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宇宙はどこまでわかっているのか

2019.02.15 公開 ポスト

火星や金星は本当に「生命がいない星」なのか?小谷太郎

元NASA研究員の小谷太郎氏が、最新かつ知的好奇心を刺激する宇宙トピックスを解説した『宇宙はどこまでわかっているのか』(幻冬舎新書)が話題です。

ここでは本書より「『地球外生命』発見計画」をお届けします。地球人が調査している「宇宙人の居住可能領域」は、もしかしてまるで見当はずれということになるかもしれません。

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(写真:iStock.com/dottedhippo)

ハビタブルゾーンの惑星を探せ

宇宙に惑星がありふれた存在だと判明した21世紀、次の目標は、やはり生命の探索でしょう。どうやったらよその惑星に生命を探せるでしょうか。

異星の生命を見つけるには、「ハビタブルゾーン(habitable zone)」にある、地球のような岩石型惑星を探すのがてっとりばやい、というのが世間の見方のようです。

ハビタブルゾーンとは、「居住可能領域」などと訳されますが、恒星に近すぎもせず遠すぎもせず、惑星表面に液体の水が存在し、宇宙生命にとって住みやすい領域とされます。

地球は当然、私たちの太陽系のハビタブルゾーンにあります。そのため地球には水があり大洋があり、生命が生まれたり育ったり死んだり腐ったりしながら暮らしています。

そういうハビタブルゾーンにある岩石型惑星は、研究者によって数えかたがちがうのですが、2018年11月現在、30個~100個ほどあがっていて、どんどん増加中です。

そこに生命があるかどうか、どうやって調べればいいでしょうか

ひとつの実現可能な方法は、大気組成を調べることでしょう。

地球の大気には酸素が約20パーセント含まれています。これは地球大気の特徴で、火星にも金星にもこれほどの酸素はありません。なぜなら地球大気の酸素は緑色植物が光合成でつくったものだからです。

異星の植物が酸素をつくっているかどうか確信はもてませんが、酸素あるいはほかの不自然な成分が見つかれば、植物の存在の根拠になります。今後の観測技術の進歩に期待します。

あるいは、惑星表面で反射された光を分析して、植物の葉緑素に相当する物質の存在を調べることも、将来可能になるかもしれません。

期待の惑星探査ミッション「プラトー」

2017年6月20日、欧州宇宙機関(ESA)は惑星探査ミッション「プラトー(PLATO〈PLAnetary Transits and Oscillation of stars〉)」の製作を承認しました。打ち上げは2026年の予定です。

プラトーはハビタブルな岩石型惑星に焦点をあてたミッションです。そういう、生命のいる可能性のある惑星を1000個以上発見すると期待されています。

惑星探査は地上望遠鏡をもちいても行なわれていますが、衛星ミッションとしてはほかにも、NASAの「TESS(テス)」、ESAの「CHEOPS(ケオプス)」などが進行中・計画中です。

TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)は、全天を撮像して系外惑星を探査する宇宙望遠鏡です。2018年4月18日に打ち上げられ、現在順調に観測中です。恒星1個あたりの観測期間が短いので、公転周期の短い惑星がターゲットです。

CHEOPS(CHaracterising ExOPlanet Satellite)は、地上望遠鏡などでこれまでに検出された惑星を研究対象とする宇宙望遠鏡です。2019年に打ち上げが予定されています。ちなみにケオプスは古代エジプト王のギリシャ語よみで、別名クフ王です。

これらのミッションの中で、プラトーは、公転周期が1年程度、つまり地球と同程度の公転周期の惑星をさがすことができるという特色があります。そういう長周期の惑星をさがすため、プラトーは同じ恒星を2~3年も観測します。

惑星の公転周期が地球と同程度ということは、その惑星と主星の距離が、地球と太陽の距離と同程度ということです。つまり、ハビタブルゾーンにある惑星の探索にプラトーは特化しているのです。

(写真:iStock.com/3quarks)

火星や金星には本当に生命はいないのか?

