「裏アカウント」をモチーフにした小説『仮想人生』(幻冬舎)を上梓したはあちゅうさんと、著書に『究極の男磨き道 ナンパ』(BbR)がある零時レイさんの対談。
かつて引きこもりだった零時さんが、自分を変えるために始めたのはナンパでした。今ではナンパスクールを開講し、学長として「対人に強くなるための」ナンパを指導するまでになりました。
『仮想人生』でSNSを中心に生きる、イマドキのナンパ師を描いたはあちゅうさんと、人生を変えたナンパについて語り尽くします。
(構成:池田園子)
対人恐怖症を克服したくてナンパをスタート
はあちゅう 零時さんの本、売れてますよね。
零時 ありがたいことに。でも、これが売れて、日本大丈夫か? って心配になりますけど(笑)。
はあちゅう あはは。ナンパに目覚めたきっかけは何だったんですか?
零時 慶応義塾大を卒業したあと、フランス文学を学ぶために2〜3年フランスで暮らしてたんです。でも、帰国して5年くらい、引きこもる日々が続いて。
はあちゅう 20代後半頃から、ということですよね。
零時 はい。30手前まで、基本的に誰とも話さない毎日でした。見知らぬ人とも気軽に話すフランスで、フランス流のコミュニケーションが鍛えられたはずなのに、5年も引きこもってたらそれが抜けちゃって。コンビニでレジに行くのすら怖くなって。
はあちゅう その間は何してたんですか?
零時 作家を目指して本を読んだり、書いたり、対人恐怖症の自分を変えないと、と思ってはいました。
はあちゅう 『究極の男磨き道 ナンパ』では、心理学者が考案した対人恐怖症克服法として、公園で50人の知らない人に「刑務所から出てきたばかりなのですが、今日が何月何日か教えてほしい」と聞く、といった方法が書かれていましたね。
零時 なかなかできなかったですけどね……。
はあちゅう 驚いたのは零時さんが「ストナン(ストリートナンパの略)」を始めたこと。私が『仮想人生』で書いた「ネトナン(ネットナンパの略)」のほうが、引きこもっていた過去を持つ人にとって、チャレンジしやすいんじゃないかと思ったんです。
零時 僕はネトナンはしなかったですね。メッセージを往復するとなると、時間を費やしてしまうので。
女性が笑顔になってくれたら嬉しい
はあちゅう 確かにストリートだと、お互いの顔が見えているぶん、誘いにのるかのらないか即決できる。かかる時間を考えると、手っ取り早いのはネトナンよりもストナンですよね。でも、かなり勇気がいるんじゃないですか?
零時 さっきの「刑務所トレーニング」よりは、断然やりやすいですよ。ナンパだと相手と「異性」として関わるわけで、目の前でその女性にとって、自分が男性としてアリかナシか、タイプかそうじゃないか判断されるだけ。誘いを受け取ってもらえたら嬉しいし、ダメでもそこまで落ち込みません。
はあちゅう ナンパをし続けていて虚しくなることはないんですか? 学生時代に男子校の文化祭に行ったことがあるんです。あれ、祭といっておきながら、実質ナンパ祭りじゃないですか。連絡先をたくさん交換しても、誰が誰だかわからなくなるし、コミュニケーションが面倒になるんですよね。
零時 虚しくはならないです。声をかけた女性が笑顔になってくれたら、女性がキラッとして見えるんですね。その瞬間、自分がその人のエネルギーを受け取った感じもある。自分が持っている何かで目の前の女性を喜ばせることができて、自分も嬉しくなるって言うとわかりやすいかな。
はあちゅう 零時さんはどんなふうにナンパしてるんですか? 今ナンパスクールの学長をされているなかで、お弟子さんにどう指導しているのかも聞きたいです。
零時 弟子には対人力をつけるためのレクチャーをしています。たとえば基本的なことですけど、相手の目を見る練習では、すごく近くで見つめたり、1メートル離れたところから見つめたり、男同士でや女優さんを交えながら実践します。
はあちゅう 演技指導みたいなレッスンもあるんですね。
零時 それをしていると、自分は視線を恐れていたんだと自覚できたり、その後は視線をうまく使えるようになったりするんです。声かけの練習もやりますよ。ひたすら練習を積んだ後、ストリートに出て、学長として見本を見せます。
はあちゅう ちょっとやってみてください。
(零時さん実演。跪いて華麗な動きで手を差し出す)
はあちゅう すごい(笑)。通りすがりの人が立ち止まって見ちゃうくらいインパクトありますね。
零時 対象となる女性だけじゃなく、半径10mに声をかける感覚というか。これくらいオーバーにやると、実質的に一度で20人くらいにアプローチしている感じになります。「壇上」に立っているみたいになりますから(笑)。メンタルが相当鍛えられますよ。
はあちゅう それはわかるかも。ただ、ナンパを通じて女性が得るものってなんだろう……。海外だと男性から女性への声かけは、女性を見下していると見る風潮もあります。
零時 たしかに。
自己啓発、自分磨きとしてのナンパ
はあちゅう ナンパされてモテ気分を味わえたり、容姿に自信がついたりする女性もいるかもしれないけど、意図せず声をかけられて「怖い」「バカにされている」と感じる女性もいるのでは?
