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眩しがりやが見た光

2019.01.29 公開 ポスト

何もうみださなかったこんな日のことマヒトゥ・ザ・ピーポー

photography 吉本真大

書くことはたくさんあった気がするけど、2019年のはじめのコラムになってしまった。例によってサボってしまったわけだ。日々はどんどんと年をとっていって、見とれたり、顔も見たくないと無視している間にもうあけましておめでとうが似合わないほど一月も終わりに近づいている。

そもそも、あけましておめでとうって何がめでたいんだ? 何も変われなかったわたしが地面を舐めながら歩いている。恥を晒しながらこんな風にきっとわたしの一生というやつもすぎていくのだろうか。何も語らなかった日々は、何もなかった日々なのだろうか。

クアトロでのワンマンライブが終わり、久しぶりにゆっくりとできると思い、部屋に転がって口をあんぐりあけていた。

なんだか異様に疲れている。思い返してみても曖昧で、BODY ODDというマイクリレーの曲のせいもあってか、はじまる前から楽屋にやたらオラついた人が多くいたこと、フロアがクアトロらしからぬRAWな仕上がりになっていたこと、そのくらいにしか思い出せない。今になってみれば、よくあんなにたくさん人が来てくれたものだと他人事のように感慨深い。

煙のように、風景は消え、ただぐったりと体には刻み込まれている。しかし、これはもう病気かもしれない。あれだけ欲しかった休息だったはずなのに半日もじっとしていられず、筋肉痛のふくらはぎをつねりあげて、わたしのカラダは夜のクラブに連日、飛び込んでいた。

薄暗い闇の中で踊るわたしにはパンクスでもアーティストでもなく、日本人でも、29歳でもなく、ジェンダーもなく、ましてや、マヒトゥ・ザ・ピーポーではない。大喜利のような自己啓発ツイートでも本屋の参考本でもニュースでもなく、ストロボのたかれた音の渦の中で泳ぎ方を、自由を、社会を、愛し方を、わたしは勉強している。大げさではなくそう実感する。
 
朝まで遊び、さしてうまくない中華を食べたのち、DJの行松陽介と元SEALDsの奥田愛基の家で眠った。ソファで目覚めると、毛布が一枚増えていた。

壁には「DON’T BE SILENT」とスプレーで吹かれたピースが飾られている。

最近、よくこのSILENTという言葉についてよく考えている。

セクシュアルマイノリティの権利獲得のための運動で使われてきた「YOUR SILENCE WILL NOT PROTECT YOU」
あなたの沈黙はあなたを守らない

GEZANの「SILENCE WILL SPEAK」
静寂は語るだろう

際どい言葉のチョイスだと思う。反差別を発信しているカナイフユキさんにはリスペクトがあるし、否定のニュアンスは一つもないけど、一見すると反発しかねない言葉の並びで、北山雅和さんにデザインしてもらったことも切り離せない緊張感が生まれた。

以前書いた通り、SILENCE WILL SPEAKはFlagstaffの壁に書かれていた言葉だけど、それが自分のもとにくるまでのドキュメントは避けられないものだった。あらためて業(ごう)は面白い。常に考え続けるためにはカウンターが必要で、いつでも疑い続けなければいけない。そういう感覚がいつも自分に警告し続ける。満場一致は無効。

ロビーの扉を開け、外に出ると突き抜けるような雲一つない綺麗な青空だった。西海岸ツアーの時、アメリカの人が朝起きると挨拶のように「It’s a beautiful day」とフランクに話していたのを思い出した。綺麗な言葉だ。気づけば呪文のように発音していた。

あたたかいコーヒーとシュークリームを買って、三人で銭湯に向かう。

同じ季節の中にいても陽のあるところは暖かく、影は冷たい。冬の冷たい空気の中を太りすぎた猫がのそりと重そうに歩いている。落ちた金柑を踏むと匂いが立ち上がり、もう誰も住んでいない家はその窓や瓦が仕事を放棄している。水の抜かれた池のいなくなった亀を心配するおじさん。髪の長い赤いやつを指差して嬉しそうにはしゃぐ小学生。いつものこと。いつものこと。おばあちゃんは軒先で、みかんの皮が散らばった机の上に両足をだらしなく乗せて、テレビを見ながらうまそうにタバコを吸っている。煙の上がる部屋の古い時計の針はずっととまったままだった。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー『ひかりぼっち

いつ、どの部分を遺書として 切り取ってくれても構わない。 あなたがあなた自身である限り、誰にも負けることはない。 オリジナルでもフェイクでもいい。ただわたしであればそれだけでいい。 GEZANマヒト、時代のフロントマン。眩しいだけじゃない光の記録。本連載に加え、書き下ろしを収録。(写真 佐内正史)

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責める、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語。アンダーグラウンド界の鬼才が放つ、珠玉のデビュー小説。

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眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のカルチャーシーンを牽引する。
著書『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』、絵本『みんなたいぽ』(絵:荒井良二)。映画監督作品『i ai』がある。

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