先日、『超現代語訳 幕末物語』『超現代語訳 戦国時代』の著者である房野史典さんが、NewsPicksの野村高文さんをゲストにお招きしての、対談が実現しました!
NewsPicksといえば、現代のビジネスシーンの最先端で情報発信しているメディアです。
そんな野村さんと、歴史芸人の房野さんという異色の組み合わせ。いったいどんな話になったのか……⁉
テーマは「現代の織田信長、吉田松陰は誰だ?」。(→こんなイベントでした!@幻冬舎大学)
現代は、情報の面で、戦国や幕末の頃にも匹敵する、激動の時代。
あまりに面白かったこの対談を、参加したみなさんからの猛烈な要望にお応えして、リポート記事にしました!
* * *
吉田松陰は、スーパーアジテーターだ!現代にもいるよね。こんな人。
房野 NewsPicks、ムッチャ面白いのでいつも読んでます。旬のニュース記事はもちろん、コラムも読みごたえのある記事がたくさんありますよね。
野村 ありがとうございます!
房野 しかも記事にコメントしてる人たちが、すごい。ホリエモンさんとかもコメントしてるんですよね!そういう人たちのコメントを読んで、「この人、こんな考えなんだ」とか、「こんな感じで、この物事を捉えるんだ」みたいなことがわかる。
野村 私よりも、NewsPicksのことをうまく説明してくださってる(笑)。
房野 野村さんて、今のビジネスシーンの第一線で活躍されてる方々にインタビューする機会が多いんですよね?
野村 そうですね。仕事柄、「今、どの人に話を聞いたら、一番面白いか」っていうのを常に考えながら、インタビュー企画を作っていってます。
房野 そこで、現代のビジネスシーンにおけるトップランナーと、過去の偉人たちには、似た部分があるんじゃないかと思いまして、歴史もお笑いもお好きだという野村さんをお呼びしました(笑)。
野村 はい、歴史もお笑いも大好きなんです(笑)。房野さんの本(『超現代語訳 戦国時代』『超現代語訳 幕末物語』)を読みながら、「あ、こういうオジサン、今もいるよね」っていろんなところで思いました。
房野 嬉しいです!
野村 専門家ではないので厳密さは全然ないですが、一歴史ファンとして、「現代で言うと、この人は誰かな?」みたいなことを、思わず考えてしまう。
房野 それを聞きたいな。「歴史上のあの人にちょっと似てるとこがあるな」みたいなのを。
野村 はい、なので、今日は極めて私の主観ですが、現代と過去のパラレルなところについて話していければと思います。繰り返しになりますが、厳密さは全然ないです(笑)。
房野 パラレルだなって感じられるんですか?
野村 はい、100%一致ってことはないですが、でも、「この部分は、あの人の気質に似てるなあ」とか。
房野 なるほど!そしたらまずは、『超現代語訳 幕末物語』の中でまぁまぁページを割いて書いてるので、吉田松陰さん、どうでしょう?
野村 いいですね。松陰先生。
房野 一般的なメージは、幕末から明治にかけて活躍する偉人たちを輩出した学校の先生、みたいな感じだと思うんですよ。でも僕は、先生っていうより、スーパーアジテーターというか、煽動者ってイメージが強くて。ちょっと悪く言えば、若者たちを煽りまくったという感じ。
野村 なるほど。
房野 当時の人たちが「自分たちの国」といえば、たとえば長州(今の山口県)だったり、たとえば薩摩(今の鹿児島県)のことを指していました。でも、松陰は、「外国が来てるんだから、もう、まるっと『日本』で考えようよ」って言ってた。進んでる!そんなわけで、「若者よ、今こそ立ち上がれって言ったお兄さん」ってのが、松陰に対する、僕の第1のイメージなんです。で、第2のイメージは、大テロリスト。めっちゃ犯罪者!あ、誤解なきように言いますが、僕、吉田松陰好きですから。
野村 テロリストですよ?(笑)
房野 はい、大やべぇ奴。今でも密航はアウトですけれど、当時は、密航なんかしたら、絶対死罪。吉田松陰はそれがわかってるのに、外国から船が来たらそこに乗り込んでいって、「俺をアメリカに連れてってくれ」って交渉したんですよ。もう、ヤバいって!大犯罪者ですよ!
