集中力が高まる、物忘れがなくなる、独創的なアイデアが浮かぶようになる、頭が疲れにくくなる、コミュニケーションが得意になる……。「脳に悪い習慣」をやめるだけで、こうしたたくさんの嬉しい効果があることをご存知ですか? 43万部を突破した、脳医学者・林成之先生のベストセラー『脳に悪い7つの習慣』は、読むだけで頭の働きが倍増すると話題の一冊。そんな本書の中から、一部を抜粋してお届けします。
人を動かす「ほめ方」のコツ
同期発火を起こすポイントは、プラスの感情を込めて人に伝えることと、相手の自己報酬神経群を活性化させることにあります。
これをふまえると、コミュニケーション力をアップするには「うれしそうに人をほめること」が有効ということになります。集団の和を重んじる日本では、人前で誰かを力強くほめることが少ないように思いますが、私は脳のしくみにもとづいて「意識的にどんどんほめること」をおすすめしています。
人をほめるには、ときに越えなければならないハードルがあります。自分のライバルや目下の人をほめるには、その相手のことを認めることから始めなければならないからです。
めったに他人をほめないという人は、往々にして「自己保存」のクセが働き、相手を素直に認められなくなっていることが多いものです。会社でマネジメントをする立場にある人のなかには、「ほめるより、厳しくあたって統制をとるべきだ」と考える人もいますが、これは裏を返せば「反抗されたくない」という考えの表れといえます。
嫌われたり恐れられたりしている上司や指導者のもとでは、脳がパフォーマンスを発揮できないことは、先に説明したとおりです。
人をほめることは、そのまま同期発火を起こしやすくすることにつながります。
相手を喜ばせるということだけでなく、人とのコミュニケーションをスムーズにし、相互に思考を深めることまで可能にするのです。
上司であれば、チームのメンバー全員と意思疎通ができ、思考力が高まって成果をあげられるほうが望ましいはずです。
ほめるときは必ず相手のほうを見て、「自分もうれしい」という気持ちを込めて伝えることが大切です。横を向いたまま、たんたんと「よくがんばった、次もよろしく」と言うのでは、相手のA10神経群が同期発火を起こしにくくなりますから、ほめる意義が半減しかねません。シャイな方はほめ下手になりがちですから、注意が必要です。
うれしさを表して思い切りほめることは、相手の「仲間になりたい」「人の役に立ちたい、貢献したい」という本能に働きかけることでもあります。
ほめられて嫌がる人がいないのは、脳の本能から考えて当然なのですが、それは「自分が認められる」ということもさることながら、「相手が喜んでくれている」ことが非常に大切なポイントになっているのです。
勉強や仕事も、他人からの評価だけを考えてやるより、「結果を出すことで誰かを喜ばせられる」と感じることが、脳のパフォーマンスを引き上げます。ほめ言葉は自己報酬神経群を活性化させる効果があり、取り組み方だけでなく、ほめられた人の思考力も高めるからです。
みんな違って、みんないい
また、ほめるときに大切な点として、相手のことをきちんと見て、ほめるべき部分をしっかり把握することもあげられます。
たとえば、部下が「自分で考え、工夫して営業したことで成果が上げられた」と思っているのに、上司が「君のガッツはすばらしい」とほめたとしたら、部下は喜ぶでしょうか。おそらく、「ちゃんと見てくれていないんだな」と思うのではないかと思います。
私が小学生のころのことです。私を含め、クラスのみんなは担任の先生が大好きでした。
いたずらをすれば、竹ざおで叩かれることもありましたし、毎日のようにテストをするなど、その指導方法には厳しさもありました。しかし、先生はいつも楽しそうで、ときには羽目をはずして授業を行うこともありました。子どもたちはいつも「何が起こるんだろう」とわくわくしながら過ごしていたものです。
そして、いま思い返して最もすばらしいと感じるのは、先生が子ども一人ひとりを「えこひいき」していたことです。つまり、全員に目を向け、よいところを見つけてはほめちぎってくれていたのです。そして、どの子どもとも、それぞれに違った形で信頼関係を築いていました。その結果、クラスメートは、その先生が教えることを、まるで砂に水が染み込むように吸収していきました。
「平等」という概念は、ときに間違いを含みます。チャンスが平等であることが望ましいのは間違いありませんが、人を伸ばすには、「違いを認めて一人ひとりに全力投球する」という考え方が必要です。私は、とくに教育において、「同じように育てよう」と指向することは誤りであると思います。
人は違いがあるからおもしろく、また違いをもっているからこそ、それぞれに才能を発揮するものです。その違いを認め、ほめる力を養っていきましょう。