「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。
「悠々自適」はほどほどに
定年後は働かず、趣味や旅行を楽しみながら、悠々自適で過ごしたい。そう望んでいる人も多いかもしれません。
でも、私は健康である限り、人は死ぬまで働き続けるほうがいいと思っています。というのも、人間にとって働くことに勝る生きがいはないからです。
もちろん、趣味や旅行が悪いとは言いません。私自身定期的にゴルフを楽しみますし、妻といっしょに映画や旅行にも出かけます。どちらかと言えば、積極的に遊びを楽しむほうかもしれません。
しかしどんなに楽しくても、飽きずに楽しみ続けることはできません。一週間働くからこそ日曜日が楽しいように、趣味も遊びも仕事があるからこそ楽しいと思えるのではないでしょうか。
ロバート・デ・ニーロ、アン・ハサウェイ主演の映画『マイ・インターン』の冒頭に、このことを示す象徴的なシーンがあります。
デ・ニーロ扮するベンは妻に先立たれた70歳の男性。リタイアしたベンは観劇や旅行を積極的に楽しもうとしますが、何をやっても虚しい思いが拭えません。そこでベンは充実感を取り戻すにはやっぱり仕事しかないと、70歳にして再就職に挑みます。
このベンの行動が、働くことの重要性を如実に物語っているような気がするのです。
と言っても、ベンは新たな職場で要職を任せられるわけではありません。部長職まで経験した身でありながら、させられるのは若い社員たちからふられる雑務ばかり。おまけに仕事とは無関係な、男性社員の恋愛相談の相手までさせられます。
ところが、ベンにとってはそれさえもやりがいです。組織の役に立つならとどんなことも明るく謙虚に引き受けるうち、彼はやがて職場の人気者になっていく。こうしてベンは、ふたたびイキイキとした人生を取り戻していくのです。
こうしたやりがいは、趣味や遊びでは得られません。「生きがいになるほどの趣味がある」という人もいるかもしれませんが、人や社会の役に立つこと以上の充実感を果たして得られるでしょうか。
最初に述べたように、高齢者の働く基本はマイペースです。不愉快なことをイヤイヤ引き受けたり、老体に鞭打つような無理はいけません。
でも、そうでないなら多少面白くないことがあっても、ベンのように組織の役に立つことを楽しむような気持ちを持って、何らかの仕事をしたほうがいいと思います。
周囲から喜ばれ、自らもやりがいが感じられる働き方をすれば、悠々自適では得られない極上の果実が得られるはず。
それほどに労働とは、人間にとってかけがえがないものなのです。
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人生は理不尽
「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!
~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~