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カラス屋、カラスを食べる

2018.12.30 公開 ポスト

「カラスは人の言葉がわかる」は本当か? カラス研究者・松原始先生に聞いてみた【後編】夏生さえり

カラス屋、カラスを食べる』(幻冬舎新書)の著者であり、世界でも珍しいカラス研究者・東京大学総合研究博物館の松原始先生に、Twitterフォロワー約20万人の人気ライター・夏生さえりさんが突撃取材! 先生はふだんどうやってカラスを観察しているの? カラスって何を食べるの? どこで寝てるの?「カラスの聖地」だという代々木公園を散策しながら、たっぷりとお聞きしました。本日は後編をお届けします。<前編はこちらからどうぞ → 代々木公園はなぜ「カラスの聖地」なの? カラス研究者・松原始先生に聞いてみた【前編】

* * *

(写真左:松原始先生、写真左:夏生さえりさん)

カラスは人の顔を覚えます

 

ところで、カラスは「頭がいい」って本当なのでしょうか? 「人の言葉がわかるから、バカにすると目を突かれるよ」と幼いころよく親に言われましたが。

 

いえ、さすがに人間の言葉はわかりません。それにビビりなので、襲ってくるということもめったにありません。あるとすれば、子どもを守るためでしょう。

でも、人の顔は覚えますよ。友人は毎日同じ公園に通っている間に顔を覚えられて、「ベンチで寝ているうちに肩に止まっていた」と言っていました。さらに、家までバレた、と。

 

家がバレた?

 

はい。同じカラスが家に来たらしいんです。障子を開けておいたら、家に入ってきたそうです。おそらく後をつけてきたのでしょう。ストーカーみたいですよね(笑)。最近は友達を連れてきて2羽になったと言っていましたが……。ほとんどないケースだとは思いますが、そういうこともあるようです。

それに、今年の春、錦糸町で券売機にICカードを挿入するカラスが見つかりました。人からカードを奪って、券売機に差し込もうとしている……と。おそらく人間がやっているから、何かいいものだと思ってやってみたんでしょう。でもあまりに人を恐れないので心配していたら、よく分からない人たちが捕獲して、田舎に放鳥すると言ってどこかに持って行っちゃいました。

 

カラスと人間は、コミュニケーションが取れるんでしょうか?

 

カラスの鳴き真似をすると、「今の誰?」という感じで近づいてきたり、鳴き真似の真似をして返事をしてきたりしますよ。

ブト(ハシブトガラス)の例ですけど、カラスは他のカラスが鳴いたら、それが誰なのかがわかるそうです。声紋も1羽ずつ違います。ゴミ漁りのときなんか、集まったカラスが一声ずつ「かあ」「かあ」と鳴いているときがあって。「点呼とってる!」と思いますよ。100羽以上は、顔と声が一致するみたいです。

 

すごい! やっぱり頭がいいんですね。

 

でも、頭がいいと思えないときもあります。柿をくわえて飛んでいたカラスが、他のカラスの声に反応して返事をして、柿を落としちゃったのを見たことがあります。多分反射的に「かあ」って言っちゃったんでしょうけど、ばかだなぁと思いました(笑)。

 

▲柿を食べたいカラス。取っては落としてしまう……を繰り返していました。

 

おっちょこちょいでかわいい(笑)

 

それから、鳩は鏡をみて「これは自分だ」とわかるんです。鏡に汚れをつけておくと、鏡に映った自分を見て、「あれ?汚れている?」と毛づくろいを始める……という実験データがあるんです。でも、カラスはできません。鏡をみたらすごい勢いで喧嘩を売っちゃう。そういう意味では、ちょっとヤンキー気質かもしれないですね(笑)。

 

街にカラスがうじゃうじゃいるのは日本だけ

 

夕方ごろに山の上などでカラスが大量に飛んで鳴いていることってありますよね。あれは何でしょうか? なんだか不吉な感じがしてしまうのですが。

 

そういう山は、彼らの「ねぐら」ですね。それで、みんなを呼び集めるために鳴いているんでしょう。他の鳥も同じようなことをします。夕方にピイピイ鳴いて大群を作ったり、一斉に飛び立ったり、ぐるぐるとまわっていたりするときは、「はやくこっちに来い」「もっと集まれ」ということだと思いますね。

 

(よかった!別に死体が埋まっているわけではなかった!)。長年、気になっていたことが解き明かされてスッキリしました! では松原先生が、いま一番解き明かしたいことってなんですか?

