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橋本治のかけこみ人生相談

2018.12.16 公開 ポスト

問題の多い家庭で育ち、人の幸せそうな姿が我慢なりません。【リバイバル】橋本治

 

●海星・会社員・39歳・男性・千葉県

すぐに自己憐憫に陥ってしまいます。人の幸せそうな姿が我慢ならないのです。幸せそうな人をみるとものすごく惨めな気分に襲われます。

自分だけが不幸ではなく、幸せそうな人たちも人に言えない問題を抱えているのは、理屈では理解できますが、感情では納得できません。

問題の多い家庭で育ち、学校ではいじめを経験し、大学はなじめず卒業、ひきこもり、10年以上の非正規労働を経て去年会社員になりました。「幸せな人生を奪われた」という喪失感が苦しめます。どうすればいいのでしょうか?

 

回答:上から目線かもしれませんが、あなたは立派です。

まず、あなたに申し上げたいことがあります。

上から目線かもしれませんが、あなたは立派です。あなたの努力は尊敬に値します。あなたに《自己憐憫》なんかは不要です。

あなたは、自分の生き方に胸を張って、誇ってもいいのです。

《問題の多い家庭で育ち》というところからスタートするあなたの人生は、現代社会の抱える問題をすべてクリアしてしまった、表彰に値する立派な人生です。

「現在」に辿り着けたご自分の努力を、あなたは人に誇るべきなのです。

誇って、人の模範にもなれるようなあなたが《自己憐憫》に陥っているのは、あなたがまだ寂しいからで、だからこそ世の中の人のありようを誤解してしまうのです。

あなたの生活圏がどこで、どこにお住まいかは存じませんが、あなたがディズニーランドやディズニーシーの中に住んでいるのでもなかったら、《幸せそうな人》というのはそうそう簡単に見ることは出来ません。

SeanPavonePhoto/iStock

世の中の人は生活が結構大変で、そうそう《幸せそう》にはなれないはずで、《幸せそうな人》がいたら、その人はその瞬間バカになっているのです。

「幸せそうな人間はみんなバカだ」なんてことを言ってしまうと、とんでもない悪口のように聞こえるかもしれませんが、「バカ」になっていられる時、人は幸福感を味わっているものなのです。

「バカになっていられる」ということは、「余分な心配をなにもしなくてすんでいる」という状態にあることなのです。

「ああ、なんにも考えなくていいんだ!」と思ったら、幸福でしょ?

もしかしたらあなたは、そんな風に考えたことがないので「そんなバカな」とお思いかもしれませんが、実は「バカ」になれた時、人は幸福なのです。

誰彼かまわず抱きついてゲラゲラ笑っている酔っ払いのことを考えて下さい。

周りの人間は別として、それをやっている酔っ払いは幸福で、人は「幸福でいられるバカ」になりたくて、酒も飲むのです。

だから、あなたが《幸せそうな人》と思う人達は、みんな「バカ」なのです。

「幸せそうな人間はみんなバカだ」というのは、悪口ではありません。でも、悪口になる要素も持っています。もちろんです。

「幸せそうな人間」は、幸せそうなんですから、もちろん幸せです。

だから、他人のことなんか考えません。考える必要なんかないんです。だって、自分が幸福だからです。自分1人の幸福に酔っていればいいのです。

もちろん、世の中には「いつでも幸せそうな人」というのはそうそういません。

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橋本治

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文学科卒業。小説、評論、戯曲、古典の現代語訳、エッセイ等、多彩に活動。『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)等、著書・受賞歴多数。

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