「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。
「知行合一」で本当の自分に戻る
私は何もできた老人になれと言いたいのでも、多くの人から慕われる人格者になれと言いたいのでもありません。
怒りっぽいなら怒りっぽいなりに、人付き合いが苦手なら苦手なりに、その人らしくあって構わない。
ただ一点、自己愛すなわち「幸せになる」という志を、心のどこかにとどめておいてほしいのです。
心の中に自己愛があれば、どんな人でもありのままで周囲から受け入れてもらうことができる。すなわち「自然体」で生きられる。そう思うのです。
私は現役時代から、常々部下にこう話していました。
「ビジネスマンはこうあらねば」「リーダーたる者こうでなければ」なんて考える必要はない。格好つけて演技したり、ウケをねらっていい人ぶらなくたっていい。演技したって周囲はみなお見通しなんだから、あるがまんまでいればいい。
そうやって自分らしく素直に生きたほうが、仕事も人生もうまくいくものなのです。
ビジネスの現場では強気に出たりへりくだるなど、不本意な行動を強いられることがたくさんあります。不条理が当たり前の会社組織で生きていれば、ありのままどころか、鎧を着けて生きざるを得ないのも事実です。
長年そんな生活を続けていれば、自分らしさがわからなくなってしまうのも当たり前。何が幸せなのかもわからない。自己愛と言われてもピンと来ない。そんな高齢者もきっと数え切れないほどいることでしょう。
そういう人こそ、自由の身となったこの老後の時間を、自然体を取り戻すために使ってはどうでしょう。
頭の中で作り上げた自己像ではなく、本来の自分に戻って好きに生きる。やりたいように思いきりやる。自己中ではなく自己愛で生きれば、きっと誰もが幸せな、最高の老後を送れるはずです。
もっともどんな教えも実践しなければ意味がありません。方法がわかっても行動に移さなければ何もわかっていないのと同じことです。
そこで重要になるのが「知行合一」。どんな知恵も実践するためにあり、自分なりに解釈して行動して初めてその知恵を知ったことになる、という陽明学の言葉です。
たいていの人は本を読んでも講演を聞いても「いい話を聞いた」で終わりです。知識や情報を頭に入れて学んだ気になっています。
でも、ただ聞いて終わりでは本当に学んだことにはなりません。
聞いたことを行動に生かし、自分を変えるなり成長させるなりして初めて学んだと言えます。この「学ぶ力」がつけば、幸せになることなんて簡単なのです。
人生は理不尽
「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!
~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~