 

そうですね……。僕たちは、街の景色に当然のようにカラスがるのを当たり前だと思ってますよね。でも、街中にこれほどカラスがうじゃうじゃいるのって、日本だけなんです。

ハシブトガラスは南アジアからロシアまで生息していて、ハシボソガラスはユーラシアに広く分布します。つまり台湾や韓国なんかは環境も近そうなのに、街中に住み着いているのは日本だけ。タイでもベトナムでも、「街では全然見ない」と。

 

不思議……。どうして日本だけなんでしょうか。

 

不思議ですよね。少なくとも江戸時代には、すでに住み着いていたことがわかっています。江戸の末期には、ものすごく人に慣れていたとも。一体何が違うのか。森もゴミもある国なんて他にもあるのに。これはなぜなのかものすごく知りたいですね。

 

▲こんな風景も日本だけのもの

 

カラスはとってもきれい好き

 

今日色々とお話を伺って、カラスって怖くないんだなぁということがようやくわかったのですが、やっぱり世間のイメージに対して、「違うのにな」と悲しく思うこともありますか?

 

しょっちゅうです。もうちょっとカラスの魅力が伝わればいいなと思っています。

たとえばカラスは「汚い」というイメージですが、彼らは結構きれい好きですよ。毎日最低1度は水浴びをしています。餌を食べた後は必ずくちばしを磨きますし、ゴミを食べた後は頭を突っ込んで顔を洗うので。

 

▲取材中もたくさんのカラスが水浴びをしていました

 

カラスって、じっくり見てみると本当に面白いんです。だからまずは、30秒ながめてみてほしい。その間に、絶対変なことを1個くらいやりますよ。かわいいことか、間抜けなこととか(笑)。例えば電線の端から足を踏み外したり、ね。ぜひもっと多くの人に好きになってほしい、と思っています。

 

たしかに今日見ていただけでも、いろんな姿を見ることができました。これからはカラスを見つけたら、もうちょっとじっくり見てみます。

 

▲ちょこちょこと歩いて、へんなことしています。

ちなみにここからは余談になるのですが、松原先生はカラス以外にハマったものはありますか?

 

えっ、カラス以外に、ですか……? アニメ、漫画、小説でしょうか……ああそういえば、たった1度しか人に見せたことの無い特技があるのですが……。

 

なんですか?

 

一人 カリオストロ」です。最初のシーンから最後のシーンまで動き付きで、すべて一人で演じることができます。91分の作品をやろうとすると130分かかるのですが、たった1度だけ友達に見せたことがありますね。「ねえ、本当に最後までやっていいの?」って聞きながら(笑)。

 

(予想の斜め上だ)。

 

ちなみに「一人 紅の豚」もやろうとしていて……。

 

その研究的能力がカラスに向かっていて良かった(笑)。本日はありがとうございました!!


取材を終えて

 

それにしても、「東京という場所はカラスの目でみると、ほとんど自由な地面が無い」というのは本当に衝撃的でした。人間が暮らす場所とまったく同じ場所で、カラスも出会い、カラスもペアになり、家を探し、自分の土地を持って生きている……。カラスの目で見たら、東京は餌が豊富で住宅(なわばり)も多い、刺激的な街なのでしょう。そう考えると、普段生きている世界が2倍に膨らむような感覚に陥りました。


ちなみに、最後に「研究者って、日常生活でも忍耐強くなるのでしょうか?」と聞いてみると、「全く忍耐強くない」という答えが。聞くと、「ビッグサンダーマウンテンのために1時間も待てないけど、カラスのためなら8時間待てる」とのこと。


さすがに、カラスを研究し続けて25年なだけはある……。


これほどまでにカラスに愛を注ぐ松原先生を見ていると、これまでカラスのことを誤解していて申し訳なかったなぁ、という気持ちに。


皆さんも、少しでもカラスに興味を持ってくれますように。


まずは街中で30秒観察をしてみてくださいね。きっと、可愛らしい姿に出会えるはずです。


おまけ

最後に失礼なことを言うかもしれないのですが……。

 

はい?

 

松原先生、カラスに似ているって言われませんか?

 

すごく言われます。

 

やっぱり。

 

▲そっくりです…


~おわり~


*取材構成/夏生さえり
*写真/南浦護
*編集/片野貴司

関連書籍

松原始『カラス屋、カラスを食べる 動物行動学者の愛と大ぼうけん』

カラス屋の朝は早い。日が昇る前に動き出し、カラスの朝飯(=新宿歌舞伎町の生ゴミ)を観察する。気づけば半径10mに19羽ものカラス。餌を投げれば一斉に頭をこちらに向ける。俺はまるでカラス使いだ。学会でハンガリーに行っても頭の中はカラス一色。地方のカフェに「ワタリガラス(世界一大きく稀少)がいる」と聞けば道も店の名も聞かずに飛び出していく。餓死したカラスの冷凍肉を研究室で食らい、もっと旨く食うにはと調理法を考える。生物学者のクレイジーな日常から、動物の愛らしい生き方が見えてくる!

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カラス屋、カラスを食べる

カラスを愛しカラスに愛された松原始先生が、フィールドワークという名の「大ぼうけん」を綴ります。「カラスの肉は生ゴミ味!?」「カラスは女子供をバカにする!?」クレイジーな日常を覗けば、カラスの、そして動物たちの愛らしい生き様が見えてきます。

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夏生さえり

山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計15万人を突破(月間閲覧数1500万回以上)。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)がある。Twitter @N908Sa

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