『超現代語訳 戦国時代』『超現代語訳 幕末物語』が人気の房野史典さんが、現代のビジネスシーンの最先端で情報発信しているNewsPicksで活躍中の野村さんと、異色対談。
歴史上の人物と、現代のトップランナーの共通点を探ります。
情報の面で、戦国や幕末の頃にも匹敵する、激動の現代。聞いておいて損はない!
* * *
革命児・織田信長、で現代のトップランナーイメージすると?
房野 さて、続いて、『超現代語訳 戦国時代』にもご注目いただきまして……。戦国の超人気武将・織田信長行ってみましょう!
野村 行きましょう!
房野 皆さんがドラマやアニメや漫画でもよくご存知の、超有名人、織田信長。一般的なイメージは「革命児」って感じですよね?鉄砲の良さにいち早く気づいて活用したり。朝廷とか天皇のような権力にも歯向かったり。自分たちの武家のトップである将軍を退けたり。部下には冷酷で、スーパーワンマン。それで、グイグイ領土を広げていったわけですから。このイメージだと、現代で言うと誰が当てはまりますかね?
野村 そうですね、ソフトバンクの孫正義さんでしょうか。
房野 なるほど~!
野村 ソフトバンクが携帯市場、通信市場に参入した時がまさにそうだと思うのですが、国、特にNTTやKDDIという、既得権を持ったところに対して、「市場を開けろ」って乗り込んでいって、総務省とバチバチにやりあって。
房野 そうだったんですか!
野村 はい。世間に対しても、「これ、おかしいじゃないか!」みたいな意見広告を出したりして、自分たちの参入を認めさせたっていう経緯がありますよね。既得権に対して、真っ向から向かっていくところで、信長っぽいなあと。あとは、部下に対してすごく厳しいですよね。
房野 孫さんって、厳しい方なんですか?
野村 あれだけの事業を成功させてる方ですから……。孫さんの下で働いていた方の本も出ているので、読んでみてください。
房野 はい!
野村 確か、孫さん自身も、尊敬する歴史上の人物は、織田信長と坂本龍馬って言ってます。
房野 坂本龍馬を尊敬しているって、聞いたことあります!
野村 そちらのほうが有名ですが、信長のことも尊敬してるってどこかで読みました。尊敬していると、影響受ける部分もあるのかもしれませんね。
房野 ちょっと、ここで、信長の”別のイメージ”の話をしていいですか?
野村 ぜひ!
房野 今僕たちが知っている日本史って、だいたい教科書に書いてあったものが元になってると思いますが、これって、”戦後に整えられたもの”で、いろいろ探っていくと、「史実と違うんじゃ?」ってことがわりと多いんです。信ぴょう性の高い「第一次史料」をけっこう無視して作られてるらしくて。今、学者の先生たちが細かく調べていってるのですが、調べてみると、信長のイメージって、だいぶ違うんだそうです。もうちょっと保守的だったって言われてるんですよ。もちろん、まだわからない部分も多いし、確定じゃないですが。
野村 面白いですね!例えば?
房野 「信長は天下統一を目指してた」って常識のように思ってますが、これも、今、怪しいんです。というのも、京都中心の近畿圏を支配することを、「天下統一」とも言うんですよ。信長は、確かに領土を広げようとはしてましたが、京都あたりはもう支配してましたから、その時点で、信長はもしかしたら、思いを叶えてたんじゃないかっていう説もあるんです。
野村 ほお!
房野 明智光秀が「本能寺の変」を起こした理由はいまだに謎とされてますが、一説に、信長が朝廷の権威を軽んじて、我が物顔になっていたので、朝廷が光秀を差し向けたという「朝廷黒幕説」というのがあります。けど、信長って、別に上から目線ってこともなく、けっこうやり取りをこまめにしてたという話もあり……。
野村 我々の知ってる通説と事実が違うことって、他にもあるんですか?
房野 あります!信長が「楽市楽座」を実現させたのは有名ですよね。それまでは、「商売したい!」って人がいると、既得権益のある人が「商売してもいいけど、お金払ってね」っていう形だったのを、「もっとフリーにさ、そういう税とか取らずに、みんな、自由にやろうよ。そうした方が経済発達するじゃん!」って変えたのが楽市楽座。これ、信長が初めてやったこととして、僕たちが学生時代に習ったと思いますけど、「楽市楽座令」って、モデルケースがすでにあったんです。近江にいた、六角っていう大名がすでにやっていて、それを知った信長が、「いいね!」って真似した。
野村 うわ!
