どんな作家にもデビュー作がある。
それが華々しいときもあれば、静かな船出であることもある。
いずれにせよ、みな、書き出し、書き終え、世に問いたい、と願ったのだ――。
<今回の執筆者>
古川日出男(ふるかわ・ひでお)
1966年、福島県生まれ。小説家。1998年。小説『13』でデビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞、第23回日本SF大賞を受賞。2005年『ベルカ、吠えないのか?』が直木賞候補になる。2006年『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞。現在、雑誌「群像」に巨大な長編小説「おおきな森」を連載。
生=ライブの時代だった
記憶はどうして一杯にならないのか。どうして、何年も何年も前のことを憶えていられるのか? もしかしたら「ここ三年間のことを記憶した分、過去のどこかの三年間のことをすっぽり忘れる」のも合理的だったりしないか、と僕は思いもするのだが、記憶はどうしてだか、それなりに蓄積されつづける。いずれは、ここ三日間のことをすっぽり忘れ、さらに少し前の三年間のこと、三十年間のことを忘れ、という時期も来るのかもしれないが、いまの僕はそうではない。まだ《蓄積傾向》だ。考えてみると、不思議である。
デビューは二十年とちょっと前である。
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