野村 ほかにもヤバいことしてますよね。
房野 そうです!大老・井伊直弼が、自分の意見にそぐわない奴の断罪を始めていくのですが、そのせいで、吉田松陰と同じような考えを持った人たちが、次々に死罪やら謹慎やらになっていく。そこで松陰が何をやったかと言うと、自分の藩(長州藩)の上司に、「井伊直弼の腹心の間部(まなべ)詮勝(あきかつ)を殺します」って宣言して、「だから、武器貸してください」って言った(笑)。これ、どヤバいでしょ?思い立ったら一直線というか。
野村 さすがに、現代の経営者で、「あいつを殺してきます」っていう人はちょっと思い浮かばないですね。いたらヤバいですよね(笑)。
房野 もし、野村さんがそんなことを言ってる人を知ってたら、止めないと!(笑)。
野村 なので、その“どヤバい部分”は置いときます(笑)。それ以外の部分で似たような気質を持っている方として、パッと思い浮かんだのは、リクルートの創業者の江副浩正さんと、ホリエモンこと堀江貴文さん。
松下村塾も、リクルートも、時代を動かすスゴイ人物を輩出している!
房野 ほう!江副さん!?
野村 吉田松陰の松下村塾って、きらめくスターをたくさん輩出してるじゃないですか。松陰先生に惹かれて、いろんな才能が集まり、芽を出していきましたよね。創業当時のリクルートも、江副さんっていう強烈なキャラクターがいて、そのカリスマ性の下にいろんな方が集まって、育っている。そこからスピンアウトして実業界で活躍している「元リクルート」の人がたくさんいて、今や、ひとつのブランドになってます。
房野 よく聞きますよね、「元リクルート」って。
野村 江副さんというカリスマがいて、その姿勢を間近で学んできた人たちが、リクルート第一世代になるのかな。
房野 なるほど!
野村 「東京都初の民間人校長」をやられた藤原和博さんもそうですよね。
房野 はい、はい!
野村 江副さんって、途中で、リクルート事件を起こして失脚してますよね。それで、現場からは身を引くのですが、江副イズムみたいなものは、リクルートの中に残り続けるわけです。
房野 ウワ~!
野村 吉田松陰も、処刑されてからも、吉田松陰イズムっていうのが、長州藩に残り続けるわけじゃないですか。
房野 何なら、処刑されたからこそ、ますますカリスマ性が高まって……!
野村 伝説になってる印象がありますよね。創業者が失脚してからしばらく経ってるのに、リクルートからひたすら優秀な起業家が出続けるって、これは、けっこう稀有な組織だなと思いまして。
房野 うわ~、面白い。吉田松陰と江副さん、似てる!
野村 行動を見ても、似てるなって思うところがありますよね。
房野 ところで、文献に残ってるのですが、松陰は、来るもの拒まずで、みんなをウェルカム状態にして、どんな奴にも良いところを見つけたと言われてます。例えば、伊藤博文には、「周旋屋になる」すなわち「良い政治家になる」みたいなことを言って、能力を伸ばしていったとか。後進を育てるっていう点で、江副さんはどうだったんでしょう?
野村 藤原和博さんに聞いた話なのですが、江副さんはとにかく「採用狂」と言われるぐらい採用に力を入れていたそうです。偉い人とのアポイントが入っていても、「これぞ」という学生に見つけたら、前のアポイントをキャンセルしても採用面接を優先させたと聞きます。
房野 うわ、すご!
