前回ディレクターズ・レーベルの話の中でスパイク・ジョーンズに関して書いたのだが、やはりこの人達の話をするなら3人続きで紹介しないといけないような気がしてきた。これからも彼らの作品は何度も紹介することになるとは思うのだが、やはりあの3人がディレクターズ・レーベルというプロジェクトを始めた意義はとても大きく、今世界中で彼らの作品に影響を受けてないディレクターはいないんじゃないかと思う。
彼らの話を始めてしまうと、彼らの話で終始してしまい、ある一定の方向——映像技術とかその進化とか−—−でしかMVが語られないのでは?という危惧もなくはないのだが、この連載を楽しんでもらうにあたって、ネタに苦しんだら彼らの話をしていれば大丈夫というような自分の逃げ道を早い段階で塞いで置くためにも彼らの話はしきってしまおう、と考えてみた。
残りの2人はクリス・カニンガムとミシェル・ゴンドリーなのだが、彼らの代表作を選べと言われてもありすぎて、特にクリス・カニンガムはアーティストがワールドワイドで有名になっていない中にも衝撃的な作品がある。だから、彼らの本質的な素晴らしさを語るためには、もっと違う場所と違うリサーチが必要になってくると思うのだが、この場はみんなでMVを観る楽しみを共有しようということなので、僕の感覚で勝手に作品を選ばせてもらおうと思う。
クリス・カニンガム監督のMV「All Is Full Of Love」Björk (1998)
なんだかこの作品を「凄いよ」と言うのは、当たり前すぎて悔しいのだけど、やっぱり凄い。もちろん楽曲の持つ力、ビョーク本人のアーティストとしての力が凄いのは当たり前にあるのだけど、やはりクリス・カニンガムの表現する世界観はディティールへのこだわりが半端ない。特殊プラスティックのボディ、表情だけあるヒューマノイド、クリーンアップするかのような水流、KISS、その艶かしい動き、後からはなんとでも言える当たり前の世界観を、当たり前じゃない違和感をぶち込み続け、一瞬を表現している。撮影のロボットの表情は顔だけが切り取られて加工されたビョーク自身。何周もビョークの存在を膨らまし中心に向かって円を描くような作品なのだ。
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MTVが教えてくれたこと
1981年8月1日午前0時に「観る音楽」の文化を作り出し、熱狂を巻き起こした音楽番組MTVは始まった。CM→MV(ミュージック・ビデオ)→映画監督という流れができ、あらゆる映像技術がMVで試されて行ったあの時代を振り返る。
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