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美しい暮らし

2019.01.20 公開 ポスト

切り捨てられるものについての考察矢吹透

行きつけの歯科医に、いつか抜いた方がいいですよ、と言われていた親不知が、年末にぐらぐらとし始め、時折り、痛むようになりました。

年明けを待ち、歯科医院の予約を取り、抜いて頂くことにいたしました。

何十年もそこにあって、歯を磨いたりする時などに、しばしば邪魔にも感じていた、その歯がなくなってしまうと、すっきりすると同時に、奇妙な喪失感もあり、私は物思いに浸ることになりました。

何かを失う、何かを切り捨てる、ということについて、私は考えました。


前に進んで行くためには、何かを切り捨てなければならないことや、誰かを切り捨てなければならないことが、人の世には、しばしば起きるものです。

仕事に於いても、恋愛に於いても、時に、アイドル・グループの成長の過程などに於いても、そういったことが起こります。
切る側にも、切られる側にも、それぞれの理由が、きっと確かにあるのでしょう。
だから、それはもう仕方のないことです。

切り捨てる側が、切り捨てられる側よりも、必ずしも悪いとか、いけないというわけでもなく、責任はおそらく同等です。
けれど、私は思うのです。

捨てた側は、何かを、誰かを捨てて、今、手にしているものを得たのだ、ということをせめて記憶に留めて行って欲しい、と。

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矢吹透『美しい暮らし』

味覚の記憶は、いつも大切な人たちと結びつく——。 冬の午後に訪ねてきた後輩のために作る冬のほうれんそうの一品。苦味に春を感じる、ふきのとうのピッツア。少年の心細い気持ちを救った香港のキュウリのサンドイッチ。海の家のようなレストランで出会った白いサングリア。仕事と恋の思い出が詰まったベーカリーの閉店……。 人生の喜びも哀しみもたっぷり味わせてくれる、繊細で胸にしみいる文章とレシピ。

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美しい暮らし

 日々を丁寧に慈しみながら暮らすこと。食事がおいしくいただけること、友人と楽しく語らうこと、その貴重さ、ありがたさを見つめ直すために。

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矢吹透

東京生まれ。 慶應義塾大学在学中に第47回小説現代新人賞(講談社主催)を受賞。 大学を卒業後、テレビ局に勤務するが、早期退職制度に応募し、退社。 第二の人生を模索する日々。

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