野村 しかも優秀なエンジニアを獲得するため、世界最高峰のスーパーコンピューターを30億円かけて導入したりもしています。それに惹かれてエンジニアが集まると、スパコンはほとんど使用されないまま数年後に捨てられたそうです。 とにかく実力のある人を集めるのに執念を燃やしていたのが江副さんで、その点でいうと、身分や固定観念に囚われずに人を迎え、実力のある人を登用していった松陰先生に通じる部分があるかもしれません。
房野 あ~、なるほど。面白いな。松下村塾も、カリキュラムが決まっていたわけじゃないし、「何か学ばせてください」って塾生が言ったところからスタート、みたいな感じがあったんですよね。マンツーマンの時も多かっただろうし、そもそも、畑仕事をやりながら学ぶとか、塾の建物も自分たちで築きながら勉強したりして。松陰先生と密に関わる時間って、たぶん多かったですね。
“リクルートマフィア”“ライブドアマフィア”。現代を動かすふたつの組織の共通点
野村 後進にどうやってスキルを伝えていくかについて、2種類あると言われてます。1つは、マニュアルを教える、つまり知識を教えるパターン。もう1つは、カルチャーを教えるパターン。効率的なのは、マニュアルで教える方ですよね。先生が、「これが正解だよ。この通りやろうね」って言って、それでみんな覚えていくっていう。
房野 言い方悪いですけど、簡単ですよね、そっちの方が。
野村 簡単なんですけど、その教え方の場合、突き抜けた人って出てこない。でも、「カルチャー」で、先生の姿勢や空気や考えを伝えて、一緒に動いていくっていう組織だと、先生を超えるような突き抜けた人が現れやすいところがある、って言われてるんです。
房野 なるほど!
野村 それで言うと、リクルートは、カルチャーで教えていく土壌の会社なんだろうなと。藤原先生のお話を聞いたことがあるのですが、マニュアル的に教えられたということはなく、江副さんの考え方を理解したら「とりあえずやってこい」みたいな感じでどんどん出され、それでどんどん人材が育っていく土壌になってる、と。
房野 はあー。簡単なテクニックを教えてるだけでは、傑出した人物って、出にくいんですね。
野村 もちろん、ある程度の前提知識は必要ですけど、「そこから先は自分で考えて動け」っていう余地を残しておかないと……。
房野 余白だ!
野村 余白です。そこら辺が上手い組織は、いわゆる“リクルートマフィア”みたいなのが生まれやすいんですよね。さっき、松陰先生に似ているということで、堀江さんのお名前を出しましたが、“ライブドアマフィア”っていうのも、最近よく言われてますよね。
房野 マフィアっていうのは、僕がいま思ってるマフィアで大丈夫ですか?
会場 (笑)
房野 ファミリーは大切にするけど、ファミリー以外はぶち殺すという、あのマフィア!?
野村 いや、ちょっと違うかな(笑)。最近、特定の企業や、特定の団体から出てきた出身の起業家のグループみたいなのものを、“〇〇マフィア”って言うことがけっこうあるんです。
房野 あ、そうなんだ!そうやって言うんだ!
野村 海外だと、例えば、「ペイパル」っていう決済サービスの会社の創業者で、ピーター・ティールという人がいますが。
房野 はい。
野村 あのペイパル社から、優秀な起業家がいっぱい出てるんです。イーロン・マスクもそうですし、YouTubeのファウンダーもそうですし、そういう人たちが“ペイパルマフィア”って言われてるんですね。それをモジって、リクルートマフィアとか、ライブドアマフィアとか言うことが増えてるんです。
房野 なるほど。
野村 なので、非合法的な集団っていうことではないですよ(笑)。
房野 わはは(笑)!
野村 ライブドアの場合も、ライブドア自体はもうなくなっちゃいましたけど、そこからすごい経営者が出てますし、今、ZOZOにいる田端信太郎さんほか、本当にいろんな人が育ってるんですよね。ライブドアも、堀江さんっていう強烈なカリスマの背中を見て育った人たちが、いろんなところに出てるわけで、似てるなっていう感じがします。
房野 ほんとそうですね。
野村 あと、堀江さんの場合、もう1つ、似てるなと思ったところがありまして。堀江さんも、吉田松陰も、合理的に考える人で、テクノロジーの知識が進んでる点で、他の人との差が歴然としてますよね!
房野 はい、歴然と違います。
野村 松陰先生は、外国のテクノロジーを見て、「こんなことで勝てるわけない。これからはテクノロジーにしっかり追いついていかないと、もう日本は死にます」って言ったわけです。堀江さんも、創業当時、ITっていうテクノロジーに注目されました。これで社会を変えるんだと、90年代にいち早く目を付けていたわけで、感度の高さが、すごい。その後、国家権力にやられてしまったという経験もされて……
房野 松陰も牢に入ってます!
