「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。
幸せになるというのは、特別むずかしいことじゃない
毎年花見の季節になると、中学時代の仲間で集まります。桜を眺めながら、みんなで食事を楽しみます。そのとき友人の一人が、私にこんなことを言いました。
「佐々木、お前が一番幸せそうだな。健康そうだし、仕事もあるし、友だちも多いし。しかもみんなに好かれているじゃないか」
この時期私は花粉症がひどく、内心(花粉症がつらいんだけどね)と思いつつ、彼にこう返事しました。
「だって、そういう生活を心がけてきたんだもの。別におれが特別だというわけじゃない。やろうと思えば誰だってやれる。幸せになりたかったら、みんなもそうすればいいんだよ」
何気なく出た言葉でしたが、これは70年あまりを生きてきた私の実感です。
幸せになるというのは、特別むずかしいことじゃありません。「自分を幸せにするぞ」という自己愛にしたがって行動すれば、本当は誰だって幸せになれます。
ところが多くの人が失敗します。幸せになるはずが逆に不幸になってしまいます。
いったいなぜかと言えば、「自己愛」ではなく「自己中心」で行動しているからです。
自己中心に振る舞えば、当然人から嫌われます。他人をないがしろにすれば周囲から相手にされなくなります。こうなったら幸せでもなんでもありません。最初はよくても結局不幸な老後が待ち受けています。
一方自己愛は短絡的な自己中とは異なります。自分より他人をまず優先する、個人的な欲求より周囲への貢献を考える。そうすれば周囲から好かれます。おのずと磨かれ成長もできます。こうして自らを幸せへと導いてくれるのが私の言う自己愛です。
つまり「私が私が」という気持ちを少しだけ抑え、まずは相手に「どうぞ」と道を譲る。自分が困らない範囲で他人に尽くし貢献する。簡単に言うと、こういう心がけが自己愛を極める=幸せな老後を送るコツなのです。
組織での成功なんて二の次だ
私はこの考え方をスティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』から学びました。ご存じの方もいると思いますが、コヴィー氏は経営管理の専門家です。この本も優れたリーダーの育成を目的に書かれましたが、老後の人生を生き抜く知恵としてもたいへん役立ちます。参考までに7つの習慣を上げてみましょう。
1)人生を主体的に生きなさい
2)目標を持ちなさい
3)何が重要かを考えなさい
4)自利他利円満でいきなさい
5)理解してもらう前に相手を理解しなさい
6)お互いのためになることを考えなさい
7)よい習慣を身につけなさい
この7つがバランスよくとれてこそ人は幸せになれる。コヴィー氏はそう説いているわけです。
ちなみにコヴィー氏には9人の子どもと36人の孫がいます。その1人1人とフェイストゥフェイスで向き合い、全員を立派な社会人に育て上げました。そして組織において大成功を遂げたにもかかわらず、彼は堂々とこう言ってのけます。
「組織での成功なんて二の次だ。私の人生の誇りは子どもや孫たちである。彼らと向き合い、彼らに慕われることが最高の幸せなのだ」
仕事のために家族を犠牲にする日本のトップとは正反対。驚くと同時に、私はこの言葉に深く感銘を受けたのでした。
彼にはとうてい及ばずとも、7つの習慣を心がけることで家族から慕われ最高の老後が得られるなら、マネしてみる価値はあるはず。私もコヴィーさんにならって愛されるおじいちゃんを目指したいと思っています(笑)。
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人生は理不尽
「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!
~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~