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理系あるある

2018.12.07 公開 ポスト

「素数」にでくわすと喜ぶ小谷太郎

ナンバープレートの4桁が「素数」だと嬉しくなる、花火を見れば「炎色反応」について語りだす、液体窒素でバナナを凍らせる、疑似科学に厳しい……。物理学者、小谷太郎さんの著書『理系あるある』は、理系の人なら身に覚えがありそうな行動や習性が満載。文系の人も、これで理系の人の気持ちがわかるかも? 楽しく読めて、おまけに科学の知識も身につく、一冊で二度おいしい本書の一部をお届けします。

思わず素因数分解してしまう……

 「理系」と呼ばれる種族には、数字を見ると10を作ろうとして足したり掛けたり割ったり引いたりし始める人々がいます。

©イラスト:千野エー

 ほかには、数字を見ると思わず素因数分解してしまう人々もいます。今回はそんな人々を紹介しましょう。

「素数」は、1より大きい整数のうち、1とそれ自身でしか割り切れないものです。

 2は1と2で割り切れますが、他の数では割り切れないので素数です。3は1と3でだけ割り切れるので素数です。5も素数です。7も素数です。こうして数えていくと、素数はいくらでもあります。

 一方、4は2で割り切れるので素数ではありません。6は2と3で割り切れるので素数ではありません。偶数は2を除いてどれも素数ではありません。このように、素数でない数もいくらでも出てきます。

 数学者は素数の性質を何千年も夢中になって調べてきました。そしていまだに調べています(どうしてそんなものを夢中になって調べるのか、尋ねても無意味です。そういうものを夢中になって調べるのが数学者だからです。それは数学者の定義です)。

 素数と切っても切れない間柄なのが「素因数分解」です。

 数を素数の積(掛け算)で表わすことを素因数分解といいます。4は2×2と素因数分解され、6は2×3と素因数分解されます。けれども素数はそれ以上素因数分解できません。

 小学校の知識でできる素因数分解ですが、実は奥深い数学的問題でもあります。数学者が何千年も調べたのに、素因数分解を手早く行なう方法はいまだに見つかっていません。4や6なら暗算でもできますが、何桁にもおよぶ大きな数だと、素因数を求めるのに計算機を使っても長い時間がかかります。

 スマートで手早い素因数分解法が見つかっていないために成り立つのが、暗号化技術(の一部)です。

 たとえばみなさんがインターネットを介して銀行の口座にアクセスする際には、その通信は暗号化されています。みなさんが打ち込む自分の口座番号も、銀行が送ってくる残高も、暗号化されて送信されます。

 おおざっぱに説明すると、暗号文を受け取った側は、数字の羅列として送られてきた暗号文に解読操作を施して、元の通信文を得ます。解読操作には、素因数分解がふくまれます。もし誰かが暗号文を盗聴しても、鍵となる素数を知らなければ、素因数分解できず、解読できません。

 もし素因数分解のスマートで手早い計算方法があれば、盗聴者がこの暗号をスマートに手早く解読することが可能になるかもしれません。そうなったら他人の口座を簡単に操作できてしまいます。

 スマートで手早い素因数分解法の発見は、社会を混乱に陥れるかもしれないのです(不謹慎ながらちょっとワクワクします)。

時計がこんなふうに見えている?

 特別な数である素数。古くから知られていながらいまだに謎が多く、現代数学やコンピュータ科学の研究対象となっている素数。

©イラスト:千野エー

 素数のこうした魅力は、ある種の人々に強くアピールします。数学者やコンピュータ科学者に限らず、そういう人は意外に多くいます。

 そういう素数好きの人は、数字が目に入るとき、それが素数かどうかつねに意識します。車のナンバープレート、日付、その場にいる人数、チケットの通し番号、選手の背番号などがたまたま素数だと、喜びを覚えます。ラッキーナンバーだと感じるようです。

 数字が偶数だと、何の関心も示しません。末尾が2や4や6だなんて、そんなもの無価値です(ただし偶数でも、16だとか256など、2のべき乗だと別の興味を覚えます)。奇数でも末尾が5なら駄目です。

 末尾の数字を一瞥してつまらない数をはねのけると、次は3の倍数かどうかのチェックです。ある数が3の倍数かどうかは、その数の各桁の数字を全部足して3の倍数になるかどうかで判断できます。21や27は歯牙にもかけません。51や57には一瞬期待しますが、すぐに失望とともにはねられます。

 3で割り切れないことがわかると、それが素因数分解できるかどうかいよいよ計算が始まります。つまり次々と小さな素数で割っていきます。2、3、5はもう約数でないことがわかっているので、7、11……と順に試していきます(小さな素数は暗記しています)。

 そして素因数分解できないことがわかると、満足とともにそれが素数であると判定を下します。23なんてのに出くわすと思わず口元がゆるみます。29、31。素数が連続する「双子素数」です。97。今日はラッキーな日です。

 こういう素数の魅力にとり憑かれた人々には、たとえば時計は先ほどのイラストのように見えます。彼らは世界をこんな風に見ているのです。

 

関連書籍

小谷太郎『理系あるある』

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小谷太郎『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』

2002年小柴昌俊氏(ニュートリノ観測)、15年梶田隆章氏(ニュートリノ振動発見)と2つのノーベル物理学賞に寄与した素粒子実験装置カミオカンデが、実は当初の目的「陽子崩壊の観測」を果たせていないのはなぜか? また謎の宇宙物質ダーク・マターとダーク・エネルギーの発見は人類が宇宙を5%しか理解していないと示したが、こうした謎の存在を生むアインシュタインの重力方程式は正しいのか? 本書では元NASA研究員の著者が物理学の7大論争をやさしく解説、“宇宙の今”楽がしくわかる。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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