野村 松陰先生も、江副さんも、堀江さんも、国家権力から睨まれてしまった。
房野 ホリエモンさんって今、「民間でもロケット作ろう」って、大きな夢に向かってますよね。夢といっても、僕は実現すると思ってますけどね。で、松陰も、夢を語ることが多かった人だと思うんですよ。「こうなったら良いな」「こうであるべきだ」っていう理想を掲げて、けっこう風呂敷広げるというか。これって、必要なことですよね!理想を語らないと、人はついてこないし、叶えることもできない。優秀な経営者の人って、そんな印象があります。
野村 今、これだけAIが発展して、しかも、不確実性が高まる一方で、世の中がどうなっていくか分からなくて、「そもそも人間の役割って何なの?」っていう時代になっていってます。そんな中でうまくいってる企業の特徴は、ビジョンがしっかりしてることなんです。「我々は、この世界を作りたい」っていうことを、経営者が100回でも1000回でも言い続けて、しかも、それを経営者自身が心の底から信じてるっていう特徴があるんです。2010年以降にブレイクした企業には、その傾向があります。
房野 なるほど!
野村 吉田松陰が、現代でも人気があるのは、そういうビジョンを、ストレートにやっていたからだと私は思ってるんです。だからこそ、現代人の心を捉えてるんじゃないかと。
房野 そうか。だから人気あるのか~!
野村 日本の高度経済成長とか、平成初期頃は、わりとロジカルに考えていた時代だったと思います。
房野 それがうまくいってた時期ですね。
野村 経営戦略をどうするか、数字から考えていたら、企業がうまくいっていた時代。左脳的といいますか。ところが、そのやり方の企業はどんどんダメになっていって、右脳的な……ある意味、行き過ぎてるくらいの方が、世の中で突き抜けてるっていう状況に、今はなってると思います。
房野 確かに、うん。
野村 なので、本当、一周回って、一周なのか何周なのか分かんないですけど、今まさに、ビジョンや理想で人を動かすっていう価値観が大事になってると思います。
房野 僕らの親世代くらいの人が、いま活躍しているトップランナー……たとえば、ホリエモンさんとか、ZOZOの前澤友作社長とか、落合陽一さん、それから先輩芸人の西野亮廣さんとかを見たら、「なんなんだ、この変なやり方⁉」って思われるでしょうね!でも、現実的に、そういう人たちが、今、若者を引っ張っていってる。
野村 そうですね。現代の企業家として、アジテーターであることが絶対条件だっていう時代になってると思いますね。数字に強いとか、組織運営に強い、みたいなことは、もう脇の人間に任せていいと思います。COO (最高経営責任者)とCEO(最高執行責任者)がしっかりしてれば。
房野 あ~、そうか。脇に実務ができる人!
野村 でも、アジテーションする、煽る、「これで行くんだ」っていうのは、まさにもうトップ、CEOにしかできない話なんです。それがしっかりしてる企業こそ、本当にここから伸びていくと思いますね。
房野 面白い!担がれる神輿は、イマジネーションをずっと抱いて、アジテーションし続けないと!
野村 そういう突き抜けた人に、“脇の人”も集まってきますし。
(第二部に続きます。第二部のテーマは「織田信長」です!)
野村高文(のむら・たかふみ)
愛知県生まれ。東京大学文学部卒業。PHP研究所Voice編集部を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)でビジネス開発を経験。編集×ビジネス開発の経験を活かし、NewsPicksでは記事編集の傍ら、2017年4月にスタートしたビジネスコミュニティ「NewsPicksアカデミア」のマネージャーを務める。
房野史典(ぼうの・ふみのり)
1980年岡山県生まれ。名古屋学院大学卒業。お笑いコンビ「ブロードキャスト!!」のツッコミ担当。無類の戦国武将&幕末好きで、歴史好き芸人ユニット「六文ジャー」を結成し、歴史活動も盛んに行う。初の著書『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』が話題になり、2018年は『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』『時空を超えて面白い! 戦国武将の超絶カッコいい話』など、続々刊行。
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歴史大好き芸人・ブロードキャスト!!の房野史典さんの初めての本『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』は、面白すぎてヤバイ!ととても話題になりました。発売になると、有名な歴史の先生方も「こんなに面白く読ませるなんて!」と大絶賛でした。
その房野さんが、今回「幕末」を面白く書いた!
幕末は、戦国時代以上に、日本中で”怒涛の人間ドラマ”だらけ。その分、ややこしくもあるのですが、房野さんに任せれば、とても楽しい面白読み物に!
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