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人生は理不尽

2019.01.25 公開 ポスト

「子どもへの期待」は持たないに限る佐々木常夫

「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。

『人生は理不尽』(1月25日小社刊、1200円+税、B6判変形260頁)

親子の同居に「愛」はいらない

孤独と並んで「淋しさ」について考えておくのも大事です。高齢者の一人暮らしは淋しいなどといった固定観念にとらわれると、困ったことが起きる可能性もあります。

亡くなった私の母の話です。

母は連れ合いを亡くしたあと、秋田で一人暮らしをしていましたが、「一人にさせておくのは忍びない」と東京の弟夫婦が母を引き取ることになりました。同居のために家の改装までした弟夫婦には頭が下がる思いもありましたが、情が先走ったのか、弟夫婦は母を引き取ることに関して、私や兄に何の相談もせず事を進めていきました。

ところが、しばらくすると弟夫婦は「母の面倒をなぜ自分たちだけがみなければならないのか」と言い始めます。兄弟で生活費を分担しましたが、母が体調を崩すと弟夫婦は世話が大変なので病院に入れると言ってきました。

すると兄が「そういうことなら自分の家の近くの病院に入院させる」と言い、兄弟間で母の取り合いが起きてしまいました。母を思う気持ちが、二人を対立させてしまったようです。

しかもよくよく聞いてみると、当の母は「本当は秋田を離れたくなかった」と言います。見知らぬ東京より、たとえ一人暮らしでも慣れた秋田のほうが安心して暮らせる。それが母の本心だったのに、「淋しいだろうから」という情で判断した結果、母を不本意なところへ連れて行ってしまったわけです。

ただ、私は弟たちをとても責める気にはなれません。やり方はまずかったにしろ、「母を一人にしておけない」という親思いからしたことです。

親を思う気持ちが人一倍強いと、皮肉にもこのような事態が起きることもある。私はそのことをいやというほど痛感しました。

ですから、老いた親御さんを引き取る、あるいはお子さんと同居を考えるのなら、「情」で判断しないようくれぐれも注意して下さい。一人暮らしは本当に淋しいのか。環境を変えてまで誰かと暮らしたほうがいいのか。熟慮することをおすすめします。

親の面倒を見るというと、多くの人は「愛」や「情」で動いてしまいがちです。「老いた親が一人でいるのは悪いことだ」という思い込みや、「自分は老いた親を面倒みている」という自己満足で同居を決めてしまうことも少なくありません。

しかしそうなってしまっては、愛ではなくエゴでしかありません。

だからこそ、同居を考えるなら、愛はいらない。お金はどうするのか。きちんと面倒が見られるのか。必要なのは情ではなく冷静に判断することなのです。

そもそも同居すれば、多かれ少なかれストレスが生じます。高齢になってストレスに悩まされるくらいなら、多少淋しくても一人のほうがよほど気楽だという場合もあります。淋しいという感情に振り回されてはいけません。

「子どもへの期待」は持たないに限る

最近は「子どもの世話にはならない」という高齢者も増えていますが、「子どもに面倒を見てもらいたい」という気持ちは、誰しも心のどこかにあるのではないでしょうか。

(写真:iStock.com/itakayuki)

このような気持ちを持つのは人として自然なことかもしれません。でも、私は子どもへの期待は持たないに限ると考えています。「子どもの世話になんかなりたくない」とまでは言いませんが、常に自立的に構えていたほうが、ストレスなく元気に生きられると思うからです。

私は現在娘夫婦と同居しています。娘とはもともと仲がいいですし、娘婿も私を実の父親のように慕ってくれています。

でも、人間いつどう変わるかわかりません。今はよくても何らかの出来事によって事情が変わることも考えられます。そのことを十分踏まえておかないと、期待が恨みつらみに変わり、そのことが原因で仲なか違たがいしてよけいなストレスを抱えないとも限りません。

そんなことになるくらいなら、はなから期待を抱かず、「いざとなったら別々に暮らせばいい」くらいの心構えでいたほうがずっと楽。良好な関係を長続きさせるためにも、期待は持たないほうがいいのです。

とは言え、いざ介護してもらうならやはり肉親が一番だと思うのも人情です。見知らぬ他人にしてもらうよりはわが子にしてもらうほうがうれしい。私だってそう感じることもないではありません。

でも今の娘夫婦を見ていると、仕事柄不規則な生活をしているので、とても面倒が見られるとは思えない(笑)。いい加減に扱われるくらいなら、介護のプロにやってもらうほうがいいのかなと思えなくもありません。

結局介護は「子どもにしてもらうのが一番」というよりは「きちんとやってくれる人にしてもらうのが一番」ということになるのかもしれません。

子どもに期待を抱きすぎないためには、親子関係を「タテ」ではなく「ヨコ」で考えるのが大事です。

親子というのはよくも悪くもとても身近な存在です。ついつい感情的になり「あれをしてくれない、これもしてくれない」など不満を抱いてしまいがちです。そうならないためには、親子というタテの関係ではなく、互いに一人の人間どうしというヨコの関係で見るといいのです。

人間どうしとして見れば、お互いの間に距離ができ、相手のことを客観的に見られます。気遣いや尊重が生まれ、「すがってはいけない」という慎みも生まれます。

他人行儀で冷たいと感じるかもしれませんが、このほうがかえって本音を話しやすくなり関係性が深まります。「期待しない」は、言葉としてはネガティブな響きもありますが、よい関係を育むための大切な心がけなのです。

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人生は理不尽

「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!

 

~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~

 

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佐々木常夫

1944年、秋田市生まれ。株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活を送る。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建などさまざまな事業改革に多忙を極めたが、いかにワークライフバランスを保つかを考え、定時に帰る独自の仕事術を身につける。2001年、東レ株式会社の取締役に就任。03年より東レ経営研究所社長。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを務める。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任している。『そうか、君は課長になったのか。』(WAVE出版)、『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(文響社)、『運命を引き受ける』(河出文庫)など著書多数。

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