房野 「関所撤廃」もそうです。昔は、今でいう「県」が、それぞれ国の単位ですから、県をまたぐ時に関所があって、ここを通るときにお金を徴収されてた。信長は、「それもやめようよ」って言って、みんなが通行しやすいようにしてあげた――っていうのが、授業で習ったことじゃないかな?でも、関所撤廃も、信長のオリジナルじゃないんですよ。似たようなことを、今川も、武田も、北条もやってるんです。「信長はパイオニア」みたいなイメージが先行してるんですけど、実はその辺が全然、違う。
野村 信長は革命家ではなかったと?
房野 僕の考えを言いますと……信長は領土を広げる上で、「最短の方法」をただ選んでたってことじゃないかなと。昔のやり方であろうが、最新の方法であろうが、良い方を取っていってるだけなんじゃないかなと。その中で、楽市楽座のほうがよかったし、関所も撤廃した方がよかったんじゃないかなと。今、偉い先生たちがいろいろ調べていってるのだけど、学者の人たちの間では、「まぁ、そっちだな、信長」みたいになってるみたいです。
野村 あ~、面白いですね。
房野 この信長像だと、現代に置き換えると、どうですか?
野村 世間がイメージしている信長って、だいぶヤバイじゃないですか。だいたいドラマとかで染みついたイメージですが。
房野 そう。ヤバいです。すぐ半裸になるし!
野村 半裸になって、「うつけもの」みたいに言われてるけど、本当は、もっと政治的にも長けていたし、マイルドだったってことですね。
房野 そうです、そうです。
野村 それでいうと、ファーストペンギンとセカンドペンギンの議論が浮かびますね。
信長が「ファーストペンギンだった」というのは、史実と違っている!?
房野 ファーストペンギンとセカンドペンギン、ですか?
野村 最初に氷山から海に飛び込んだファーストペンギンは、だいたい潰れるけど、ファーストペンギンを見てから「大丈夫だ」とわかって飛び込んだセカンドペンギンは、もうちょっと良い思いをするっていう、生物の摂理なんですけどね。それで思ったのが、「楽天」という会社です。楽天は、IT企業の中でもかなり大きく成功していますが、フリマや金融については、セカンドペンギンですよね。前例を研究しつつ、微調整しながら、今の楽天を築いている。プロ野球への参入も、やっぱり前例があって、最初にIT企業でプロ野球参入を表明したのは、ライブドアでしたし。
房野 面白いですね!
野村 ところで、さきほどの「楽市楽座」の話ですが、もともと楽市楽座は別の戦国大名が発明したんだけど、その隆盛を極め、現代の我々でも知るほど有名にしたのは、信長ってことでしたよね?つまり、信長が作ったプラットフォームに、いろんな商人が集まってきた。
房野 はい。それで安土城の城下町がすごく栄えました。
野村 今、私は「プラットフォーム」って言葉を使ったんですけど、要するに、楽市楽座は、商人と消費者がダイレクトに繋がった、しかも、安心して商売ができる場を作ったっていうことですよね。
房野 そうです。
野村 楽市楽座以前は、基本的に、プレイヤーは決まっていて、限られた人しかそこに参入できないみたいなことだったわけで、規制まみれの世界でしたよね。そんなときに「楽市楽座」っていう、誰でも自由に活動していいですよっていうプラットフォームを作ったっていう意味で、わりと現代に共通するなと思うのは、メルカリとか、アマゾンマーケットプレイスです。既存の流通にない、新しいプラットフォームを作った起業家は、信長と似てると思いました。
房野 なるほど!
