思います。
ぽん たしかに相手の事情がわかると、気持ちが静まるかもしれません。先生は『自己肯定感、持っていますか?』の中で、「相手の事情を受け入れることで、自分の事情も受け入れられる」といったことを書かれていますが、「相手の事情は許せるけれど、自分の事情は許せない」ということはありませんか? 人との関わりだけじゃ、自己肯定感が持てない人もいるかもしれないと思いまして。
水島 そういう場合、わたなべさんの『自分を好きなりたい。』や私の『それでいい。実践ノート』を参考にして、自分の気持ちを書いていくといいかもしれません。自分で書くと必ず自虐的なニュアンスが入ります。「世の中厳しいんだから、そのくらい耐えなきゃダメだ」みたいな。そこでツッコミを入れてみてほしいんです。「それが自分の子供なら、自分の友達だったら、本当にそれを言う?」って。
ぽん たしかに他人だったら、「いいんだよ、そのままで」って思うかもしれないですね。でも、こう考えるのって、訓練が必要ですよね。
水島 そうですね。でも、まず必要なのは気づき。そして、意思を持つことでしょう。
ぽん 意思?
水島 自己肯定感が低いままで自分はほんとうにいいのか、それとも変わりたいのかと。もちろん、今のままでいいという選択をしてもOKですし、それが苦しいのなら、変わる選択をしてもOKだと思うんです。
ぽん そうですよね。選択は人それぞれですが、私自身は自分と向き合ってとてもラクになりました。今日はありがとうございました。
自分を好きになりたい ~自己肯定感を上げるためにやってみたこと~
『やめてみた。』『もっと、やめてみた。』のわたなべぽん最新作!
幼少期のしんどい親子関係から、自己肯定感が低くなってしまい、「自分が嫌い」「どうせ自分なんて…」という辛い感情を抱えて生きてきた著者が、そんな状態から脱するために自ら考えたり、試したりしたことを克明に記した感涙エッセイ漫画。