2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた、『怖いへんないきものの絵』。
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!
中野先生が容赦なくブッタ斬る様は、爆笑必至です。
今回早川さんが中野先生に提示した絵は、一見、かわいらしい『赤ずきんちゃん』♪
ですが、実はこの絵は、妖し~い意味合いを描いているのです。はてさて、二人の話はどんな展開に⁉
(※『赤ずきんちゃん』は全3回です)
* * *
『赤ずきんちゃん』ドレ
怖い動物、といえば何といってもオオカミだ。
童話、絵本、小説、映画、アニメ……。数えきれないほどのお話に、オオカミは「悪者」として登場してきた。獰猛(どうもう)でずるがしこいイメージは、もはや無意識に刷り込まれている、といっても過言ではなかろう。
そしてその原点は、やはり「赤ずきん」ではないだろうか。
赤ずきんのお話を知らない人はまずいるまい。「一人でどこへ行くんだい?」とオオカミが少女に語りかけている挿絵も、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。
だが、この絵は何だ。
赤ずきんちゃんだ。たしかに赤ずきんちゃんなのだが、何だか異様な印象をうける。
赤ずきんちゃんの恐怖の表情が生々しい。さらにはこのオオカミだ。
オオカミというと、牙(きば)を剥(む)き出して舌なめずりをしている、マンガ的なキャラクターを思い浮かべてしまう。
この絵の、タヌキ寝入りをきめ込むオオカミも、なるほど滑稽(こっけい)だ。だが、その一方で、何だかケダモノの匂いがぷんぷんと漂うようなリアルさがある。ベッドで寝返りをうって、こんなのが横に寝ていたら、総毛立つ。
「フランス語では、黄昏時(たそがれどき)のことを、『犬とオオカミの間』と呼びます」
――どういうことですか、中野先生?
「向こうから来るのが、無害な犬なのか、恐ろしいオオカミなのか見定めにくい暗さ、という意味です。恐怖をはらんだ表現なんです。
『ペスト・オオカミ・オスマントルコ』という言葉もあり、これは『地震・雷・火事・親父』のヨーロッパ版。日本では恐ろしい獣といえばヒグマですが、ヨーロッパでは何といってもオオカミだったのでしょうね」
――オスマントルコって、世界史に出てきましたが、そんなに怖い国なんですか?
「強大な帝国で、キリスト教圏にとって何世紀にもわたって脅威そのものでした。宗教戦争は熾烈(しれつ)です。ウィーンは二回も包囲されてますし、コンスタンチノープルは陥落して、イスタンブールになってしまいました」
なるほど、オオカミは、そんな強大な帝国に匹敵するほど怖かったというわけだ。
赤ずきんといえば、何といってもグリム童話だ。ではオオカミを悪役として世界に知らしめたのは、やはりグリム童話なのだろうか。
「グリムも有名ですが、それより前に17世紀フランスのシャルル・ペローが古い民話を集めて『ペロー童話集』を出版しています。彼はブルボン王朝の最盛期を築いた太陽王、ルイ14世に仕え、古代より今の方が優れていると、いわばルイ太陽王をヨイショした人でもあります。宮廷詩人でしたからね。
赤ずきんのイメージを決定づけたのは、ペローといってもいいでしょう。詩人なので、独創性に長(た)けていました」
―――宮廷詩人なんて、おべっかみたいなポエムを書いて、楽して生きてるみたいな気がしてましたが、そんな仕事もしてたんですね。
「主人公の少女に赤い頭巾をかぶせて『赤ずきんちゃん』と名づけたのは彼だといわれています。ちなみに、シンデレラにガラスの靴をはかせたのもペローです」
つまり素材の民話をきちんとストーリー立てし、「キャラクター設定」をしたのがペローだったというわけだ。
民話には生物と同じく、進化系統樹があると聞いたことがある。
民話は、語り伝えられるうちに、時代や地域に合わせて変化していく。逆にいうと、それを遡れば、祖先がわかるのだ。生物と同じような進化過程をたどるわけで「赤ずきんちゃん」と「オオカミと七匹の子ヤギ」は、原典は同じ話だという説もある。
(つづく)
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怖いへんないきものの絵
2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
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