ところで、ハビタブルゾーンの条件は厳しすぎ、視野がせますぎではないか、という印象があります。わたしたちの太陽系だと、ハビタブルゾーンは、地球軌道半径の0.95~1.15倍です。(違う数値を提案する研究者もいます。)このせまい範囲に地球は入りますが、火星も金星も除外されます。

実際、火星にも金星にも水たまりはないので、ハビタブルゾーンから除外して問題ないだろう、と思われるかもしれません。しかし火星と金星の事情をきいてみると、除外が妥当かどうか、少々あやしくなってきます

火星の地表は気圧が低すぎて、液体の水は存在できません。コップに液体の水を入れて火星の地面に置くと、沸騰して蒸発してしまいます。

けれども、もし火星が濃い大気を持てば、水は沸騰せず、液体として存在できます。数十億年前には、火星は濃い大気を持っていて、大洋や湖が存在したと考えられています。

金星は逆に大気が多すぎて、温室効果が強く働き、地表の温度は500℃近くあります。けれども金星の大気を減らしてやると、やはり液体の水が存在できるようになります。

つまり、恒星と惑星の距離が多少近かったり遠かったりしても、大気などほかの条件がうまく調節されていれば、海や水たまりや湖が存在することは可能なのです。

そうすると、宇宙生命をさがすには、ハビタブルゾーンにそれほどこだわることもないのでは、という気がしてきます。

 

宇宙生命はハビタブルゾーンの概念をぶちこわす

このようにハビタブルゾーンがせまく厳しくなっているのは、「地球とおなじ大気にくるまれた惑星が、海を数十億年間にわたって保持すること」を条件としているためです。

こう定義すると、数十億年前に大洋が蒸発してしまった火星なんかはハビタブルゾーンの外、ということになります。

けれども、このようなハビタブルゾーンの概念が発表されたのは1993年のことで、よその惑星はまだ1個も見つかっていませんでした。最初の1個が発見されたのは1995年です。

よその惑星が大量に見つかってみると、なかにはずいぶん太陽系と様子がちがう奇妙な惑星系も混じっています。木星サイズの巨大な惑星が細長い楕円軌道をえがく惑星系や、巨大惑星が恒星すれすれを周回する惑星系もあります。

どうも惑星というものは、誕生してから軌道が縮んで主星に近づいたり、惑星同士が重力でひっぱりあった結果、惑星系からとび出しそうに軌道が変わったり、ダイナミックに変化するようなのです。

わたしたちの太陽系のような惑星系は、珍しいというと言いすぎかもしれませんが、典型的ではないようなのです。

ハビタブルゾーンの外でも海が存在できたり、惑星軌道が延びたり縮んだりするのでは、ますますハビタブルゾーンの概念が疑わしくなります。宇宙生命の故郷惑星は本当にハビタブルゾーンに行儀よくおさまっているのでしょうか。

思えば宇宙物理学の発展は、人類の予想をくつがえす意外な発見の連続でした。井の中のかわずのような人類が、せまい井戸を見まわして大海を想像しても、常に宇宙はそのまずしい発想をとび越えて、驚きの姿をあらわしてきました。

宇宙膨張、宇宙線、クエイザー、中性子星(ちゅうせいしせい)、ダークマター、ブラックホール、そして最近はよその惑星と、宇宙的サプライズのリストは延々とつづきます。

宇宙生命はもうじき見つかるのではないかと思えるほど、最近の系外惑星研究の進展は目ざましいものがあります。しかし宇宙生命に実際に出会ってみると、それは逆説的ですが確実に、予想もしなかった姿をしていることでしょう。

地球しか合格しないようなハビタブルゾーンの概念をとび出し、生命に必要だと信じられていた種々の条件をけりとばし、地球生命とは代謝も分子構造も元素組成も歴史も環境もまるきりちがう、そういう生命で宇宙は満ちているかもしれませんよ。発見の日が楽しみです。

関連書籍

小谷太郎『宇宙はどこまでわかっているのか』

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宇宙はどこまでわかっているのか

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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