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人殺しの論理

2018.12.11 公開 ポスト

殺人犯との面会の際、記者はどんな差し入れをしているのか?小野一光

 世間を震撼させた凶悪殺人犯と対話し、衝動や思考を聞き出してきたノンフィクション作家の小野一光氏。残虐で自己中心的、凶暴で狡猾、だが人の懐に入り込むのが異常に上手い。そんな殺人犯の放つ独特な臭気を探り続けた衝撃の取材録が、幻冬舎新書『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』である。

 発売6日で即重版となった大反響の本書から今回は第1章「事件記事の裏側」を公開。拘置所で殺人事件の被告に会うことは、実は親族や弁護士でなくても誰にでもできるのだという。なじみのない拘置所での細かな手続きが明らかになる。

iStock.com/YakobchukOlena

殺人事件の被告人に会うのは比較的容易

 事件取材の経験を積み重ねていくなかで、事件の当事者である犯人の話を直接聞くことこそが、なぜこのようなことが起きたのかを知るためには必要ではないかとの思いを抱くようになった。

 じつは、たとえ相手が殺人犯であっても、刑が確定する前の被告人段階であれば、比較的容易に会うことができる。もちろん、接見禁止になっていれば面会はできないが、そうでなければ相手が面会を承諾すれば可能だ

 通常、起訴された被告人は、それまでいた警察署や警察本部の留置場から、拘置所に身柄を移される。彼らは裁判を受け、刑が確定するまでは、そこに勾留されることになるのだ。そのため、拘置所に出向いて受付で面会を申し込むことで、会うことができるのである。ちなみに、被告人が本当にその拘置所にいるのか、接見禁止がついているか否かといったことを、当該の拘置所に電話しても教えてくれない。たとえ無駄足になろうとも、実際に足を運ぶ必要があることを付け加えておく。

拘置所での面会手続きあれこれ

 拘置所によってまちまちだが、基本的な手続きは次の通りだ。まず拘置所の正門受付で面会の旨を伝え、所持品検査とボディチェックを受ける。その際に携帯電話や録音機、カメラなどは事前にロッカーに預けておく。続いて建物内に入り、そこで面会申請書に必要事項を記入し、面会受付窓口に提出するのである。なお、東京拘置所はその他の拘置所とは異なり、入門時にボディチェックはなく、先に面会受付を済ませてから、いざ面会できるとなった際に、所持品検査とボディチェックが行われる。

 受付に出す申請書に書くのは、面会を希望する相手の名前、面会者(つまり自分)の名前、自宅住所、年齢、職業、面会相手との関係、そして面会理由である。

 ここでふと考えるのが、知り合いでもない面会相手との関係や面会理由をどうするかということだ。私の場合、関係については「第三者」や「取材者」とし、理由は「安否うかがい」とすることが多い。もちろん、被告人に近い人物から紹介を受けたりした場合は、その旨を理由の欄に記すことにしている。

 面会受付窓口では申請書と引き換えに番号札を渡され、あとは待合室でその番号が呼ばれるのを待つという手筈である。やがて「×番のかた、×号面会室にお入りください」とのアナウンスが流れ、面会室に向かうことになる。ちなみに接見禁止処分中の場合は、アナウンスで面会受付窓口に呼ばれ、会えないことを伝えられる。また、相手が面会を望まない場合も同じ手順が踏まれる。なお、いざ会えるとなった際の面会時間については、概ね10分から30分の間で、状況によってまちまちだ。面会者が多いときは面会時間が短く、少ないときはやや長くなる。基本的に面会者の多い東京拘置所や大阪拘置所、さらに福岡拘置所などは短いと考えておいたほうがよい。また、面会できない土・日曜日を挟む、金曜日と月曜日も混みやすいため、面会時間が短くなる傾向がある。

事前に手紙を出すか、“飛び込み”で会いに行くか

 被告人に対して、あらかじめなんらかのアプローチをするかどうかは、面会したいと考えた相手によって、まったくのケースバイケースだ。事前に手紙のやりとりをして、相手が会ってくれることを確認してから訪ねることもあれば、それこそまったくの“飛び込み”で会いに行くこともある。どちらかといえば、先方に考える時間を与えないようにと、殺人犯の場合は後者のほうが多いのだが、その際の反応は十人十色で興味深い。

 女性殺害の被告である男が、某テレビ局の女性記者と面会しているとの情報があり、面会を試みると「男とは会わない」と断られたり、強盗殺人犯に会おうとして面会室までは呼ばれたものの、向こうが面会室に入る前に小窓からこちらを見て、「やっぱりやめた」となったこともある。逆に「よく来てくれた」と私を歓迎し、明らかに嘘だとわかる内容で、自分の無実を雄弁に訴える連続殺人犯もいた。

面会では、相手にとって有益なことを探る

 運良く面会できた場合、私はまず相手にとって有益なことはなんであるかを考える。当然ながら減刑に繋がる情報を報じてほしいというのが、被告のもっとも望むことだろうが、それには限度があり、事実と認められない限り取り上げることはできない。ちなみに、私がこれまでに面会してきた殺人犯のなかで“冤罪ではないか”との疑いを抱いた相手は一人もいないことを明記しておく。ではほかになにができるかといえば、必要とする物品の差し入れや、外部との連絡役を引き受けるということである。

 まず物品でいえば、夏季、冬季の衣類や、老眼鏡、それに書籍などを希望されることが多い。そうした際には極端な利益供与を避けるため、高価ではない衣類や、100円ショップの老眼鏡、古書店で探した書籍などを選ぶことにしている。また、菓子類が好きだという被告には、拘置所内の売店で概ね1000円以内で購入できるものを差し入れている。現金、という話を持ち出されることもわずかにあるが、取材倫理上、原則として断っており、離れた地域にいる被告から手紙で、もう切手代がないといった訴えがあった際に、現金書留で数千円を送ったことがあるくらいだ。基本的にはそうした場合には、直接足を運んだ機会に切手や封筒、便箋などの“現物”を、直接差し入れることにしている。

 また、これも物品に含まれるが、被告にとっての懐かしい景色の写真や、動物好きと聞いていればペットの写真などを差し入れることもある。そこらへんは臨機応変に、こちらが相手にとっての精神衛生上の助けになる存在になるよう心がけている。連絡役というのも同じことで、被告にとっての“外部との窓”になることで、不自由な生活の助けになればとの思いからの行動である。連絡役というと、まるで“口裏合わせ”に加担していそうな印象を与えるかもしれないが、実際は「××さんに面会に来るように伝えてほしい」といった内容がほとんどだ。

 

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関連書籍

小野一光『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』

「腕に蚊がとまって血ぃ吸おうとしたらパシンて打つやろ。蚊も人も俺にとっては変わりない」(大牟田四人殺人事件・北村孝紘)、「私ねえ、死ぬときはアホになって死にたいと思ってんのよ」(近畿連続青酸死事件・筧千佐子)。世間を震撼させた凶悪殺人犯と対話し、その衝動や思考を聞き出してきた著者。一見普通の人と変わらない彼らだが、口をつく論理は常軌を逸している。残虐で自己中心的、凶暴で狡猾、だが人の懐に入り込むのが異常に上手い。彼らの放つ独特な臭気を探り続けた衝撃の取材録。

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小野一光

1966年、福岡県生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに数々の殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。最新刊『昭和の凶悪殺人事件』のほか『冷酷 座間9人殺害事件』『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』『連続殺人犯』『限界風俗嬢』など著書多数。

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