野村 例えば、メルカリの仕組みは、山田進太郎さんが一から発明したわけじゃありません。世界旅行中に、アメリカではやっていたシステムに出合い、日本に持ってきたらいけるんじゃないかって、日本版にカスタマイズしたそうです。それで言うと、信長が「他国では、これ流行っていて良さそうだ」となって、自分の所に持ってきて、かつ、そのルールを整理して、盛り上げていったっていう意味では、メルカリと似てるかなと。
房野 六角っていう大名が楽市楽座のパイオニアだったとしても、後世に残ってるのは“信長の楽市楽座令”なんですよね。信長はファーストペンギンじゃなかった!これまでの、みなさんの信長のイメージは「ファーストペンギン」だったと思いますが。
野村 ただし、ファーストとセカンドって言っても、ファーストが偉いとかじゃないと思うんですよ。やっぱり、成功して、民衆を、世界を豊かにした人が偉いですから。もちろん、ファーストが最初にやらなかったらセカンド生まれないんで、その意味ではファーストはカッコイイんですけど、ただ、世の中全体にもたらす富っていうことを考えると、セカンドはすばらしいとも思うんです。
房野 なるほど。往々にありますね。
野村 ええ。ですから信長が、もし、どこかの仕組みをオマージュして、自分に取り入れて、歴史に残ったということが、歴史的に分かったとしても、信長の評価が下がることは全然ない。
房野 ないですね。確かに。
野村 むしろ、うまく仕組みを取り入れて作ったっていう意味では、それはもう評価されるべきなんじゃないかって。
大きくなれないベンチャーと、信長の失敗の共通点
房野 引き続き、信長の話です。信長は、部下に冷酷だったって説があります。確かにそういう面はあったのかもしれないですけど、尾張出身、自分の地域の近くの部下たちには、けっこう最後まで手厚いんですよ。途中から新規参入していった奴が裏切っていってるんですよね、実際。
野村 最初からいる人は、わりと大事にしてる……。その点で言うと、現代の企業家になぞらえたら、あまり良いパターンじゃないんですよ。ベンチャーが大きくなっていく過程で、必ず、創業メンバー以外の人が入ってくるタイミングっていうのがあるんですよね。
房野 はい、あります。
野村 もともとベンチャーっには、“何人の壁”みたいなものが必ずあって、30人、150人、300人……それぞれにおいて、もともとの“ファミリー”的なものから、「外の血も入れて組織化しなきゃいけない」っていうタイミングっていうのがあるんですよ。
房野 うわ、なるほど。
野村 最初は仲間うちでツーカーでやっていけるんだけど、例えば、20代で始めたベンチャーに、ちょっと上の40代の人も入ってこなきゃいけないタイミングが来るとか。IT系ばっかりの人材を揃えていたのに、金融出身の人が入ってこなきゃいけないタイミングがあったりとか。そこを乗り越えられるかどうかで、そのベンチャーが成長するかどうかは決まっていると言われています。その時大事なのは、外から入ってきた人を、「この人、うちのカルチャーと違う」とはじくのではなく、ちゃんと同化することなんです。なので、信長がしていたという「昔からのファミリーは最後まで」「途中から入ってきた奴は違う」みたいなのは、企業経営にとっては、あんまり良いことじゃないなって思いました。
房野 結果、信長、潰れてますもんね!
野村 ところで、ヒエラルキー組織っていうのがあるじゃないですか。会社で言うと、社長がいて、中間管理職がいて、メンバーがいるっていうピラミッド構造。そのトップが変わったとき、そのトップが、現場との対話をするなんて言い出すと、中間管理職を排除しちゃうことがよくあるんです。そうすると何が起きるかっていうと、中間管理職は、「自分の顔を潰された!」と。
房野 いや、なるわ、それ。
野村 それで、新トップに対して反発して、「追い出してやろうぜ」みたいな力学が働くことがあったりするので、けっこう、フラットな組織って大事なんですよね。「誰を通して話をするか」の秩序を守っておかないと、その部下がしっぺ返しをくらうっていう例もあったりします。
房野 うわ~、なるほど。信長の後を引き継いだ形になった豊臣秀吉って、元がベンチャーですよね!武士じゃなく、お百姓さんの出身で、1人も部下がいないとこから、新規参入を何回もやってるわけで。そして段階を経て、ブレーンは変えていって、結果、天下取りました。
野村 そうですね。
戦国大名も、企業も、ブレーンを、コロッと変える時が必ず来る
房野 そういう意味じゃ、家康も、ちょっと似てる。天下を取るま
