新型コロナ対策も万全にしたいものですが、季節の変わり目は、ただでさえ体のバランスを崩しやすい時期。2000年の歴史を持つ中国医学では、季節によって影響を受けやすい臓器があると考えます。春に影響を受けやすいのは「肝」。体全体にエネルギーをめぐらせる働きと、使わない血をダムのように貯めておく働きを持つ臓器です。春、人の体にはどんな変化が起きるのでしょうか? よきバランスを取り戻すには? 薬膳料理家・阪口珠未さんの著書『老いない体をつくる中国医学入門』からお届けします。
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冬から春への大きな季節の変化の際に、体も大きく変化します。植物は根に溜めていた栄養を、芽吹きのために使います。溜めていたエネルギーを木の先にまで運ぶ、このエネルギーを回してめぐらせる働きをするのが、肝という臓器です。いわば、モーターのような働きです。
肝は将軍の臓器とも言われます。抑うつを嫌い、若い芽がすくすくと芽吹いていくように、自分が思ったとおりに、自由にエネルギーを広げていくのが、肝が好むことです。そのようにしてエネルギーを送ることで、全身を健やかにするのです。
しかし、ストレスや抑うつの強いライフスタイルを送っている人、すなわち肝が弱く、エネルギーの流れが悪い人は、思ったように気をめぐらせることができません。そのため、全身のあちこちで、気が詰まった状態が起きます。これが、春先に起こりやすい肩こりや、めまい、胃腸の閉塞感などの原因です。
肝は自律神経の働きとも関係しています。自律神経の働きが不安定になり、体調を崩す人が増えるのも、春の時期の特徴です。
肝がコントロールしている感情は「怒」です。
ですから、立春を越すと、イライラや怒り、情緒不安、抑うつ感が強くなる人が一気に増えます。
電車や街中で、怒っている人を見かけるのが多いのもこの時期です。
娘が小学生の頃から、警察署が不審者情報を知らせる防犯メールに登録しているのですが、春から初夏にかけてはメールの件数が増え、いつも「肝があばれてるんだなぁ」と思ったりします。
実際、世界的に見ても、春から初夏にかけては自殺者が増えるという報告があります。
春にエネルギーが高まるのは、植物の芽の部分です。タラの芽やふきのとう、ウド、うこぎなどの山菜、アスパラガス、クレソン、セロリなど、春に出回る苦さのある食材は、肝が気をめぐらせるのを助けてくれます。
また、セロリのアピイン、木の芽のα ― ピネン、春菊のペリルアルデヒドなどの芳香性の成分は、自律神経の働きを整えることが知られています。
老いない体をつくる中国医学入門
「毎日一握りのナッツを」「肉は骨つき・皮つきが基本」「食べても消化できなければ毒になる」等、2000年の歴史が証明する究極のアンチエイジングを、やさしく紹介。