「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。
義理は積極的に欠いていい
サラリーマン時代の義理でのつき合いなどは減らしてしまうに限ります。形式的なつき合いをやめれば、自分にとって大切な関係がおのずとわかり、より充実した人間関係作りができるのではないでしょうか。
私も70の声を聞いて以後、人間関係を大幅にダウンサイジングしました。
お中元やお歳暮はもちろん、年賀状もかなり減らしました。60代までは400枚ほど出していましたが、今ではたった50枚。
特に挨拶もなく一方的にやめてしまいましたが、そもそもこういうものは虚礼ですから、やめたからといって失礼に当たることもありません。
かたちだけのつき合いなら、すっぱりとやめたほうがお互いのためということもなきにしもあらず。人間関係の義理は積極的に欠いていいのです。
もっとも、私が義理を欠くようになったのは今に始まったことではありません。二次会には行かないなど、現役のときからよく義理を欠いていました。
ただし、「ここぞ」というつき合いは絶対に欠かしません。「断ったら信頼を損なうぞ」という飲み会は多少無理してでも参加しました。
義理は欠いても信頼は欠かさない。それがビジネスにおける人間関係の鉄則だと考えていたのです。
世間では「上司の誘いを断ったら出世できない」などと言われますが、私に言わせればそれは真っ赤なウソ。上司が求めているのは仕事ができることで、飲み会を断らないことではありません。酒のつき合いなんて、その程度のものなのです。
見栄は百害あって一利なし
信頼できる友だちの存在はかけがえのない支えになります。大きな慰めにもなります。友がいるかいないかで、老後の人生も大きく変わります。
ところが案外多くの人が友情に対してなおざりです。「放っておいたって縁が切れることはないだろう」などと安易に考えています。
でも、それは大きな心得違い。友情とは手入れをしてこそ輝くものであり、放置しておけば錆び付き、関係性は潰えてしまいます。受け身で待つだけでなく、自らすすんでコンタクトをとり、かけがえのない友情を末永く輝かせたいものです。
中には金銭的な事情で、友だち付き合いにあまりお金をかけたくないという人もいるかもしれません。交流を持ちたいけれど飲み食いにお金をかけられない。だからお誘いがあっても断らざるを得ないという人もいるかもしれません。
そういう場合は、何もお金をかけて飲食する必要はありません。お茶を飲むだけだって十分です。親しい間柄なら「そんなのダメ」なんて言いません。事情を伝えれば、理解して合わせてくれるはずです。
大事な友だちなら、黙って誘いを断るより率直な本音を話すべきです。何も話さなければ相手は「避けられている」としか思わず、ますます疎遠になってしまいます。
特に男性の場合、見栄やプライドから「お金がない」と言えず、飲み会などの誘いを断ってしまうこともあるかもしれません。でも、そんな見栄は百害あって一利なし。本物の友情を育むのに、お金もお酒もいらないのです。
人生は理不尽
「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!
~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~