野村 ビジネスで見たら、それはすごく合理的です。ベンチャー発展論の話になるんですけど、スタートアップの創業に近いメンバーっていうのは、基本、「点取り屋」なんです。なぜかというと、1人1人が戦力を持って戦に出ていかないと……ビジネスの世界で言うと、仕事を取ってこないと、そもそもその会社が潰れるわけじゃないですか。
房野 ストライカーだらけってことですね。
野村 そう、ストライカーだらけで守りが薄いっていうのが、初期の特徴です。けれど、”成長の壁”じゃないんですけど、守り系人材を増やさなければいけない時期っていうのが必ずやってくるんですね。例えば、上場ですね。
房野 うん、上場。
野村 企業が上場すると、社会的責任が発生するので、キチッと会計をやるとか、リスクを詰めるとかいった人材をどんどん入れていかないと、市場から信頼してもらえないっていうタイミングになったりします。そのタイミングで、ストライカーよりも、官僚的な守りの人材が必要になってくることがあるんです。確か、家康って、最初は人質でしたよね。
房野 そうです。
野村 人質から始まって、小国の大名になって、で、腕が認められて、だんだん大きくなっていった。最初は「点取り屋」が必要だったのが、江戸幕府を開いて、自分が支配者っていうのが確立してからは、組織を永続させるための礎を築いていかなきゃいけない。そのためには、やっぱり、守り系の人材っていうのを増やさなければならない。企業が上場を機に、固くならなきゃいけないっていうところに、似たところがありますよね、すごく。
房野 家康のとき、武力派だった武将が、自分から「もう、俺の時代じゃない」って引いていったとも言われてるんです。これ、なかなか重要ですよね。豊臣家の場合は、官僚系と武力派が戦っちゃってダメになってますから。
野村 そうですね。ただ、徳川政権って、親藩、譜代、外様ってあるじゃないですか。で、やっぱ、昔からの味方に対して報いてるんですよね。
房野 なるほど。
野村 今の企業で言うと、ベンチャー創業の頃に、リスクを取って自分の会社にジョインしてくれた人たちに、どういう風に報いるかっていうと、わりとあるのはストックオプションっていう株を配る方法です。創業者は、自分の給料を下げてでも、リスクを取って入ってくれた人には、あとあと大いに報いるっていうのがあります。ちなみに、後から入ってきた官僚系の人たちには、給料は入るかもしれないけど、創業的な利得っていうのはあんまりない。組織としては、リスクを取った奴にはちゃんと報いるっていうことが、すごく大事なんだと思いますね。
房野 そりゃ、そうですよね。自分のためにというか、会社のためにそれをやったんだから。
野村 家康だって、別に最初から強かったわけじゃないじゃないですよね。
房野 はい、もっと強い大名いっぱいいましたから。
野村 当時は、武士が誰かに仕えるかって、もうリスクどころの話じゃないじゃい。下手したら死ぬじゃないですか。
房野 そうだ、うん。
野村 その中でついてきてくれた人には、ちゃんとやっぱり報いるっていう、リワードの仕組みは、合理的だったなあと思いますね。
房野 今以上ですよね。命を賭してくれたっていうことですもんね。
野村 小さい組織が大きくなっていく時に、それぞれのプレイヤーが、どんな動機付けで動いていくのか。どこかのタイミングで、自分の役割は失っても、その会社への愛着が失われないっていうのは何なのか。
房野 動機づけが、やっぱり。
野村 動機づけですね。その辺を解析していくと、戦国時代と現代とでは、似たようなものがあるなって思ったりします。
(第三部に続きます。次は、上杉謙信に土方歳三。いったいどういうこと!?)
野村高文(のむら・たかふみ)
愛知県生まれ。東京大学文学部卒業。PHP研究所Voice編集部を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)でビジネス開発を経験。編集×ビジネス開発の経験を活かし、NewsPicksでは記事編集の傍ら、2017年4月にスタートしたビジネスコミュニティ「NewsPicksアカデミア」のマネージャーを務める。
房野史典(ぼうの・ふみのり)
1980年岡山県生まれ。名古屋学院大学卒業。お笑いコンビ「ブロードキャスト!!」のツッコミ担当。無類の戦国武将&幕末好きで、歴史好き芸人ユニット「六文ジャー」を結成し、歴史活動も盛んに行う。初の著書『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』が話題になり、2018年は『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』『時空を超えて面白い! 戦国武将の超絶カッコいい話』など、続々刊行。
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