零時 僕も過去に「迷惑」だと思われたことがあります。「ナンパ=迷惑行為になるのでは?」と萎縮するスクールの生徒もいます。でも、「迷惑行為をしてすみません」みたいなオーラを出してナンパすると、余計にイラッとされるんですよね。
はあちゅう 中途半端な声かけはね……。
零時 さっき実演したみたいに、「僕は後ろめたいことをしていない」風に堂々と、本気でやるほうが女性は笑ってくれます。
はあちゅう 道端で目の前で跪かれる、っていうのはかなりの非日常感がありますからね。だから笑える、ということか。
零時 いかにエンタテインメントを提供できるか、だと思います。女性の目を見て、笑顔でやると、「何この人(笑)」って感じで笑ってくれます。弟子を「ケツ振ってこい」と送り出すこともあります。
はあちゅう お尻を振る? え? どゆこと……(笑)?
零時 街中でお尻を振りながら、女性の目の前に登場する男なんていないじゃないですか。思いっきりやれば、笑ってくれるものなんです。
はあちゅう そこからお喋りして、連絡先をゲットしたり、お茶しに行ったり?
零時 それもあるし、その女性がどんな闇を抱えているか、話を聞くようになることもあります。友達には言いづらいことでも、ナンパ師という軽い関係だから、言えることもあるんですよね。
はあちゅう ちなみに、ナンパしやすい女性と手強い女性って、ナンパ師から見るとどう違うんですか?
零時 わかりやすく言うと、特徴がある人はナンパしやすいです。たとえば、歩き方がゆっくりめ、カツカツとキツめなトーンだとか。逆に特徴がない人は、声をかけて話してみないとわからない。あと、面白い人も応じてくれることが多いですね。
はあちゅう ナンパ師から声をかけられて話を聞いたり、ついていったりするのは、どこかに「面白いことがありそう」という気持ちがあるからだと思います。私もナンパからお付き合いに至ったことが3回ありますね。
零時 ナンパされて付き合ったエピソード、はあちゅうさんの作品で読んだことがあります。
はあちゅう この人についていくと、人生が予測しなかった方向へ転がりそうだな、って思うんですよね。なんかネタになるんじゃないか、みたいな(笑)。零時さんはナンパによって、人生が大きく変わっている印象です。
零時 スクールも開講できたし、本も出せたし、たしかに変わったと思います。声や表情……自分が持つリソースを対人関係においてどう使うと良いか、考えるようになれたのも良かった。塾生も自分を磨きたい、コミュニケーション能力を上げたい、メンタルを鍛えたいという目的でやってくることが多いです。経営者や有名企業社員、医師、弁護士など、いろいろな職業の人たちが、仕事に活かすために通ってくれています。
はあちゅう 自己啓発としてのナンパ、ってことかあ。今日はいろいろ聞けて楽しかったです。ありがとうございました!
(完)
仮想人生
現実世界で「普通の人」でいるために裏での息抜きが必要なんだ。
ネットを知り尽くすはあちゅうさんにしか描けない、SNSでむき出しになる人間の素顔。
衝撃の裏アカウント小説『仮想人生』について。