ナンバープレートの4桁が「素数」だと嬉しくなる、花火を見れば「炎色反応」について語りだす、液体窒素でバナナを凍らせる、疑似科学に厳しい……。物理学者、小谷太郎さんの著書『理系あるある』は、理系の人なら身に覚えがありそうな行動や習性が満載。文系の人も、これで理系の人の気持ちがわかるかも? 楽しく読めて、おまけに科学の知識も身につく、一冊で二度おいしい本書の一部をお届けします。
花火はこうしてできている
ある種の金属は、炎にかざすと、炎が鮮やかな色に変わります。ストロンチウムは深紅、銅は青、ナトリウムは黄、バリウムは青緑といったぐあいです。
これが「炎色反応」です。中学か高校の理科で習ったのではないでしょうか。
花火は炎色反応の直接の応用です。夜空を染める打ち上げ花火も小さな手持ちの花火も、火薬にこれらの金属を混ぜ、その炎色反応によって色とりどりの炎を作り出しています。花火職人は美しい色を出すために、調合に工夫をこらします。
ある人たちにとって、この理科の花火への応用は、面白くて嬉しくてこたえられません。
金属が美しい色を出すという事実そのものがまず興味深いですが、花火という身近できれいで大人も子供も楽しむ夏の情緒が、実は銅とかバリウムとかストロンチウムといった無機的化学的金属物質によって実現するという、その対照が鮮やかで素敵です。
また花火という遊びを可能にするのが、授業や教科書で学んだしかつめらしい科学の知識だというのも心に響きます。理科とか何の役に立つのなどと抜かすやつはこれでも喰らえという感じです。
そこでこういう人たちは、夜空に咲く大輪の花火を見ると嬉しくなって、ストロンチウムとかナトリウムとか、あれは銅とか、いやバリウムかもとか、元素名を唱えだすのです。
なぜこんな場でそんな無粋なものを持ち出すのか、周囲は理解に苦しみますが、実は当人は大変花火に感銘を受けているのです。花火の原理を知っているために、より深く感銘を受けているといえるかもしれません。
その感銘を表わす言葉が元素名と炎色反応になったわけで、つまりあれは「かぎや」とか「たまや」に相当する、花火職人の工夫と技能に対する賛辞なのです。
「炎色反応」のしくみ
炎色反応のしくみについて簡単に説明しましょう。
金属を炎にかざすと、あるいは金属をふくむ火薬が燃焼すると、金属の原子や分子が気体となってばらばらと舞い上がり、炎に混じります。
こうした金属原子や分子には、さらに軽い電子という粒子が、数十個から数百個、部品として入っています。舞い上がってぶつかり合う原子や分子では、電子がポロリととれたり、あるいはくっついたりします。電子がエネルギーを受け取ったり、またエネルギーを放出したりします。
炎の中では高温の原子や分子や電子がこうした乱雑で複雑な運動を行なっています。
電子は原子や分子にくっつく際、離れる際、エネルギーの高い状態になる際、低い状態になる際には、光を吸収したり放出したりします。光を吸収してエネルギーの高い状態に移り、光を放出してエネルギーの低い状態に移ります。
そしてストロンチウムの場合、この光は深紅です。深紅に相当する波長の光を放出するような状態変化を頻繁に起こします。
これが炎色反応のしくみです。こうしてストロンチウムは炎色反応を引き起こし、花火は夜空を紅く照らすのです。銅の場合は青、ナトリウムは黄、バリウムは青緑をしています。
ところで「炎の色」というと多くの人はオレンジ色を思い浮かべるのではないかと思いますが、あのオレンジ色は実は炭素の炎色反応です。
ろうそくやたき火や灯油ストーブや不完全燃焼のガスレンジはどれもこれもオレンジの炎を発しますが、あの炎の中では炭素原子や、炭素原子をふくむ分子がばらばらと舞い上がっていて、そのうち炭素原子が3個連なったC3という分子があのオレンジを演出しているのです。
身近な炎はほとんどが炭素の燃焼で作られるので、私たちにとって炭素の炎色反応が炎の色です。
ガスレンジで燃やす「ガス」はプロパンガスやメタンガスなど、炭素をふくむガスです。完全燃焼しているガスレンジは青い炎を出しますが、あの炎の中にはCHという分子やC2という分子がふくまれ、この炎色反応が青です。
これが炭素を燃やす炎なのにガスレンジの炎が青い理由です。完全燃焼だと炎の中にCHやC2が多くなり、不完全燃焼だとC3が多くなります。