「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。
「なんとかなるさ」の覚悟を持とう
夢や目標を持って計画的に生きることは、人生を受け身でなく、意思を持って主体的に生きることにもつながります。
意思を持って主体的に生きられると、ただ漫然と生きるより、人はずっと強くなります。失敗や不安な出来事が起きても、くよくよせず「なんとかなるさ」と前向きになることもできます。
『幸福論』で知られるフランスの哲学者アランは「悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意思のものである」と説いていますが、気分ではなく意思で物事を捉えられれば、「なんとかなるさ」という気持ちが生まれ、老いや死に対する不安も少なくなるのではないでしょうか。
たとえば老後が不安だとしたら、その原因はいったい何か考えてみて下さい。
健康かお金か、それとも支えてくれる人がいないことでしょうか。
健康やお金のことは、役所などに相談すればそれなりの方法を探してくれます。生活の立て直し方も教えてくれます。身寄りがないならないなりに、孤独死せずに済む方法はいくらだってあります。
こうやって「意思」で考えると、不安の正体が見えてきて、すべて解消されないまでも心がいくらか落ち着いてきませんか。
最近は「下流老人」や「老後破産」など高齢者の心をざわつかせる言葉も流布していますが、こうしたワードに気分だけで反応せず、調べるなり相談するなり意思をもって対処すれば、「いざとなったらなんとかなる」と思えてくるはずです。
私はどちらかと言えば楽天的で、老いや死への不安はほとんどありませんが、思えばそれは多くの逆境があったからかもしれません。
父親のいない貧しい家庭で育ち、最初に授かった長男は障がいを持って生まれ、妻はうつ病を患い自殺未遂を繰り返しました。おまけに死に物狂いで戦った出世競争に敗れ、子会社への左遷を余儀なくさせられました。
「なんで自分が」「どうしてこんな目に」と思ったこともありましたが、「何とかするしかない」と対処するうち、「なんとかなる」と考えられるようになりました。逆境が否応なしに意思の力を育んでくれたのです。
これらの逆境がなかったら、私も漫然と人生を生きて、意思も主体性もない覚悟のない老人になっていたかもしれません。
私の実家はそこそこ裕福でしたから、父が病死しなければ貧困に陥ることもなく、苦労知らずのお坊ちゃんのままわがままな人生を送り、老後の不安にジタバタしていたかもしれません。逆境のおかげで怖いものなしになったと思えば、今では感謝したいくらいです。
人生は理不尽
「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!
~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~